多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE:multifocal posterior pigment epitheliopathy)は稀な疾患ですが、非常に激しい反応を起こし、広範な網膜剥離を生じ視力低下を起こす可能性がある疾患です。
CSCと同一スペクトラムで、CSCの劇症型と言われています。
治療に際しても注意が必要で、ステロイドとの関連があり、ステロイド使用の有無を確認することと、本疾患の鑑別疾患でステロイドが治療となる疾患があり注意が必要です。
多発性後極部網膜色素上皮症とは
脈絡膜の透過性亢進によって網膜色素上皮の外側血液網膜関門が破綻し、網膜下へ浸出液が多量に多発性に漏出し、強い滲出性網膜剥離を生じる疾患
- 1977年に日本において命名された疾患であり、欧米ではbullous retinal detachment(胞状網膜剥離)などと呼ばれる
- 中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)の劇症型とされる
- 30~50歳代の男性に多い
- 両眼発症が多い
- CSCの既往、ステロイドの全身投与歴があることが多い
基本的にCSCと同一スペクトラムであり、CSCの劇症型と考えればよい。CSC同様に中年男性に多く、ステロイドの関連性、滲出性網膜剥離を生じるがその程度が強い疾患。
なかなかステロイドが切れない全身疾患があると治療に難渋し、強い視力低下や再発を繰り返す。程度によっては全網膜剥離となることもある。
診断、臨床所見、検査
眼底検査
- 円形またはドーナツ状の灰白色の網膜下滲出斑(網膜下のフィブリンの沈着)
- 網膜下液の移動性が高いため、下方周辺部では胞状になる
光干渉断層計(OCT)
- 丈の高い漿液性網膜剥離
- 網膜下にフィブリンによる塊状の高反射物質(ドーナツ状灰白色滲出斑)
- 脈絡膜の肥厚
- 網膜色素上皮剥離や網膜外顆粒層の菲薄化など
→Vogt・小柳・原田病と類似する
フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)
- 造影早期から、網膜下蛍光漏出点・網膜下液への蛍光漏出が多発性にみられる
- 造影後期は、網膜下に蛍光貯留を示す
インドシアニングリーン蛍光造影検査(IA)
- 造影早期には、脈絡膜血管への局所的充盈遅延による低蛍光、脈絡膜静脈の拡張がみられる
- 造影後期には、脈絡膜透過性亢進を示すびまん性過蛍光が広範囲に強度にみられる
治療
蛍光漏出部へのレーザー光凝固治療が基本
光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)や網膜下液排液のための外科的手術なども行われる
鑑別疾患
Vogt・小柳・原田病(VKH)
FAでの多発性の蛍光漏出、OCTでの漿液性網膜剥離、網膜下フィブリン、脈絡膜肥厚などMPPEと類似する
VKHは治療がステロイドであるが、本症例はステロイドが増悪因子であるため、注意深く鑑別を要する
鑑別としては、発症年齢・性別・ステロイド使用の有無・感冒症状や耳鳴り、めまい(VKHでみられる)などの患者背景が重要で、検査所見としてはVKHでは脈絡膜皺壁や脈絡膜内血管が不明瞭など高度の脈絡膜肥厚を呈することが多く、VKHのほうがFAによる蛍光漏出は軽微であることが多い。
まとめ
- MPPEはCSCの劇症型
- ステロイドとの関連がある
- 治療はステロイドの休薬or減量、網膜の蛍光漏出点へのレーザー光凝固、網膜剥離の程度によっては外科的手術
- VKHとの鑑別が非常に重要(片やステロイドが治療、片やステロイドが悪化させる)
MPPE:multifocal posterior pigment epitheliopathyという呼び方は世界的には一般的ではなく、
- bullous retinal detachment
- bullous variant of CSC
- atypical CSC with a bullous retinal detachment
などと記載されるようです。
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