緑内障禁忌薬の種類と原理と実際 既往を本人に聞く必要は少ない

緑内障の種類と原理と、緑内障禁忌薬の原理と、実際の臨床でのパターンを理解すればタイトルで伝えたい意味がわかると思います。

目次

臨床の本質的な話

基本的に、緑内障と診断が付いている場合(眼科通院歴がある場合)の緑内障は、だいたいは禁忌に当てはまりません。なぜなら定期通院している緑内障患者の多くは開放隅角緑内障であり、開放隅角緑内障はいわゆる緑内障禁忌薬の禁忌にはなりません。一方、閉塞隅角で眼科受診歴がある場合は早急に対処されます(まともな眼科医、よほどの事情がない限りは)。そして、閉塞隅角になりやすい狭隅角・浅前房の人が一番ハイリスクで、これらの人はその時点では緑内障にはなっておらず、閉塞隅角になった瞬間緑内障を発症しやすい状態ですが、まだ発症していないので緑内障だとは認識していませんし、そもそも眼科フォローされていない人が大勢います。

つまり、本人が「わたし緑内障です」と分かっている場合の多くは開放隅角緑内障であり、そもそも禁忌でないパターンが多いです。勿論少ないですが閉塞隅角でギリギリの中ずっとフォローしている人もいるので、眼科で確認することは大事です。

むしろ、本人が「緑内障と言われたことはないです」と言うパターンには、閉塞しそうでしていない、つまり緑内障を発症していないが緑内障禁忌薬の影響を受け、緑内障発作を起こす可能性が高いハイリスクの人が含まれており、注意が必要なのです。

なので、「緑内障がない」と言われても眼科受診を勧めることがよいです。(特に高齢で、白内障手術を受けていない、遠視の人、女性)

緑内障の種類

緑内障は大きく、開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に分けられます。

閉塞隅角緑内障

閉塞隅角緑内障は物理的に隅角が閉塞することで急激に眼圧が上がり生じる緑内障です。短期間に眼圧が急上昇することで視神経に負荷を与え、緑内障となっていきます。急激に発症した場合は急性緑内障発作として、症状も非常に強く、視神経への障害も非常に強くなります。必ずしも急性緑内障発作のみではなく、部分閉塞や閉塞されたが解除されたりで、繰り返す高眼圧で徐々に緑内障が進むパターンもありますが、いずれも「隅角が物理的に閉塞して眼圧が上がる」ことが原因となります。

基本的に急激に発症して進行する、急性タイプの緑内障です。

多くは加齢に伴う水晶体肥大と前房深度の減少、狭隅角からの発症です。白内障手術をしていない(眼科受診をしていない)高齢、女性、遠視のパターンが多いです。

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開放隅角緑内障

開放隅角緑内障では隅角が物理的に閉塞することはありません。眼圧が正常値の場合もあります。眼圧が高い場合もありますが、この場合の眼圧が高い原因は隅角閉塞ではなく、その先の線維柱帯(Trabecular meshwork)の網状構造が密になることで流れが悪いパターンです。メッシュというように、排水溝のゴミ受けメッシュと同じで、ゴミが溜まっていないと水が流れますが、ゴミが溜まってくると水が流れにくくなります。開放隅角ではこのように、線維柱帯のメッシュが詰まっていて水が流れにくく、眼圧が高くなる、という機序です。このタイプは基本的に、何かをきっかけに急激に眼圧が上がって緑内障が進行するタイプではありません。(続発性のタイプはこの限りではありません)

基本的にゆっくり進行する、慢性タイプの緑内障です。

緑内障禁忌薬剤の意味

緑内障禁忌とされる薬剤のほとんどは、抗コリン作用を持ち散瞳作用があるものです。アセチルコリン受容体のうちのムスカリン受容体が瞳孔作動に関与し、ムスカリン受容体拮抗にて散瞳します。他にアドレナリンα1刺激の交感神経刺激薬でも散瞳します。

瞳孔筋の薬理について詳しくは下記記事を参照。

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結局、緑内障禁忌薬のほとんどは(すべてを調べているわけではないのでほとんどと表現します)抗コリン作用、すなわち散瞳作用により物理的な閉塞隅角を生じて、緑内障発作を起こす可能性があるから、浅前房・狭隅角の人には禁忌だよ!!!といっているわけです。

緑内障禁忌の薬剤一覧

以下に参考となる外部ページを載せておきますが、いずれも抗コリン作用や交感神経作用による散瞳が関連しています。

緑内障における禁忌薬|おくすり110番

実臨床でのパターン

最初の内容に戻り繰り返しになりますが

眼科で定期通院している緑内障の多くは、開放隅角です。これらの人は散瞳しても隅角は閉塞しないので、禁忌にはあてはまりません。

閉塞隅角の方も多くいますが、閉塞隅角で緑内障を発症している場合は、早急に治療をされます。隅角が閉塞しないように治療されるので、全員がとは言いませんが、治療後は閉塞しにくい隅角になります。この時点で、多少の抗コリン作用で散瞳しても閉塞しないわけです。

一番危険なのは、治療されていない、眼科通院していない、緑内障ではない段階である狭隅角・浅前房の人です。これらの人は、緑内障発作のリスクが高く、抗コリン作用の薬剤での禁忌に当てはまり、ハイリスクであるのにも関わらず、現時点では緑内障はないのです。本人も緑内障があるとは言いませんし、認識していません。


なので結論として、本人に緑内障の有無を聞いたところで

お医者

緑内障はありますか?

じいじ

ありますよ。治療しています。

開放隅角のパターンが多く、禁忌でないことが多い

ばあば

言われたことないですね。

診断されていないだけでハイリスクが含まれる

となり、本人に聞くことは大して意味がないということになります。

ハイリスクな人の特徴

じゃあどうすればいいのか?全例眼科受診を勧めるのか?

上記外部リンクの緑内障禁忌薬一覧を見ればわかりますが、緑内障禁忌薬は非常にたくさんあるし、一般的にかなり使われている薬剤が多くあります。それを全員眼科に受診させるというのはちょっとスマートじゃないかもしれません。

注意すべきは

  1. 遠視の人
  2. 白内障手術を受けていない高齢者
  3. 男性よりは女性

という、単純に浅前房・狭隅角で緑内障発作のリスクが高い人です。

逆に、30代以下の人はほとんど当てはまらないので眼科受診する必要は少ないです。

まとめ

  • 緑内障禁忌薬のほとんどは、抗コリン作用・交感神経刺激作用
  • 禁忌の理由は、閉塞隅角による急性緑内障発作を起こさないようにするため
  • 既往を本人に聞く意味は少ない
  • 緑内障発作のハイリスクの人を眼科受診させるべし

多少の経験のある眼科医であれば誰でも、緑内障発作のリスクが高い目かどうかは瞬時に判断できます。

  1. 白内障手術をしていない(していたらほぼリスクなし)
  2. 高齢者(30歳代以下はリスク低い。早い人は40歳代程度から注意が必要)
  3. 遠視の人(普段から眼鏡使用の近視の人はリスク低い。老眼鏡は使うが常に眼鏡をするタイプではない人、が多い)
  4. 男性よりは女性

という点で注意していただき、緑内障禁忌薬を使う前に眼科受診をお勧めします。


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