白内障手術における目標屈折値の設定の仕方と目安

以前、強度近視の人の白内障手術における内容を書きました。

今回は全般的なことをまとめて書きます。

目次

患者さんの希望を優先しつつ助言を

  • 患者さんの希望を優先に
  • ただし見え方に違和感を感じる可能性が高い度数を希望の場合は助言を
  • 希望が出せない患者さんにはこちらで選択を

希望の度数が問題ない場合はその希望通りにして、それ以外の場合は医療者としての経験と知識から、オススメのレンズを決めていきましょう。

単焦点レンズか多焦点レンズか

まず、保険適応の手術かそうでないかで値段が全然違うので、単焦点か多焦点かは決めなくてはいけません。

基本的には単焦点レンズを用いることが多いですが、患者から多焦点レンズの希望がある場合はもちろんのこと、そのような話がなくても簡単には多焦点レンズのことを説明しておかなくてはいけません。

基本的には多焦点は

「できるだけメガネをかけたくない人」向けのレンズです。

メガネをかけてもよいという考えの人は、単焦点で問題ないと思います。

特殊レンズを使うかどうか

通常の白内障手術と同じ保険診療ができる多焦点レンズ(レンティス)や、焦点拡張効果のある単焦点レンズ(アイハンス)などを選択するかどうか。

私自身は積極的には使っていませんが

  • メガネをあまり使いたくないけど保険で手術で行いたい人

には選択肢の一つになると思います。これらのレンズを使うときは、特殊なレンズとして簡単にではありますがレンズの特徴をお伝えします。乱視矯正トーリックレンズを使う際は、あえて説明しなくてよいかと思います。(勿論した方がより丁寧でよいことだと思います)

その他の通常の眼内レンズにおいて、どのメーカーのレンズを使うかなどはいちいち説明しなくてよいですし、その点が気になる患者さんはめったにいません。ただし開業医などでは使用しているレンズメーカーが限られていることも多いので、この会社のレンズを使っているということを説明書の中に入れておいてよいかと思います。

屈折値の目標

  • 遠方
  • 近方
  • 中間
  • 多焦点

単焦点においては遠方、近方の2種類が多いと思います。

ただし中間距離で快適に生活されている方はいらっしゃいます。

多焦点の場合は基本的に遠方に狙います。中間や近方はそのレンズの特性で勝手にある程度見やすくなります。

大まかな目標屈折値の設定と細かな設定

  • 遠視→±0D~-0.5D狙い
  • 正視→±0D~-0.5D狙い
  • 近視→同じ度数か、-3Dより強い近視の場合は-3D付近、もしくはその他の希望に合わせて

元々の遠見裸眼視力が悪くない人の場合は、術後遠見裸眼視力がよく出たほうがよい(裸眼視力も下げないほうがよい)ため、できるだけ±0Dに近い値を設定します。そうではない場合は、-0.5D前後で問題となることはあまりありません。

近視の人は同じ程度の度数か、強い近視の場合は弱める目的で-3D前後にします。反対眼が強度近視の場合は術後の屈折値の左右差で不同視が生じるリスクはありますが、強度近視を残すメリットはないので、近視を弱めた上で不同視を生じた場合は反対眼の手術をお勧めすることが多いです。

近視の人でも裸眼で遠くが見えるようにしたい人はいるので、その場合は遠視や正視の人と同様に±0D~-0.5Dを狙うこともあります。ご希望に合わせます。

遠視や正視の人でピントを近方に合わせたいという人はかなり少ないですが、自身の生活環境から稀にそういう人もいらっしゃいます。また、患者さんのADLを考えてあまり遠くが見える必要がない人は、-1D前後の屈折値を狙うのもありだと思います。

-1D前後はある程度遠くも近くも見えて、メガネなしで満足されている人はいます。メガネをかけたくないけど単焦点がよい人、運転しないような人であれば選択肢としてありだと思います。

また、網膜色素変性症などで視野がかなり少なく、術後の矯正視力も大きく改善しないであろう人の場合は、日常生活で使う視機能をよく考えた上で屈折値を考えたほうがよいです。例えば普段から拡大読書器を用いているような視覚障害者の患者さん(近くで拡大して文字を見ている人)に、元々遠視だからといって遠方にピントを合わせるのはあまり得策ではありません。近くの文字を見るために、拡大だけでなく、遠視のボケを治すために矯正メガネも必要となってきしまいます。そのような場合は近方に合わせたほうが喜ばれる可能性が高いです。

度数設定の前準備

  • 屈折値
  • 眼軸長
  • 裸眼視力

この3項目を確認します。

屈折値は目標屈折値の大まかな度数を決めるのに用います。眼軸長はその屈折値が眼軸から考えて妥当性があるかの確認と、レンズ度数をより詳細に決めるために用います。裸眼視力は意外と大事で、遠視の人でも調節力が多少残っていると、裸眼視力で1.2以上出ている人がいます。そのような人で(緑内障発作予防のために)白内障手術をする場合、できるだけ0Dに近い度数を狙って裸眼視力を下げないことも大切です。

遠視にはならないようにする

遠視はどこにもピントが合っていない状態です。

したがって屈折値を±0Dよりプラス(遠視側)で設定するのはあまりお勧めいたしません。多少は問題ありませんが、大きくプラス域に設定することは普通行いません。

遠方を狙う場合でも、±0D(正視)を限界としてそれ以上のプラス値になる場合は度数を一段階変えて、マイナス側で設定しましょう。

ただし先に述べた、裸眼視力をできるだけ下げたくない場合で、度数を変えると目標屈折値が0Dから結構マイナス度数になってしまう場合には、多少プラスよりの度数を選択してもよいと思います。

硝子体手術と白内障手術を同時に行う際

硝子体手術単独で行い白内障手術をしない場合(水晶体を温存する場合)は、核白内障の進行によって近視化する傾向があります。

一方、硝子体手術と白内障手術を同時に行う場合も、術前の予測屈折値からわずかながら近視化するとされる報告が多いです。

具体的には0~0.2D程度近視化するとされます。

近視化する原因としては

  • 術中の強膜圧迫による後部Zinn 小帯の脆弱化
  • ガスタンポナーデによる水晶体嚢の後方からの圧迫
  • 術後炎症から生じた毛様体浮腫
     などから起こる IOL の前方移動
  • 硝子体が房水に置き換わることの屈折率の変化

などが考えられています。

硝子体手術併用の際は、わずかにプラスよりの度数を選んでもよいと思われます。

自動車運転の有無の確認

白内障手術患者に限らず、眼科を受診する視力低下のある患者さんには必ず聞く項目です。(若手の人は忘れがちですが必ず聞いてください)

  • 普通車の運転をするのであれば、片眼0.3以上、両眼0.7以上
  • 大型を運転するのであれば、片眼0.5以上、両眼0.8以上

の視力が必要と決まっています。

裸眼視力が低いと運転時に眼鏡等が必要になってしまいます。

メガネをかけることに負担を感じない人であればそこまで気にしなくてよいですが、「裸眼で運転したい」という人にはできるだけ正視(0D)に近くなる屈折値の設定が必要です。

角膜乱視が強ければ、合わせて乱視矯正も行ったほうがよいです。透過球面度数で-0.5D程度なのに、裸眼視力が低いことは多々あります。

パターン別 屈折値の目標例

以上が私自身が患者さんのレンズや度数を決定するのに考えていることです。正しい正しくないかは人によるので何とも言えませんが、多くの医者がこのように決定していると思われます。

続いて例をあげてIOLの度数設定を紹介します。

正視~遠視、術前裸眼視力0.5以下

-0.5D程度を狙います

正視~遠視、術前裸眼視力0.8以上

できるだけ0Dに近いマイナス度数を狙います

裸眼で運転したい人

できるだけ0Dに近いマイナス度数を狙います

強度近視、片目の白内障による視力低下

-3Dを狙います

術後、元々の眼鏡が合わなくなるので早めに眼鏡作製を勧めます

術後の不同視で辛い場合は反対眼の手術も検討します

強度近視、両眼白内障による視力低下

両眼とも-3Dを狙って、日にちを大きくあけずに予定します

術後、元々の眼鏡が合わなくなるので両眼術後に早めに眼鏡作製を勧めます

浅前房、緑内障発作予防目的の手術で裸眼視力1.2

できるだけ0Dに近いマイナスよりを狙います

白内障が強すぎてデータの信頼度が低い人

光学式でデータが取れない場合は、超音波Aモードの値を参考にします

さらに昔の視力の左右差の確認、メガネがあればその度数の左右差の確認

さらに反対眼のデータが正確に取れるのであれば、術眼のAモードだけでなく非術眼の光学式のデータも参考にします

日常生活活動範囲が狭く、メガネ作成をしないで済むほうが良い人

-0.5D~-1D前後を狙います

その他

-0.5D前後を狙って、後々はメガネで調整してもらう

まとめ

  • まず多焦点希望がないかの確認 →希望あれば多焦点検討
  • 裸眼で運転免許更新希望があるかの確認 →希望あればできるだけ正視狙い
  • メガネかけることになっても大丈夫かの確認 →大丈夫なら多少の誤差は許容
  • 強度近視は残さず近視を弱めることを勧めるが、希望に合わせて
  • 強くない近視の場合は、そのままの度数か、希望に合わせて
  • 正視~遠視の人は、0D~-0.5D程度を狙う

だいたいこんな方針になります。

参考にしていただければ幸いです。

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