スマホ白内障・・・そんな分類の白内障はありません。
スマホ白内障が増えているという科学的根拠もありません。そういう意味では、タイトルの内容はデマです。先日「スマホ白内障」という用語をニュースで見て、「なんて不確かな情報を発信しているのだろう」と思ったため記事にしています。
【なぜ】宮本亞門さんも緊急手術“スマホ白内障”とは 増加する“若年性”に医師「片方の目におこるのが特徴。急激に進行」放っておくと失明の恐れも【ソレってどうなの?】 引用:YAHOO!ニュース(2025/2/5)
※記事は削除されていました
デマとは言いましたが、スマホの長期使用が白内障に影響しないかどうか、という意味では確実なことはわかりません。それは医学会においてそのような報告や研究がないからです。ただし、スマートフォンやPC画面を長時間見続けることで眼や身体に不調を起こすVDT症候群(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル症候群)という疾患概念もあることから、あまりにもスマホを見続けることはオススメしません。
今回は上記ニュースの内容に関するコメントと、実際の統計データからのまとめたものを解説します。
スマホ白内障ニュースの内容へのコメント
以下、引用した文章にコメントを記載します。
>ネット上では“スマホ白内障”とも呼ばれていて、近年、注目を集めています。
「スマホ白内障」と検索しても、上記ニュースくらいしか出てきません。注目されているとは思えません。※記事は削除されていました
>因果関係はなんともいえないが、最近パソコン・スマホを使われる方の白内障が増えていることはたしか。両方の目ではなく、片方の目におこるのが特徴。スマホをよく使う人で片眼性の白内障が増えているのは、まぎれもない事実。
医者の解説は切り取られている可能性もあるかもしれませんが、「まぎれもない事実」では全くありません。「個人の感想」レベルです。医学的には個人の医者の感想は、エビデンスレベルでいうと最下位のものになります。「因果関係はなんともいえない」のに「増えていることはたしか」、「まぎれもない事実」という日本語もよくわからないです。
>若い人の白内障は急激に進行します。見えづらくなって受診されて「手術を考えましょう」と言っている1〜2週間のうちにレンズが真っ白になってしまい、緊急手術を受けなくてはいけない患者も時々いる。
若い人の白内障が早く進行する「こと」もありますが、基本的にはそんなことはありません。1-2週で進行して真っ白になる白内障の多くは外傷性であると推察します。「緊急手術」という用語は眼科においては個人的に当日、数時間以内の手術を想定してしまいますが、真っ白な白内障だけで緊急手術になることは普通ありません。融解して溶け出しているような状態では緊急でも行います。
>スマホ以外にも、アトピー性皮膚炎や花粉症、アレルギー性結膜炎などで目をこすることが原因の1つとして考えられているそうです。
スマホ以外にも、というかスマホは現状原因としては考えられていません。この記事内や、一部の医者の頭の中でそのように思われているだけです。後半のアトピー性皮膚炎は白内障のリスクが上がりますし、目をこする・叩くなどは外傷性白内障になるリスクが上がります。
>白内障を放っておくと他の病気になる可能性もあるといいます。~~~ 急性緑内障発作をおこして、眼圧により失明することがある。アトピーの方は網膜剥離など別の病気を持っていて、それが原因で見えなくなることもあり得る。
高齢者において浅前房を認める白内障を放置すると急性緑内障発作の危険があるため手術をしたほうがよいですが、前房が深い場合は問題ありません。アトピー性皮膚炎では網膜剥離のリスクも上がりますが、白内障と網膜剥離は直接関係はないと思います。
若年性白内障とは?
通常白内障は加齢に伴い出現するものなので、若くして白内障になった場合を指す意味でネット上では使われているようですが、こちらも正式名称としては存在しません。
日本眼科学会が出している眼科用語集にも存在しませんし、医書.jpで検索しても1ページ目には出てきませんし(それ以降は見ていません)、医中誌WEBで検索すると少し出てきますが眼科以外の科での報告が多いです。pubmedでjuvenile cataractと検索するとちょこっと引っかかりますが、「若い人に起こった白内障」というぼんやりとした概念です。
若年で白内障になる多くは、先天白内障、アトピー白内障、外傷、ステロイド白内障、その他全身疾患に伴うものが多く、原因がはっきりわかる場合は、その原因による白内障と記載するため、若年性白内障という記載はしません。
ちなみに記事にあった宮本亜門さんは生年月日が1958年1月4日で67歳のようです。この年齢で白内障手術を受ける方はたくさんいらっしゃいますので、若年性とは言い難いと思います。個人的には50歳未満で白内障手術を受けていると、若いうちに手術したんだな、と思います。
若い人に白内障が増えているか?
高齢であっても若くても問題にならない程度の白内障は必ずしも治療はしません。そこで今回はNDBオープンデータにおける白内障手術件数から確認しました。確認できる一番古い年度2年分のデータ(2014,2015年度)と、最新の2年分のデータ(2021,2022年度)を比較しました。
結果です。白内障手術総件数は
- 2014年度 141万件(男61万件、女80万件)
- 2015年度 120万件(男52万件、女68万件)(+26万件?)
- 2021年度 154万件(男69万件、女85万件)
- 2022年度 168万件(男74万件、女94万件)
※2021年度のみNDBオープンデータのエクセルデータのまとめ方がやや異なり、実際の件数が異なる可能性があります。
白内障総手術件数のうち、60歳以上が占める割合は、
- 2014年度 男91.3%、女94.8%
- 2015年度 男92.6%、女95.4%
- 2021年度 男90.9%、女92.4%
- 2022年度 男91.1%、女94.2%
上記から逆算し、白内障手術件数のうち、60歳未満が占める割合は、
- 2014年度 男8.7%、女5.2%
- 2015年度 男7.4%、女4.6%
- 2021年度 男9.1%、女7.6%
- 2022年度 男8.9%、女5.8%
白内障総手術件数のうち、50歳以上が占める割合は、
- 2014年度 男97.1%、女98.9%
- 2015年度 男97.5%、女99.1%
- 2021年度 男97.2%、女98.9%
- 2022年度 男97.4%、女99.0%
上記から逆算し、白内障手術件数のうち、50歳未満が占める割合は、
- 2014年度 男2.9%、女1.1%
- 2015年度 男2.5%、女0.9%
- 2021年度 男2.8%、女1.1%
- 2022年度 男2.6%、女1.0%
となりました。
50歳未満、50歳以上で考えると7-8年前のときと年齢分布はほぼ変わりありません。60歳未満、60歳以上で考えるとごく僅かに50歳代での手術が増えているかもしれませんが、明らかに「増えている」と言えるほどではないと思います。また、手術件数が増えているだけで若い人の白内障自体が増えているとかどうかも明確ではありません。(白内障が増えていなくても白内障手術をすれば件数はカウントされます。手術をする基準を甘くすれば件数は増えるということです。)また、増えていたとしても、これだけでスマホが原因とは言えるはずもありません。
まとめ
- スマホ白内障は造語。科学的根拠はないため必要以上に心配しなくてよい
- スマホが目に与える影響はある。VDT症候群やスマホ内斜視など
- 過去10年程度の期間では、若年の白内障が増えているかははっきりしない
今回の件もそうですが、現代では医療情報・健康情報はネット上にたくさん載っていますが、怪しいものはたくさんあります。医学が完璧であるわけではありません。現在までに多くの患者さん・治験参加者などの協力を得て、科学的データとして推奨されることを行うことが医療です。医学でもわからないことがたくさんある中で、よくわからない人やインフルエンサーなどが自信満々で勧めるような商品や治療、手術などにはすぐには飛びつかず、一旦考えることも重要ですね。今回の話は眼科医という専門家でありながらの発言ですから、関係者じゃない人からしたら一体何を信じたらいいのかという話にもなりますけどね・・・。
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