腹臥位手術での急性緑内障発作のリスク うつむき試験とは

整形外科の中で、脊椎手術では腹臥位(うつ伏せ)で手術が行われます。

他にも腹臥位での手術はあると思われますが、腹臥位手術では急性緑内障発作を起こすリスクがあるという話をします。

意外と知られていないのか、報告が少ないからなのか?原理的にはハイリスク患者は多くいるはずですが、腹臥位手術での眼科コンサルトはほとんど受けたことがないですし、知り合いの整形外科医も認識しておりませんでした。(多分優秀なn=1)

目次

うつむき試験とは

正式には「暗室うつむき試験」と言います。

閉塞隅角緑内障の診断のための負荷試験です。

1時間暗室でうつむきをしてもらったのち眼圧を測定し

  • 8mmHg以上の眼圧上昇→陽性
  • 6-7mmHgの眼圧上昇 →偽陽性
  • 5mmHg以下の眼圧上昇→陰性

というものです。

閉塞隅角緑内障は、①白内障手術をしていない、②眼軸の短い(遠視)の目の、③高齢、④女性に多い病気で、急激に発症すると急性緑内障発作となり、視機能に甚大な影響を与え最悪失明する危険な疾患です。

眼軸が短いとなぜ発症しやすいかは、下記記事を参考にしてください。

眼軸とは何かはこちらから。

さて、この閉塞隅角の状態を誘発する負荷試験が「うつむき試験」です。

負荷といっても、うつむきになってもらうだけです。ただし時間は60-90分とかなり長く、辛いです。(あまり行われていません)

うつむきになることでどのような反応が起こるかというと

遠視の人は元々前房が浅く、隅角が狭いため隅角閉塞が起こりやすいのですが

眼軸が短い遠視の人はそもそも緑内障発作リスクが高い

下向き(face down)することで

  1. 水晶体が重力によって落下(前方へ移動)し、前房がさらに狭くなる
  2. 隅角閉塞を生じ、房水が流出せず、眼圧が上がる

という非常にシンプルな原理です。チン小帯が弱いと水晶体は移動しやすいので、さらに生じやすいと思われます。

60-90分後に眼圧を測定して、眼圧が一定以上、上昇していれば陽性となります。(隅角閉塞を起こしているということ)

暗室で行うことで散瞳効果も追加されてより隅角閉塞を起こしやすくしているのかと思います。

原理的にはうつむき以外でも、うつ伏せ、顔を下に向けているだけで起こります。

以下の記事では、隅角閉塞に関して、散瞳禁忌の理由をいろんな状況別に考察しています。

手術における眼圧への影響

上記のうつむき試験からわかるように、腹臥位になると隅角閉塞をきたし、眼圧が上昇する場合があります。

またその他として有名なのは、頭低位の体位にすると、静脈圧の上昇により、必ず眼圧が上がります。

※眼圧は静脈圧との関係で変動するため、目と心臓の位置関係が変わると変わりますので、座位→うつむきとなるだけでも少しは上がります。

頭低位手術

術前の眼科コンサルトで多いのは、ダビンチなどの頭低位手術です。

しかし上の記事でも記載しているように、頭低位手術での緑内障の進行リスクは高くはありません

眼圧が非常に高くなることは少なく、注意を要するのは末期緑内障患者ぐらいです。

ただし角度をつけ過ぎたり、手術時間が非常に長い場合は多少のリスクはあります。(どれくらいかは分かりません。)

腹臥位手術

一方腹臥位手術の際は、上述のうつむき試験でわかるように、急性緑内障発作が起こる可能性があります。(症例報告もいくらかHITします。)

急性緑内障発作を起こした場合、眼圧は40~80mmHg程度まで上昇します。緑内障発作というぐらいですから、40mmHg以上の眼圧は「かなり高い」眼圧です。

眼圧は高ければ高いほど視神経に影響を与えますから、このような急激な眼圧の上昇は、目にとって良いことではありません。

急性緑内障発作は救急患者としてきた場合、眼科医は早急に対応する緊急疾患です。

そのような状態が起こり得るのに、腹臥位手術での眼科術前コンサルトって受けたことがないんですよね。変な話だと思いませんか?

勿論症例報告が少なくて、そこまで重視していないってことなのかもしれませんけど、個人的には頭低位手術の眼科コンサルトより、腹臥位手術での眼科コンサルトのほうが、実は大事だと思います。

頭低位手術は「どんな人でも眼圧は多少なりとも上昇する」のに対し

腹臥位手術では「閉塞隅角を起こすと急激に眼圧が上昇する」なので、すべての人には当てはまりませんし、当てはまらない人の眼圧はほんの少ししか上昇しません。(頭の位置が低くなるので少しは上がります)

しかし発症したときの影響は明らかにこちらのほうが強いです。

また、実際に眼科医として働いていても経験したりします。

眼科手術後で腹臥位、face downを必要とする状況があり、その際に反対眼が急性閉塞隅角症を発症し、眼圧が非常に高くなるケースをまれに経験します。勿論、このようなことが起こるのは、急性緑内障発作ハイリスクの患者さんなのですが。

頭低位手術では「どんな人でも眼圧は多少なりとも上昇」するが緑内障への影響は大きくはない

腹臥位手術では「閉塞隅角を起こすと急激に眼圧が上昇」し、すべての人には当てはまらないが、起こった場合は重篤である

麻酔薬の影響

こちらはおまけですが、麻酔の際のアドレナリン作動薬による散瞳で、急性緑内障発作が生じたケースも報告されています。散瞳によって同様に隅角閉塞が生じ、緑内障発作となるパターンです。

以下で散瞳に関与する筋、受容体などを説明しています。

前述ですが、下記記事は非常におすすめです。

一方、麻酔薬自体は眼圧を下げると言われています。

ただし麻酔中の緑内障発作の症例報告があることからは、全身麻酔での眼圧低下よりも緑内障発作がでの眼圧の上昇のほうが圧倒的に強いということですね。

まとめ

  • 腹臥位は急性緑内障発作のリスクを高める
  • ハイリスクは高齢、白内障手術をしていない、遠視(短眼軸)の目

報告が少なくあまり知られていないのかもしれませんが

  • 腹臥位での緑内障発作
  • 腹臥位手術での緑内障発作
  • アドレナリン作動薬での緑内障発作

の報告は存在します。

頭低位手術での眼圧上昇よりも、腹臥位手術での急性緑内障発作のほうが視機能への害は強く

眼科医個人としては後者の方が脅威です。

そしてそのような人はそもそも、いままで眼科受診歴がない人も多いです。(下記参照)

もし腹臥位手術予定の患者がいらっしゃったら

  1. 白内障手術済みなのか
  2. 白内障手術をしていなかったら遠視なのか(普段裸眼で手元は老眼鏡タイプ)

などを気にかけていただけると大変ありがとたいと思います。

参考
・Unilateral Acute Angle-Closure Glaucoma After Lumbar Spine Surgery(脊椎手術・腹臥位での発症)
・Postoperative unilateral acute glaucoma after abdominal surgery(アドレナリン作動薬での発症)
・Bilateral Acute Angle Closure Glaucoma After Prone Position Ventilation for COVID-19 Pneumonia(腹臥位での発症)
など

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