最近好きな漫画の一つとして「王の病室」があります。週間ヤングマガジンで掲載中です。ヤングマガジン2024年2,3合併号(2023年12月11日発売)26話にて打ち切りとなりました。
医療現場の実情に結構即した内容であり、医療従事者からすると「わかる~」となる内容が多く、闇部分を漫画で発信しているというところも素晴らしいと思います。
amazonレビュー評価も高く、医療関係者からのコメントが多々あります。
漫画「王の病室」を読んだ感想
原作者は医療従事者?と思うほどのリアルさがあり、共感してしまう内容です。
ただし漫画なので症例は特殊なケースが多く、やや誇張されています。実際の現場でもありますが、この漫画で描かれているような悲惨なケースばかりではないです。もちろん、診療科や病院規模、救急病院かどうかなどで変わりますが。
医療制度に関する切り口も、厳しい側からの指摘内容ですが、納得してしまう見る価値のあるものです。
漫画全体を通してとても辛辣な内容が多いですが、患者さんの命・健康、医療制度、医者としての考え方・倫理観、これらはどれが正しいというのはありません。賛同派もいれば反対派もいるでしょうし、そんなこと考えておらずただ診療を行っている人もいます。ですが、その中の一意見として、実際にある意見をズバッと言ってくれています。
イラストは綺麗でかなりキリッとした表情で描かれています。獄門院先生の見た目がとても派手ですね。
非常に楽しみにしていましたが連載打ち切りとなってしまいました・・・。単に人気がでなかったのか?何らかの圧力でもあったのか?医者としては共感できて毎週の医療ネタを楽しみにしておりました。
印象的なセリフと医療現場における現実
印象的な言葉をそのままもしくは内容をやや改変して紹介します。
第一話目から、
- 日本というイカれた医療システムの国ではな、適度に殺すのも医者の仕事だ
という強烈なセリフが使われています。
これだけ聞くととんでもないことを言っているようにも聞こえるかもしれませんが、実際の医療現場は患者本人の命・健康だけでなく、患者を取り巻く生活環境・家族環境なども考えて臨機応変に対応しております。何も考えずに全部なんでも治療して、意識もない管に繋がっている状態にする可能性のある治療を、患者やその家族だけでなく、支えきれない医療費問題も考慮して描かれています。
以下、漫画内にあったセリフ(一部改変)に対して意見、コメントしていきます。
- 取返しのつかない病態は存在するが、取返しのつかない治療もある
→人工呼吸器や胃ろうなどを付ければ、寝たきりでも生かされる状態にしてしまうこともあるということ。それによる家族の負担、医療費の負担などもあります。
- 医者は人助けではない
→仕事です。命・健康を扱う仕事なだけで、人助けではありません。
- 医療とは定価でスキルとサービスを提供する商取引
→診療報酬という形で価格が決められています。
- 医者は医療を提供する技能職の一つにすぎない
→技能を提供する労働者に過ぎません。労働者です。
- 治療を目的とした最善の医療を提供する医者は、目の前の患者にとってだけはいい医者
→医療費問題を度外視している、という指摘。
- 目の前の患者が誰であろうと、結局我々は普段と同じことをする
→その通りです。治療の選択肢を提供し、その中で患者の希望にできるだけ沿った形で治療を行います。もちろん相手の性格や環境によって選択肢を誘導したりすることはあります。
- 後医は名医(後から患者を診たやつは好き放題言える)
- それでドヤってる医者とかヤバい
- この世に絶対の名医なんて存在しない
→その通りで、紹介された側の医者は診断・治療が前医よりも簡単にできます。別に名医ではありません。
- すでに80年生きてきた老人と、これから80年生きるであろう子ども、どちらか一人しか救えない場合どちらを救う?
- 目の前の出来事なら皆子どものほうと答える
- だがこの国ではまるで逆のことが起きている
- 残りわずかな豊かさ・・・それを食いつぶして死んでいこうとする老人たちに私は我慢がならない
→かなり辛辣な言葉ですが、実際医療費問題はそういうレベルに来ています。実際にこのように思っている医者もいます。
- 患者さんを思って最善を尽くして何が悪い
→これもその通りで、患者さんを治療するのが医者の仕事であり、医療費どうこうを気にするのは個人の自由ですが、個人レベルでどうこうできるレベルでもないです。もちろん社会的な面、今後の医療を維持させるためから医療費がどのようになっているのかを知り、自分の考えをある程度持っておくことは大切です。
- 家族に疎まれている・家族がいない患者さんに危機が訪れた時、救っても救わなくても変わらない給料で同じくらい頑張ることができるのか?
→お金だけで考えてしまう人、仕事が忙しすぎる人はこういう思想にもなりかねません。っていうくらい、医者の中でも給料の差、労働時間の差はあります。が、とはいえ平均しても社会人の平均からするとかなり高いです。時給換算とかし始めるとアルバイトより安かったりすることもあります。(非常勤バイトでその分稼ぎます)
- 普通に働いていりゃ泣いても笑ってもほどほどの高給取りになれる
- 30代半ばになったら年収1200~1300万、そのあとは・・・まあ、ほとんど伸びない
→普通に勤務医として働いているだけだと、勤務先からの給料は1000~1500万程度でしょう。1000万以下の人もいます。クリニックなどによって差があること、技能・働く量などにより病院利益を上げれば交渉によって給料を上げることもできます。
- 世界一の天才外科医も同じ
- 横でペコペコしてる製薬会社のやり手営業の方が高収入だったりしてな
- 病院の儲けのためだったら名医なんてクビにしたいと管理者は思う
→たとえば、世界一の腕の外科医にしかできない手術があったとして、その患者が年に1人しかいないとして、その手術の保険点数が決まっているとします。その世界一の外科医が手術することで患者さんは救われますが、年に1回の手術だけでは病院の利益としてはたいしてプラスになりません。それよりも、ありふれた病気に対するありふれた治療でも、件数をこなすほうが病院利益がでます。病院経営者は、病院に黒字を出してくれる人のほうが、経営的にプラスであるため重宝する、という指摘です。
- 日本では、最高の施設で最高の名医でおもてなしたところで、全ての医療行為は定価が決まっている(高級外食店とは違う)
- 病院経営の性質は薄利多売に近い、黒字を出すには患者数を増やすしかない
→売上が少ないクリニックは頻回受診させてなんとか維持しているところもあります。利益を気にしていない忙しい勤務医の場合は、むしろ受診の回数を減らそうとします。
- 現在の診療報酬制度において最も優れた医者は、難病・奇病・話が長くなりそうな患者は門前払い、手のかからない患者だけで言葉巧みに月一回リピート通院させコストは取れるものは毎回算定、いざ合併症や重症になったらさっさと匙を投げ他院に回してなすりつける、そんな医者が(経営的には)最も正しい
→たしかに。
- 腕を磨いてもほとんど評価されないのに、日本の医者は、目の前に患者がいれば治したいという人情、世間一般からみれば高給なのでちゃんとしようという責任感、医者という集団は子どものころから受験をこなした比較的真面目な連中、外部模範として医療ドラマや漫画などの作られた名医のヒーロー像などがあり、まじめな人が多い
→たしかに真面目な人たちが比較的多い集団だと思います。
- 名医を評価するシステムは存在しない
→「名医」として名前を載せる媒体はあります。ただし実際は載せるための紹介料を支払ったり、名医を名医と評価するシステムがあって紹介している訳ではありません。そもそも名医の評価基準が難しいです。
- 世界一の名医がいて、その天才じゃないと治せない患者がいたとして、いくら請求するのが適正なんだ?
→日本の保険診療においては定額が決まっているので、最強スペックの医者がいても手術にかかる費用は変わりませんが、そのシステムが崩れた際は、とんでもない価格になる可能性はあるでしょう。
- 期待させてしまうのもいけない
→期待させるとその期待に満たなかった際にネガティブになりやすいです。心配させるように説明するべきではないですが、期待させるような説明もせず、事実を淡々と述べるのがよいと思います。
- VIPに特別なことは一切しない
- 日本の医療は誰に対しても平等に最高水準
→その通りです。
- 実際の治療をするにあたって相手がVIP様かどうかなんてちぃーーとも気にしちゃいねぇ
- いい治療を受けるのは一般患者の方だったりする
- 現代の医療においては、IC(インフォームドコンセント)が原則
- 患者の判断に委ねるということは、ある意味で医者のプロフェッショナリズムの放棄・・・患者任せの医療ともなり得る
- だから患者が「変なこと」を言い始めても誰も止められねぇ
- 厄介ごとを言い始めるのは金持ちの方が多い、自称成功者は自分の判断に自信を持っているから
→そうかもしれないと思いつつも、「金持ち」=「頭がいい」ではないですが、説明に対する理解が良いことも多いので、スムーズにいくことも多い気がします。
- 診れないから断っている、診れもしないくせに取ったらそれは罪
→自分の診療レベルを超える内容の場合は他の医師に相談したり専門病院へ紹介することが普通です。もちろん自分のレベルを上げることが大切ですが、自分ひとりで全てを診れる医者はいません。
- 人に訊けるのも実力のうち
→同様に、相談するという能力はとても大切です。自分のスペックをあげつつも、対応できない場合はすぐに相談できる医者が優秀だと思います。
- 薬価に関しては 患者さんの経済状況にも配慮が必要になる
→最近は高い薬剤がたくさん出てきています。眼科では抗VEGF薬が有名で1回5万前後する注射ですが、お金がなくて今回は注射は打てません、というケースはよくあります。
- 僕ら(医者)は無差別にただヒトを治すだけの道具だ
- 医者の仕事を素晴らしく思えるかどうかはその人次第
→その人の考え方次第、というのは当たり前ですね。
- 医療業界は制度としてモノプソニー(買い手独占)が成立している
- 価格を設定しているのは病院ではなく厚生労働省の役人、こんな状況でまともなビジネスができるか?
- 患者側の立場になれば話は別、医療を買い叩くという点においてこれほど優れた制度はない
- 通常でも7割引き、高齢ならば9割引き、そんな価格破壊に対抗できる手段は存在しない
- 役人は競合を気にせず最低水準の価格を設定できる
→健康を安く買えるという点では、日本の医療はとても優秀だということです。その分、健康体が多い若手世代は病院受診もめったにしないのに、社会保険料という形で医療費の負担が重くのしかかっているのが現状です。
- 医学的に良いとされる治療をしても結果がよくなるとは限らない、合併症などで悪化する可能性もある
→このようなことはたくさんあります。信頼関係を築けていない状況で、このような状況になると責められたり最悪訴えられたりすることもあります。何もしなければ自然に悪くなる状態、良くしようと思って治療に手を出したことで悪化を早める可能性、さらに悪い状態になることもあります。
最終話で主人公が泣いて自分を責めるシーンがありますが、実際にこのような経験をすると、とても悲しい切ない気持ちになります。
まとめ
- 医療におけるネガティブな面をはっきりと描いている漫画
- 医療従事者は同感する内容多数
- すごい能力をもったヒーロー医者のようなものではなく、結構現実味のあることが描かれている
医療従事者には特におすすめする漫画です。
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