【超重症緊急疾患】眼球破裂は治るのか?手術しても失明率は高い

眼科における超重症で緊急な外傷疾患の一つとして、眼球破裂があります。

眼球破裂は、眼球を打撲した際に、眼球壁に非常に強い圧がかかることが眼球壁が裂け、圧力によって眼内の内容物が眼外へ飛び出ている状態を指します。

強い圧がかかることで内圧が上がり、内部から破裂するように眼球壁が裂けるので、そのまま圧が逃げる(抜ける)までは眼球内部の物質(水晶体、硝子体、網膜など)が外に飛び出ます。

目を強く打撲したあとに、目から血が垂れるような状態は、眼球破裂を疑うので超緊急です。

目次

眼球破裂の定義と眼球穿孔との違い

まず、眼球は球状(ボール状)の閉鎖物体(中と外が隔たれている)であり、ケガにより孔があいてしまった状態を開放性眼外傷と呼びます。その孔のあき方、外力の加わり方で、眼球破裂と眼球穿孔に分けられます。

  • 開放性眼外傷(open globe injury):眼球壁(角膜もしくは強膜)の全層におよぶ創傷
  • 眼球破裂:鈍的外傷に伴う開放性眼外傷
  • 眼球穿孔(眼球裂傷):鋭的外傷に伴う開放性眼外傷

開放性眼外傷と対になる言葉として、閉塞性眼外傷(closed globe injury)という言葉もあるようですが、あまり使われません。

機序としては、眼球破裂は鈍的外傷に伴う眼内圧の急激な上昇により、眼球壁が裂けて破裂します。つまり内部からの圧力による破裂です。

一方、眼球穿孔は鋭利な物(小石や金属など)が眼球壁を貫いて生じる開放性眼外傷です。外部からの障害であり、鋭利な物質が眼内に残っている状態(眼内異物)、残っていない状態(眼球裂傷)、眼内に入ってさらに眼外へ飛び出した場合(二重穿孔)など、さまざまな状態があります。

眼球穿孔は穿孔した場所により、角膜穿孔、強膜穿孔と呼ぶこともあります。一方、眼球破裂は角膜破裂、強膜破裂と呼ぶことはあまり一般的ではありません。そもそも角膜からの破裂は角膜移植後などを除くと起こりにくく、強膜からの破裂が多いです。

眼球穿孔が若年に多いのに対し眼球破裂は高齢者に多いです。眼球穿孔は草刈り中の石や、金属の研磨作業中の金属片が飛んできて生じる一方、眼球破裂は高齢者の転倒で眼部をぶつけた際が多いですが、スポーツでボールなどが目に当たった際にも生じることがあります。

眼球破裂の予後が眼球穿孔より悪い理由

外傷のため程度はさまざまであり、どちらも視機能予後は悪いことに変わりはありませんが、より重症であることが多いのは眼球破裂です。

眼球穿孔は鋭的なもので眼球がスパッと綺麗に切れるため、組織の損傷が少ないものだと術後の視機能が良好であるケースもあります。穿孔した角膜が自然閉鎖するケースなどもしばしばあります。

一方眼球破裂は、眼球に強い圧がかかることで内圧が上がり、内部から破裂するように眼球壁が裂けるので、そのまま圧力が逃げるまでは眼球内部の物質(水晶体、硝子体、網膜など)が外に飛び出ます。また、裂ける範囲も大きくなりやすいです。

眼球破裂後の視力はどの程度になるか

眼球破裂の視力予後(治療してどれくらいの視力が見込まれるか)は、以下の眼外傷スコアでおおよその検討がつきます。

眼球破裂では、内容物が飛び出したり、眼内の強い出血などにより、基本的に視力はかなり下がった状態で受診されることが多いです。

スコアにて一番視力がよい状態で受診されたとしても、眼球破裂がある場合の視機能予後は、5段階中の3段階のレベルまで下がります。受診時に0.1未満の視力であることも多く、全体として視機能予後はかなり悪いです。

眼球破裂の好発部位

内圧が上がったときに裂けやすい部分から破裂します。

内眼手術(白内障手術、緑内障手術、硝子体手術、角膜移植手術など)を受けたことがある場合は、その際の手術創から裂けやすくなります。

手術歴がない場合、外眼筋の付着部位の強膜が薄いため、そこから破裂しやすいとされています。

特に衝撃が加わっているときは閉瞼に伴うベル現象で眼球が上転していることが多く、さらに外力に垂直方向へ眼球を変形させようとする力が加わるため、上方の角膜輪部や外眼筋(上直筋)付着部から裂けることが多いです。

眼球破裂の診断・検査所見

診断は外傷のエピソードと見た目が一番ですが、CTを併用し、その他の検査からも考慮します。外傷でなければ普通起こりません。

細隙灯顕微鏡による診察

外傷のエピソードがあり、著明な前房内出血、結膜下出血を認める場合には眼球破裂を強く疑います。

眼底検査

眼底が見えるほどのclearな所見であれば、眼底を確認しておきます。

CT検査

眼球穿孔の場合の眼内異物の確認、硝子体腔の出血の有無、眼球が虚脱していないか、の判断に使います。眼球穿孔による眼内異物が金属の可能性もあるため、MRIは禁忌です。

視力検査

患者さんは時間外に来ることも多く、詳細な評価は難しいかもしれませんが、OTSによる視機能予後をある程度判断するために、ある程度の評価はしてもよいと思います。(程度がひどい場合はしなくてもよいです。)

眼圧検査

必ずしも必要な検査ではありませんが、開放部から内容物がでることで低眼圧になっていることがあります。しかし、結膜が覆っている場合などでは、出血したことにより眼圧が保たれていることもあります

検査時に強く圧力をかけることは、内容物の更なる脱出を惹起する可能性があるため、行ってはいけません。なので、無理にやらなくてもよいです。

治療、手術内容

治療の手順としては、

  1. 第一に開放創の閉鎖を行うこと
  2. 第二に感染を予防し必要に応じて眼内の手術を行うこと

になります。

眼球破裂の場合は角膜や強膜が裂けているため、裂けている範囲を確認し、そこを縫合する手術になります。

強膜からの破裂の場合、結膜を全周性に切開し、直筋に制御糸を掛け、十分な範囲の強膜を確認する必要がある一方、手術操作で圧をかけると内容物がさらに脱出することもあるため注意する必要があります。

縫合は角膜であれば10-0ナイロン、強膜であれば6-0や8-0ナイロンやバイクリルなどで縫合します。

硝子体手術の目的は出血の除去、網膜の復位・再建、異物の除去、感染対策などがあります。感染性眼内炎に準じた抗菌薬の使用を行うことが多いです。

一期的手術か二期的手術か?

開放性眼外傷は、

  1. 開放創を閉じる手術
  2. 眼内の手術

の大きく2つのことを行う必要がありますが、それを一度に行うか(一期的手術)、別の日に改めて行うか(二期的手術)に関しては、意見が別れるところです。

術者の技量と外傷の程度によって、できそうであれば一期的に行うこともありますが、難しい場合は二期的に行うほうがよいでしょう。

二期的に行うメリットとして前眼部炎症、角膜の混濁や、脈絡膜出血が落ち着き硝子体手術がやりやすくなる可能性があり、その場合は1-2週後に2回目の手術を行うこともあります。

デメリットとして網膜剥離などがある場合は悪化する可能性、増殖硝子体網膜症の悪化、角膜染血など、悪化して手術がさらに困難になる可能性もあります。また眼球穿孔による眼内異物がある場合には、なるべく早く取り除いたほうがよいでしょう。

要するに、よくなる可能性も悪くなる可能性もあります。しかし術野が悪い状態ではやはり手術は困難でもあるため、結論としては術者の技量と外傷の程度で判断するしかありません。

手術は全身麻酔か?局所麻酔か?

可能なら基本的には全身麻酔の方がよいです。局所麻酔薬による眼球周囲からの圧力で、さらに悪影響を及ぼす可能性があるためです。

ただし明らかに穿孔部が分かっていて、小範囲の縫合で済むような場合は局所麻酔でも問題ありません。

しかし実際の創部の範囲はわからないことも多く、基本的には全身麻酔推奨です。

最悪、目を取る場合もあります

  • 裂けている範囲があまりにも広範な場合
  • 眼球内容物があまりにも飛び出してしまっている場合

など、縫合するにも難しい場合、縫合しても眼球ろうとなる可能性が高い場合、その他さまざまな事情などにより、最初から眼球摘出・眼球内容除去とする場合もあります。

そうなる可能性もあるため、基本的には全身麻酔のほうがよい手術です。

まとめ

  • 外傷後に目から血が垂れるような状態(前房内出血、結膜下出血)は眼球破裂を疑う
  • 視力の予後は非常に悪い(手術をしても失明レベルに視力になる可能性がかなり高い)
  • 高齢者の転倒による打撲が多い
  • 最悪、眼球摘出手術をすることもある

目をケガすると大変なことになります。

高齢者の転倒、酔っぱらったときの転倒などが契機になることもあります。

できるだけ転ばないように、転ぶときはできるだけ目を保護するようにしましょう。

眼球破裂,眼球穿孔Ⅰ.眼外傷|眼科 62巻 11号 pp. 1049-1053(2020年10月)
眼球破裂時の対応|臨床眼科 77巻 11号 pp. 265-270(2023年10月)

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