医学的根拠があれば正しい?研究デザインとエビデンスレベルについて

「医学的根拠はあるのか」

そんな言葉がコロナ禍以降、より使われるようになってきた気がします。

「根拠」があれば、一見正しい情報のようにも思えます。しかしその「根拠」の程度によって、それっぽいだけで全然正しいか不明な情報もいっぱいあるのが現実です。

今回の記事では

  • 医学的根拠とは何か
  • 医学的根拠が強い研究は何か(エビデンスレベルと研究デザイン)
  • 医学的根拠があれば正しいのか

このようなことを書いていきますが

結論としては

  • 医学的に正しいかどうかは、エビデンスレベル・研究デザインによる
  • 医学的根拠は、現時点で「医学的」に正しいとされている情報
  • 統計(≒確率)的に医学的に正しいだけで、全ての人に当てはまる訳ではない
  • 医学的に正しくても、その人の状況・環境によっては不適切なこともある

です。

目次

医学的根拠とは

医学的根拠、医学的エビデンスは、「医学的にもっともらしい」ということです。

医学的根拠のある内容とは、医学的にもっともらしい内容ということで

医学的にもっともらしい内容はどのようなことかというと、

基本的には、統計データから導き出された、有効性の高い治療や結果(有意な結果)のことを指します。

医学的根拠として求められる治療は、「その治療法が、どのくらいの確率で有効なのか」という点で考えられています。

つまり統計的に・確率的に、より良い結果が得られた治療(有効な治療)が、医学的根拠のある治療となります。

勿論そこに「どのくらい安全で」という点が含まれますが、

安全性を踏まえた上で「どれくらい有効か」ということを、統計学的に導き出すこと、導き出されたものが、医学的根拠が強い内容ということになります。

統計学的な話なので、医学的根拠があるもの=すべての人に当てはまること ではありません

根拠にもとづく医療

「根拠に基づく医療」evidence-based medicine:EBMという言葉があります。

これは上述の医学的根拠に基づきながら行う医療のことですが、大事なのは

根拠をもとにしつつも、患者さん一人ひとりの特性(病状、生活環境、金銭面、他、さまざまな要因)を考慮した上で、治療を行っていくのが実際の医療です。

以下は医学的根拠、根拠に基づく医療に関しての引用です。

しかしながら,多くの臨床医にとってのエビデンス,証拠とは,以前に担当した患者で効果的だったと記憶している戦略や,指導者や同僚から受けた助言,ならびに偶然選んだ学術論文,抄録,シンポジウム,および広告に基づいて得た「一般に行われていること」についての大まかな印象が漠然と組み合わさったものである場合が多い。~(中略)~異なる国,地域や病院の間で,また個々のグループ診療の中にさえ,ばらつきが存在する。こうしたばらつきをなくすため,個々の患者に最も適切な戦略を同定するためのより系統的なアプローチが求められるようになり,そのアプローチこそがエビデンスに基づく医療(evidence-based medicine[EBM])と呼ばれているわけである。EBMは関連する医学文献のレビューに基づいており,一連の手順を踏んで行う。

エビデンスに基づく医療と臨床ガイドライン|MSDマニュアル プロフェッショナル版

「医学的根拠」と調べると以下のようなものが出てきました。

医学的根拠は、直感派、メカニズム派、数量化派の三つに分類できる。直感派は医師としての個人的な経験を重んじ、メカニズム派は動物実験など生物学的研究の結果を重視。そして数量化派は、統計学の方法論を用い人間のデータを定量的に分析した結果を重視する

医学的根拠とは何か|津田 敏秀 著 岩波新書(2013/11/20)

言いたいことは、なるほどな~とわかりますが

現代における医学的根拠は、普通は統計学的に得られたものを指しますので、上記引用の「数量化派」になります。

「直感派」は医師の個人的経験ということで、対ヒトとしての根拠としては一番低いですし、「メカニズム派」の動物実験は人間に当てはめてすらいない段階なので、もっと下です。(後述のエビデンスレベルの項で説明します)

医学的根拠があるものとは、統計学的に有効な結果が得られたもの(有意なもの)

その根拠をもとに、患者さん一人ひとりに合わせた医療を行う

根拠があるもの=すべての人におすすめな内容 ではない(確率的な問題)

エビデンスレベルと研究デザイン

エビデンスレベルとは、根拠のレベル、つまり、より医学的に有効だと思われる度合いのことを指し、エビデンスレベルが高いものほど、より統計学的に有効性が示されている内容、ということになります。

その根拠のもっともらしさというのは、研究の仕方によって変わってきますので

医学文献があるからといって、すべてが信頼できるデータとは限らないです。

以下に医学研究において、信頼性が高い順に記載します。

  1. a.システマティックレビュー
    b.ランダム化比較試験のメタアナリシス
  2. ランダム化比較試験(RCT)
  3. 非ランダム化比較試験
  4. a.疫学研究(コホート研究)
    b.疫学研究(症例対照研究、横断研究)
  5. 記述研究(ケースシリーズ、症例報告)
  6. 専門家の意見(専門家個人、専門家委員会含む)
    ───────────
  7. 動物研究
  8. in vitro(試験管)研究

上に行くほど医学的根拠におけるエビデンスレベルが高い

②のランダム化比較試験は研究の中ではエビデンスレベルが高い(信頼性が高い)とされ、そのランダム化比較試験をいくつか集めてまとめたものが①bのメタアナリシスです。つまり更に信頼性が高くなります。

さらにそういったメタアナリシスなどもまとめて、疾患やその治療など、ある分野に関して「体系的にまとめました!」というのが①aのシステマティックレビューです。一番信頼性が高いものになります。

こういったメタアナリシスやシステマティックレビューを元に、各団体が診療ガイドラインなどを作成したりして、診療・治療の指針として使います。

しかし症例報告や試験管研究、動物研究が全く信頼性がないもの、ということではありません。

症例報告があって初めて「こんな病気の人、こんな珍しい人がいる」ということが医療者間に認知され、それらのデータが集まって病気の傾向などをデータ化してまとめていくため、症例報告は研究の基本的な立ち位置であり、重要かと思います。

また薬というのは、

  • 試験管的に理論的に使えるものかどうか(in vitro研究)
  • 実際に動物に使ってみてどうか(動物実験)
  • それを人に使ってみて効果があるのか

という手順を通して開発されていきます。

理論的に良いもので試験管内での実験でも良い効果が出たものでも、生物の中での反応はものすごい複雑化し、思う結果が得られないことも多々あるのです。

最終的には、人での効果があるものがよいものとされますが、そもそも理論的におかしいものは開発されません(知りませんが)

「この薬、どういう理屈か知らないけど、すごくよいんですよ~」

と医者が言っていたら信頼できませんよね。

製薬会社がそんなことをいって薬の紹介をしてきたら、誰も話すら聞きませんね。

システマティックレビュー、メタアナリシスのエビデンスレベルが高い

推奨度・推奨グレード

こういったさまざまな研究から得られたデータをまとめてみて、「どの治療がどのくらいおすすめか」というのを記号で記載したものが、推奨グレードや推奨度です。

「〇〇疾患診療ガイドライン」みたいなガイドラインには載っていることが多いです。

この推奨グレードや推奨度は、関連する団体ごとに多少異なっていることがありますが、大体以下のような感じです。

エビデンスの強さ

  • A(強):効果の推定値に強く確信がある
  • B(中):効果の測定値に中程度の確信がある
  • C(弱):効果の測定値に対する確信は限定的である
  • D(とても弱い):効果の測定値がほとんど確信できない

推奨度

  • 1:強く推奨する(recommend)
  • 2:弱く推奨する、提案する(suggest)

これらを合わせて、1A、2Cなどと記載したりします。

1Aであれば「その治療の効果はかなり有効性が高いもので、強く推奨される治療法である」ということです。

しかし、繰り返しになりますが、すべての人にとって正しい治療法を示しているわけではありません。

統計から得たデータに過ぎないので、あくまで「効果が出て良い状態になる人が多い」ということになります。

医学的根拠、エビデンスレベルが高ければ正しいのか?

医学的根拠、そのエビデンスレベルが高い内容なら、信頼性は高いです。

ただし、すべての人に当てはまる、正しいことではありません。

そもそもが統計学的な話なので、「すべての人に良い結果のもの」というものはありません。

しかし統計的に有効なことが多いものがエビデンス、医学的根拠となるので、基本的にはそれを元に医療を提供しているのが実際の臨床です。

また、一見正しそうに見える研究でも、さまざまな要因で信頼性が低いものもあります。

統計学的な影響

統計学的には「有意差がある」か「ないか」を評価することが多いのですが

有意差はそのデータの母数の大きさによって、少しの差で有意差がでたり、大きな差じゃないと有意差がでなかったりします。

「有意差が出たから正しい内容だ」と安直過ぎると統計学的なマジックにかかっているだけかもしれません。

p値がいくらなのか、をしっかり確認することが大事です。

医学統計の基礎を学ぶには以下の書籍がおすすめです。

非常に有名ですが、わかりやすく優しく書いてあり、1-3巻シリーズものになっています。

有意差はあくまで統計的な結果にすぎないこと

論文が掲載された医学雑誌はどこか

実績のある医学雑誌に載っている論文かどうか、ということです。

研究デザインによる信頼性があることを話しましたが、その研究論文がどの医学雑誌に載っているのかも重要な情報の一つです。

医学雑誌にはインパクトファクター(通称、IF)という、簡単に言うとどれだけ他の論文で引用されたか、という評価基準があります。

論文がたくさん他の論文でも引用されると、その論文自体の評価が上がります。

そのような論文をたくさん掲載している医学雑誌は、IFが上がり評価があがります。

IFが高く評価の高い医学雑誌は、その業界の大御所になるわけです。

大御所は、なんでもかんでも、簡単には論文を受理してくれません。しっかりとした研究手順で、ためになるような結果が求められます。

そこに自身の論文が受理された場合は、その論文自体の功績が認められた、ということになります。なので、医者、研究者たちはみんな、IFの高い雑誌に投稿したがり、受理されることを目標頑張ります。

逆にIFの低い、実績が乏しい医学雑誌には、論文は載りやすいです。

かと言って、支離滅裂な内容を乗せて自身の雑誌の評価を下げてもよくないですから、あまりに酷い内容では却下されますが

IFが高い雑誌に載っている論文のほうが、より信頼度は高いと思われます。

論文がIFの高い雑誌に載っているかどうかも一つの目安

利益関係のある研究結果

その研究が、他の団体と利益関係にあるのかないのかというのは重要な点の一つです。

例えば、薬の効果を評価する研究や、ある企業との共同開発した製品の有効性を示す研究などは、研究結果によって膨大な金額が動くことになります。良い結果が出てそれがヒットして売れればすごい利益を上げられるし、こければ開発費などでマイナスになります。

企業の根本は、利益を出すことです。良い製品、良い薬を作って、利益をあげて会社を大きくしていく。これが基本です。利益をあげない企業は大きくなれませんし、新たな開発なども行えません、場合によっては縮小し、つぶれます。

だから他社の製品、薬と比較して劣らない、より優れたものを作っていき、結果的にそれが社会にプラスになったり、患者さんにプラスになる、という感じでしょうか。

もちろん利益を一番の目的としておらず、良い製品を作って結果的に利益をあげている、というパターンもあるでしょうが、会社としてやっていく上では売れる商品を作れないと、始まらないということです。

ということはですよ

利益が絡んでいる研究って、あやしいものもある可能性がある、ということですね。

実際に過去にはその不正が問題となって、研究における倫理や規制が強化されています。

現在では研究者と利害関係のある関係者は全て公表しないといけないですが、不正は減ったにせよ、利害関係があること自体はたくさんあります。

まとめ

  • 医学的根拠があるものとは、統計学的に有効な結果が得られたもの
  • 根拠のレベルにもいろいろある(すべてが信頼できるデータとは限らない)
  • エビデンスレベルが高いものは、医学的には有効性の高いもので信用できる
  • システマティックレビュー、メタアナリシスのエビデンスレベルは高い
  • 根拠レベルが高くても、すべての人に有効なわけではない
  • 研究の規模(母数)によって、統計学的にも結果が変わることがある
  • インパクトファクターの高い雑誌に載っているのか否か
  • 利益関係がある研究結果は、よく注意してみるべき

長々となりましたが、結果的に「医学的根拠は正しいのか?」という問いには

根拠のレベル・研究の種類(システマティックレビュー、メタアナリシスなら信頼度高い)、実績のある医学雑誌に載った論文なのか

によるということです。

しかし信頼度が高いものでも、それまでの常識が覆ることはあるので、絶対ではありません。

また、「医学的に正しい」ことはすべての人に当てはまる最適解ではありません。

「医学的に正しい」ことを求める場合は、本記事で記載した内容を元に文献を調べるとよいと思います。

正しい情報を得るには、一つの情報を妄信せず、一情報として受け取りつつ批判的な目で見て、いろんな情報に触れていくことが大事かなと思います。

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