糖尿病の3大合併症に、網膜症、神経症、腎症があります。(その他、動脈硬化による脳卒中・心疾患など)
眼科医は皆知っていますが、糖尿病による網膜症は実は2つに分けられます。
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病黄斑浮腫
いずれも糖尿病が原因で、本質としては、網膜におけるどの領域が障害されるかという違いです。両方を重複することもよくあります。
今回は糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫について、イメージと症状や治療について書いていきます。
糖尿病網膜症は全体的な網膜の障害、糖尿病黄斑浮腫は網膜の中心の黄斑の障害
大雑把に言うと、二つの違いは網膜全体の障害か、網膜の中心(黄斑部)の障害か、ということになります。
糖尿病網膜症という網膜が障害される大きな括りの中に、黄斑部が障害されている状態である糖尿病黄斑浮腫がある、という感じです。
それぞれの見え方の異常や、治療などについて書いていきます。
糖尿病網膜症は軽症では症状がなく、症状に気付いたときには重症で治療が必要
基本的に、糖尿病網膜症は重症となるまで自覚症状がない(=自分では悪化していることに気が付かない)病気です。このため眼科医は口をすっぱくして、定期的な診察を勧めるのです。
自分の見え方が悪くなったときは既に手遅れ、とまでは言いませんが、重症な状態です。
自分で気が付くときの多くは、硝子体出血といって眼内に血が溜まった状態になったときです。出血量が多い場合は、ほとんど見えない状態となります。つまり、急に全く見えなくなる状態になる可能性があるということです。
出血量が多い場合は硝子体手術が必要となります。出血量が少ない場合は外科的な手術をしないで済む場合もありますが、レーザー治療は必須です。
つまり、自分で気が付ついた段階では遅いため、そうならないように定期的に眼科に受診し、眼底検査を受ける必要があります。
繰り返しますが、見え方の異変に気が付いたときは、既に重症な状態だということです。
したがって、定期的な眼科受診が大切です。
定期受診をしていく中で、自分で見え方が悪化したことに気付く少し前の段階で、それ以上悪化させないように、レーザー治療をすることがあります。
糖尿病黄斑浮腫は軽症でも視力低下を起こし、高額な治療を繰り返す可能性がある
糖尿病黄斑浮腫は、黄斑部に障害が出てくるタイプです。
黄斑部は視界の中心、目線の中心に相当します。そこが障害されるということは、何かを見ようとしたときに詳細を見ることが難しくなります。
具体的には、文字が見えなくなり、視力が下がります。
糖尿病網膜症と違って、糖尿病黄斑浮腫は初期の段階で強く自覚症状が出ることが多いです。視力が下がって細かい字などが見えにくくなるため、多くの場合すぐに気が付きます。
糖尿病黄斑浮腫は、外科的手術をすることはそこまで多くはありません。それよりも、眼球への注射治療が多いです。
注射する薬剤はいくつか種類がありますが、一般的に行われている抗VEGFという薬は非常に高価で、3割負担で1回あたり6万円程度かかります。
治りが悪い人は最大月に1回まで注射をすることになり、毎月6万円注射代だけでかかることになります。
初期の段階で視力が下がり、注射代だけで最大毎月6万円かかる可能性のある、非常にやっかいな病態です。
運転免許を失う可能性があるのはどちらか?
もちろんどちらもあるのですが、糖尿病網膜症の場合、硝子体出血を起こしほとんど見えない状態になっても、手術で出血を取り除き、黄斑部が痛んでいない状態であれば、視力はある程度保たれます。治療後でも黄斑部が痛んでいなければ、運転免許の更新基準を満たすことはよくあります。
一方、糖尿病黄斑浮腫は視力に直結する病態です。黄斑部がどんどん傷んでくると、視力の改善が難しくなり、運転免許が更新できなくなってしまうことも珍しいことではありません。
なお、運転免許は目の治療中など特別な理由があれば、それなりの期間、失効した免許を手続きのみで再取得することできます。(特別な理由がなくても少しの期間は手続きで復活できます)
失明する可能性があるのはどちらか?
一方で、失明するのはどちらかというと、糖尿病網膜症です。
医学的な失明は、完全に光を失った状態(医学的失明)を言いますが、そこまでいかなくとも指数弁程度になると社会生活を送る上ではほぼ失明と言えます。(社会的失明)
糖尿病網膜症は、視覚障害者手帳の原因疾患の第2位です。
糖尿病黄斑浮腫だけでは、視力は非常に下がりやすいものの、光を失うような完全な失明となることはありません。
一方、糖尿病網膜症は非常に重症な状態となると、難治性の緑内障になったり、網膜剥離になり、全体的な視機能を失っていき、光すら感じない完全な失明状態となります。
網膜症と黄斑症の、症状出現のイメージ
糖尿病網膜症は、初期~中期まで自覚症状がありません(困らない)。困ったときには重症です。さらに放置するとものすごく重症化し、光を失うレベル、視界が何も見えなくなる形で失明します。
糖尿病黄斑浮腫は、初期から軽度の視力低下を伴います。悪化すると、どんどん視力が下がっていきます。しかし完全に光を失うような失明状態にはなりません。つまり、視界ではぼんやりと見ることが可能です。
まとめ
- 糖尿病網膜症は自分では気付かない、気付いたときはかなり重症
- 自分では悪化に気付けないため眼科受診が大切
- 糖尿病黄斑浮腫は、強い視力低下を起こし高額な治療を繰り返す必要となりやすい
- 完全に失明した状態になるのは糖尿病網膜症
糖尿病による網膜症のやっかい具合、おわかりいただけましたでしょうか?
若い人だと30代くらいから重症の糖尿病網膜症で大部分の視力を失ってしまう人はいます。
初期の段階から視力が下がり、高額な注射治療が必要になり、繰り返し注射が必要になることを考えると、糖尿病黄斑浮腫のほうがやっかいです。糖尿病網膜症は初期~中期であれば自覚症状はなく困ることはありません。しかし放置しすぎると失明してしまいます。
まず生活習慣によって非常に悪い状態の糖尿病にならないようにすることはもちろん、糖尿病と診断された人は、自覚症状がなくても必ず眼科に通院したほうがよいです。
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