後部硝子体剥離は加齢に伴い出現し、飛蚊症、光視症を引き起こします。
その症状だけであれば生理的範囲内ですが、そこから網膜裂孔、網膜剥離を生じることがあるため、必要に応じて眼科受診と治療を受けたほうがよいです。(必要ない場合もあります。)
今回の記事では
- 後部硝子体剥離の起こる平均年齢
- 後部硝子体剥離による自覚症状の頻度
- 網膜裂孔、網膜剥離を合併する頻度
- 合併症を起こしやすくするリスクファクター
- 飛蚊症のフォロー間隔の目安
などをまとめました。
後部硝子体剥離とは
詳細は上記ページをご覧いただきたいですが、後部硝子体剥離とは、硝子体が網膜から剥がれることを言います。網膜は眼球内の奥、後方から広がっているので、基本的に硝子体は後部から剥がれます。
後部硝子体剥離は網膜の外科的治療の疾患を理解する上で必須の概念ですので、最初は理解しにくいかもしれませんが、理解することで疾患や手術内容をよく理解できるようになります。
硝子体が剥がれることによって、
- 剥がれるときの網膜への牽引刺激により光視症を生じ
- 剥がれた後の強固にくっついた部分の濁りが飛蚊症として感じ
- 剥がれた際に血管が切れると硝子体出血に
- 剥がれた際に黄斑を強く牽引し孔があくと黄斑円孔に
- 剥がれた際に網膜に孔があくと網膜裂孔→裂孔原性網膜剥離に
- 剥がれた際に後部硝子体皮質が網膜に残存すると、黄斑上膜に
となります。
普通に剥がれるだけ(問題とならない、生理的範囲内)でも、飛蚊症や光視症は高確率に自覚します。
つまり、歳をとって後部硝子体剥離が起きたら、ほとんどの人が飛蚊症は感じるわけです。
それだけで眼科受診が必要か?と言われると、「必要ない」と思います。
ただし、飛蚊症が時間と共に増えたり、視界に見えにくい部位がでてきたり、物が歪んで見えたり、視界がぼやけるなどの、何か他にも症状がある場合は、すぐに眼科を受診したほうがよいです。
後部硝子体剥離の起こる年齢
約8000人のデータをまとめた研究では
- 後部硝子体剥離の平均発症年齢は63.8歳
- 女性のほうがわずかに若い年齢で発生しやすい
となっています。
グラフを見ると、40歳程度から後部硝子体剥離が起こりはじめ、80歳には大多数の人で既に起こっている状態です。
また、近視が強いほどPVDは若い段階で起こりやすく、約1Dの近視につき、通常より1歳若くPVDが起こるようです。
後部硝子体剥離に伴う自覚症状と頻度
- 飛蚊症・・・94.6%
- 光視症・・・44.9%
- かすみ目、霧視・・・8.3%
- 暗点・・・2.8%
となっています。
飛蚊症はほぼ必発です。歳を取ると、ほぼ全員白内障になるのと同様に、ほぼ全員後部硝子体剥離が起き、ほとんどの人が生理的な飛蚊症を自覚します。
後部硝子体剥離により生じる疾患
前述の通り
- 網膜裂孔
- 網膜剥離
- 硝子体出血
- 黄斑円孔など
などがあります。
網膜裂孔はレーザー治療、網膜剥離・硝子体出血・黄斑円孔は硝子体手術が必要になってきます。
後部硝子体剥離に網膜裂孔・網膜剥離が起こる確率
後部硝子体剥離はほぼ全員に起こるわけですが、ほとんどの場合は問題ない飛蚊症を生じて終わりです。
しかし、網膜剥離などの合併症を生じる場合が、以下の確率であります。
- 網膜裂孔(5.4%) 448 / 8305人
- 網膜剥離(4.0%) 335 / 8305人
約20~25人に1人の確率です。
リスク因子
- 男性
- 60歳未満
- 角膜屈折矯正手術歴あり
- 白内障手術歴あり
- 反対眼の網膜裂孔、網膜剥離の既往 オッズ比5.28(p<0.001)
- 網膜格子状変性 オッズ比8.03(p<0.001)
網膜裂孔や網膜剥離を生じるリスク因子としては上記があげられています。
特に反対の目に網膜裂孔や網膜剥離の既往がある場合、そのような目で網膜格子状変性を認めている目は、網膜裂孔・網膜剥離の危険度があがるため、予防的レーザー治療を行うことがあります。(「格子状変性があるだけ」ではレーザーはしないことが多いです。)
近視が強いほど網膜裂孔、網膜剥離が起きやすくなる
近視は後部硝子体剥離の際の、網膜裂孔、網膜剥離の発症リスクが高くなります。
- -6D以上の近視は、オッズ比1.96(p<0.001)
- -3D~-6Dの近視は、オッズ比1.48(p<0.001)
- -1D~-3Dの近視は、オッズ比1.25(p=0.037)
- +1D以上の遠視は、オッズ比0.47(p<0.001)
逆に遠視だと網膜裂孔、網膜剥離は起きにくくなります。
今回は後部硝子体剥離に伴う出現率であるため、網膜萎縮円孔の場合とは異なりますが、萎縮円孔も近視の人のほうが出現しやすいため、総じて近視は網膜裂孔、網膜剥離が出現しやすくなると言えます。
飛蚊症のフォロー間隔の目安
- 当初合併症がなかったPVDのうち、1.8%に網膜裂孔、0.7%に網膜剥離を認めた(晩期合併症)
- 晩期合併症の中央値は初診から22日後で、70%は6週間以内に発生した
との記載あり、飛蚊症を自覚した際は、3~6週間程度は自覚症状に変わりがないか注意し、眼科受診した際の再診日は1か月以内程度がよいと思います。
まとめ
- 後部硝子体剥離は60歳前後で生じることが多い
- 後部硝子体剥離が起こると飛蚊症をほぼ自覚する
- 約95%は飛蚊症のみで問題なし、約5%に網膜裂孔、網膜剥離を生じる
- 近視が強いほど網膜裂孔・網膜剥離は生じやすい
- 網膜裂孔・網膜剥離・硝子体出血などを生じた際は、レーザー治療や硝子体手術が必要
心配なら眼科を受診すればよいですが、
- 飛蚊症があるだけで
- 時間経過で特に見え方が変わりない
場合は、必ずしも眼科受診をする必要はありません。
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