中心性漿液性脈絡網膜症とパキコロイド 分類・治療・診断

中心性漿液性脈絡網膜症(網脈絡膜症)CSC: central serous chorioretinopathyについてです。

読みは「ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう」です。

現在はパキコロイド(pachychoroid)という概念が専門家ではよく使われており

CSCはパキコロイド関連疾患(pachychoroid spectrum disease)という中に分類されています。

パキコロイド、パキコロイド新生血管(PNV; pachychoroid neovascularization)にも関与する疾患です。

目次

概要・病態

発症原因は不明だが何らかの影響にて、網膜色素上皮のバリア機構の破綻、網膜下液吸収能(ポンプ機能)の低下、脈絡膜循環障害により、脈絡膜の透過性亢進に伴って、網膜下、網膜色素上皮下に浸出液が溜まり発症する

働き盛りの30-40代の男性に多く、片眼性が多いが、両眼性に認めることもしばしばある

  • 有病率 10万人あたり34人(日本)
  • 男性は女性の約3.5倍多い
  • 好発年齢は男性40-44歳、女性50-54歳

分類

急性CSC

簡単にいうと急性にSRDが出現した状態

自然軽快することも多く、経過観察することもある

FAでの漏出点を光凝固することで早期に治癒可能である

慢性CSC

急性CSCの最大約50%が再発するとされ、漿液性網膜剥離を繰り返している状態を慢性CSCという

慢性化に伴い、網膜色素上皮異常や網膜内沈着物を高率に認める

慢性型ではRPE異常やISOSラインの異常により視力低下を認める

劇症CSC

多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE:multifocal posterior pigment epitheliopathy)または胞状網膜剥離(bullous retinal detachment)と呼ばれる

ステロイド全身投薬されている人に急激に生じることが多い印象

病態は通常のCSCと同様

網膜下液の移動により下方に胞状剥離を認めることが多い

漏出点は多発している

急性CSCが「初発のもの」という記載は特にないが、急性CSCが繰り替えして慢性CSCという表現になるので、繰り返していないものは急性CSC、すなわち大雑把には急性CSCは初発のものと考えてよいとも思う

パキコロイドについて

パキコロイドとは、pachy(厚い)choroid(脈絡膜)を合わせた用語で、意味はそのまま「厚い脈絡膜」のことである

脈絡膜が厚いことで生じる疾患をパキコロイド関連疾患(pachychoroid spectrum disease : PSD)と呼び

CSCはPSDの中の代表疾患として扱われている

具体的には

  1. 厚い脈絡膜(pachychoroid)
  2. 太い脈絡膜血管(pachyvessel)
  3. 脈絡膜血管透過性亢進(CVH: choroidal vascular hyperpermiability)

の、3つを満たすものをいう(pachychoroid spectrum disease については別記事にて)

原因

CSCの危険因子として以下のものがある

  • 男性
  • ストレス
  • 妊娠
  • ステロイド使用
  • A型気質
  • 遺伝的素因

働き盛りに多いというのと関連するのが、男性・ストレス・A型気質など

妊娠を契機に発症することもあるため、妊娠可能年齢の女性に

ステロイド使用の場合はより劇症タイプが多い印象である

症状

CSCの症状としては

  • 視力低下
  • 変視症
  • 小視症
  • 中心比較暗点
  • 遠視化(中心窩のSRD、PEDによる眼軸長短縮)

などを認める

長期経過すると視細胞や網膜色素上皮の萎縮をきたし視力低下を生じるが、初期では網膜外層は保たれており視力低下を認めることは少ない

所見・診断

急性期の状態であれば危険因子の特徴や、下記所見から診断は容易であるが

SRDがない状態の網膜色素上皮の異常所見のみ(慢性CSCが該当)では

過去にCSCがあった場合と他の黄斑部疾患との鑑別は難しい

OCT

  • 漿液性網膜剝離(SRD)
  • 網膜色素上皮(RPE)の異常・不整
  • 網膜色素上皮剥離(PED)
  • 網膜剥離範囲内に白色点状沈着物(プレシピテート)
  • 脈絡膜の肥厚

などを認める

慢性CSCでは視細胞外節の不整像、網膜下沈着物などの所見が著明

FAFやICGAでRPE異常があると慢性型を強く示唆する

一部は新生血管を生じPNVとなる

FA

急性CSC 

初期から1個以上の点状過蛍光を認め

後期にかけて円形増大(ink-blot)、吹き上げるような激しい漏出(smoke-stack)を示す

慢性CSC 

漏出点があるもの、はっきりしないもの、びまん性ものなどさまざま

RPE障害部はwindow defectを示す

劇症CSC

漏出点は多発し、PEDも好発する

ICGA

急性・慢性どちらも

脈絡膜充盈遅延、脈絡膜静脈の拡張、脈絡膜血管の透過性亢進CVHを認める(FAの漏出部と必ずしも一致しない)

FAの蛍光漏出点に一致した蛍光漏出を認めることもある

治療

急性CSC

自然軽快傾向があるため、数か月程度は経過観察してよい

4〜6か月以内に自然に解消するが、最大50%の再発率

早期回復目的や経過観察で改善しない症例には、蛍光漏出部のレーザー光凝固術を行う

慢性CSC

慢性化した例や、漏出部位が中心窩近傍で光凝固が困難な例、漏出部が多発している症例には光線力学療法(PDT: photodynamic therapy)を行うことがある(保険適用外)

PDTは脈絡膜過灌流および過灌流を軽減し、一般的に慢性CSC症例に推奨

PDTにより一過性の視力低下、RPEの萎縮、脈絡膜虚血などの有害事象が報告されており、安全性を向上させるために半量PDTがしばしば行われている

劇症CSC

ステロイド全身使用歴があれば、投薬中止や減量の検討(他科と相談)

すべての漏出点を光凝固する

予後・まとめ

自然軽快傾向があるが、慢性的に再発を繰り返すことがある

初発で改善すれば視機能障害を残さないことも多い

慢性化し視細胞~網膜色素上皮が障害を受け萎縮すると、不可逆的な視力低下を生じる

慢性型や劇症型はステロイドの関与が多い印象

劇症CSCからほぼ全網膜剥離、PVRとなった症例を見たことがある

この場合は視機能はかなり厳しく、劇症型の場合は内科との連携が重要である

Pachychoroid neovasculopathy : PNVという概念が提唱されており、慢性化CSCでは新生血管が発生することがある

参考
・Spectrum of pachychoroid diseases, International Ophthalmology 38, 2239–2246 (2018)
・Pachychoroid: current concepts on clinical features and pathogenesis, Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology 259, 1385–1400 (2021)
・Pachychoroid disease spectrum: review article, Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology 260, 723–735 (2022)
・他、眼科書籍

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