「後医は名医」の意味 後医は簡単だから名医になりやすい

医者の間で使われることわざのような言葉として、「後医は名医」というものがあります。

その意味と実情に関して書いていきます。

「〇医」の言葉の意味としては下記のようになります。

  • 前医:最初に診た医者。紹介元の医療機関の医者。
  • 後医:後から診た医者。紹介された先の医療機関の医者。
  • 名医:すぐれた優秀な医者。有名な医者。(goo辞書より)

前医と後医は、紹介元の医師か紹介先の医師かということですが、多くは小規模の医療機関→大規模の医療機関・専門病院へ紹介となるので、前医=クリニック、後医=総合病院(大学病院など)となることが多いです。

目次

後医は名医の意味は「後医は簡単」

「後医は名医」は、

後から診た医者は正しく診断・治療しやすい

という意味です。

日本の医療システムでは、患者さんはまず近所のクリニックか地域に根差した小~中規模の病院にかかります。

そこの医者(前医)はその患者さんが困っていることに対してゼロから検査を行って、原因が何なのか、治療をどうするかを考えていくことになります。

しかし小~中規模の医療機関だと、設備などの面でできる検査・治療にも限りがあります。そこでの対応が困難だと判断した際に、後医へ紹介することになります。

紹介する理由としては主に、

  • 検査しても診断が分からない
  • 治療しても改善が得られない
  • 専門的な検査・治療が必用な場合

などがあります。

紹介状には患者さんの病状や検査結果などを同封することが一般的です。つまり、後医の医療機関を受診した時点で、後医は前医での検査結果の情報を持っているわけです。

後医は、前医でした検査の情報が既にあり、その結果からさらに必要だと思われる検査や治療を追加すればよいわけです。もしくは、前医での診断が正しいけど前医では設備上できない治療や検査がある場合は、その治療や検査を行うだけでよいのです。

したがって、後医では

  • 検査しても診断が分からない→まだ行われていない検査をする
  • 治療しても効果が得られない→まだしていない別の治療をする
  • 専門的な検査・治療が必用な場合→その検査・治療をする

と対応すればよいわけです。

  • 後医はある程度情報がそろっている状態からスタート
  • 前医は何も情報がないところからスタート

という違いがあり、「後医は簡単」なのです。

正しく診断し、正しく治療を行うことができれば、病状は改善しやすいので、患者さん側からしたら体調が良くなって「先生は名医ですね」となるわけです。これが「後医は名医」というわけです。

後医は情報的に優位であり、正しい診断・治療がしやすい

前医の批判はNGなのか?

さて、このように簡単な後医ですが、前医での情報や診断が検討違いな状態で紹介されることが、頻度はまちまちですが、あります。

「あそこのクリニックの医者、やばい。ありえない。」「こんな内容の患者を送ってくるなよ。」

など怒り文句を言ってしまうことがあったりなかったりするかもしれませんが、上述したように、後医は優位性があります。

ゼロからの状態で診た前医と、その情報がすでにある状態での後医。前医の情報か正しいかどうか判断できる立場にあるのも後医です。検査できる設備機器にも差があるかもしれません。

簡単に診断・治療がしやすい立場の者が、そうではない者の間違いに対して、批判できる立場にあるのか?という話です。

医学的な面から明らかにその医者のレベルが低いな、ということはあるかもしれませんが、このように状況に違いがあるので大きな声で批判はできない、という共通認識のようなものがあり、「前医の診断が見当違いだとしても、批判するようなことは言わないようにしましょう」という風に教わることが多いです。

診断・治療が間違いだらけでも批判されない?

前医の間違いが批判されないのであれば、前医は何をしても許されるということでしょうか?前医の診断が間違いでも、ひどい診断・治療が行われていても、それらを全て後医は黙認するのでしょうか?

患者さんからすると、「前医の診断・治療は間違っていたのですか?」という気持ちになります。間違っていたかどうかは、後医であればたいていはわかりますが、それをそのまま伝えてしまうと、患者さんは前医に対して不信感を抱くでしょう。

なので、どう伝えるかが大切ですが、どう伝えるかは人によります。

個人的には診断、治療の正しい正しくないに関して、聞かれたことに嘘は伝えませんが、伝えた上でこういう事情(前医ではできる検査などが少ないなど)があるので間違えたこと自体の批判はしませんし、患者さんが不信感を抱きそうなら前医のフォローをします。

あまりに間違いを繰り返していたり、到底考えられないような治療をしている前医があれば、その医師の診療能力を疑い、患者さんを逆紹介するときにそれとなく他のクリニックや病院でのフォローを勧めたりすることはあります。

私は前医も後医もしていますが、前医として後医へ紹介した際に、内容が合っていれば安心したり嬉しく思いますし、間違っていたら恥ずかしい気持ちになります。(こういった感情が普通かどうかは知りませんが)

クリニックと大病院では患者の疾患の層が違う

普段診ている患者の疾患が違うことで、得意な分野もクリニックの医者(前医)と専門病院の医者(後医)では異なります。

紹介で来るような大病院(後医)には、些細な内容、病状的に大したことがない人は基本的には来ません。クリニック(前医)で対応するだけで済むからです。大病院には専門的で偏った疾患の患者ばかりが紹介によって集まってきます。

必然的に、専門病院の医者は専門的な疾患ばかりを診ることになります。例えば、特殊な治療薬が必用な人だったり、専門的な手術治療が必用な人だったりです。

そして、大病院・専門病院に勤めている医者は、そのような患者ばかりを日々診ているため、その病気に対しての知識や対応能力は高いわけです。

逆に、何も情報がない状態で、ゼロからそこまで診断できる能力があるかどうかは、大病院の医師でもできる人できない人にわかれると思います。

多くの前医は後医を経験している一方、後医の多くは前医の経験は浅い

医者の中でも若手はスキルアップ・知識向上などのために大病院(後医)にいることが多いです。そして、専門医取得後などある程度実力が付いたら(or ついてなくても年齢を重ねていくと)開業したり、ちょっとゆるい病院(前医)で勤務するようになることが多いです。

もちろんさっさと開業する医師や、病院勤務せずにバイト医として働く人、さまざまですが、その科の専門知識・技術を身につける上では(専門医を取る上では)、若いうちは大病院にしばらく勤務するのが一般的です。

したがって

  • 前医の多くは後医の経験があるため、後医の気持ちがわかりつつ
  • 後医の多くはバイトなどで多少の前医の経験はあるにせよ、そこまで前医の気持ちはわかっていない

ような感じが個人的にはします。

前医が名医のパターンもたくさんある

最初に述べたように、「後医は名医」というのは、後医は簡単に診断・治療ができるという意味です。

後医は簡単なのです。あたかも後医が適切な治療を行ったように見えるかもしれませんが、その適切な治療を行えるようにその前段階で紹介しているのは前医なのです。

この、紹介するタイミングが適切である場合、前医が名医だと思います。そういうときは、前医の的確なタイミングでの紹介がよかったからですよと伝えることが、平和的ですよね。

まとめ

  • 「後医は名医」は、後医は簡単に正しく診断・治療がしやすいということ
  • ゼロから診る前医と、前医の情報を持った状態で診る後医の違いがある
  • 前医の診療をあまり批判しないようにと教えられることが多い
  • とはいえ、誤診・誤治療だらけの前医がいることも確か
  • 後医が適切な治療を行えているのは、前医が適切なタイミングで紹介しているからという部分も多い

前医の多少の判断ミスがあったとしても、わざわざことを荒げるようにしないのであれば、直接的な批判はしないのが普通です。とはいえ、怪しい診断・治療ばかりしている前医、診療レベルが低い前医があれば、あまり逆紹介したくないのも事実です。

なので前医になる(クリニック開業などをする)には、やはりある程度の経験と知識、技術などを身につけてからなるべきですし、前医になってからも専門的な知識含め勉強を継続していく必要があると思います。

一方で、後医は簡単な状態でしか診ていないため、前医のようにゼロから診ていく経験があると、より診療能力が高くなるし、前医の気持ちもわかると思いますね。

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