糖尿病網膜症の重症度分類と種類とその特徴

糖尿病網膜症は重症化すると失明します。実際に若い人だと30代で重症糖尿病網膜症となり、視力の大半を失っている人もいます。

糖尿病網膜症は眼科でもかなり重要な疾患の一つで、その重症度の分類がいくつもあります。

今回はそれらの分類についてまとめました。(網膜症の前の「糖尿病」は略されることもあります)

目次

国際重症度分類

糖尿病網膜症なしと、非増殖糖尿病網膜症(軽症、中等症、重症の3つに細分化)、増殖糖尿病網膜症の5段階に分けられている。

  • 糖尿病網膜症なし
  • 軽症非増殖糖尿病網膜症
  • 中等症非増殖糖尿病網膜症
  • 重症非増殖糖尿病網膜症
  • 増殖糖尿病網膜症

糖尿病網膜症なし

non diabetic retinopathy: NDR

  • 異常所見なし

→糖尿病(+)の眼底所見(-)のもの

軽症非増殖糖尿病網膜症

mild non proliferative diabetic retinopathy: mild NPDR

  • 毛細血管瘤のみ

中等症非増殖糖尿病網膜症

moderate non proliferative diabetic retinopathy: moderate NPDR

  • 毛細血管瘤以上の所見が認められ、重症非増殖網膜症より軽傷のもの

→あいまいなので、軽症と重症の所見を覚える

重症非増殖糖尿病網膜症

severe non proliferative diabetic retinopathy: severe NPDR

  • 眼底の4象限で20個以上の網膜内出血
  • 2象限以上での明瞭な静脈数珠状変化
  • 明確な網膜内細小血管異常(IRMA)

のいずれかの所見を認め、増殖網膜症の所見を認めないもの

→新生血管は認めない状態

増殖糖尿病網膜症

proliferative diabetic retinopathy: PDR

  • 新生血管
  • 硝子体出血
  • 網膜前出血

のいずれかを認めるもの

→網膜内以外への出血は新生血管ができると生じるので、新生血管(+)以上の所見

無血管野(NPA)の記載はない

※国際分類では黄斑症の分類もあり以下のように分けれらます。

糖尿病黄斑浮腫の重症度分類

  • 糖尿病黄斑浮腫なし
  • 糖尿病黄斑浮腫あり・・・後極部に網膜肥厚や硬性白斑あり
    • 軽症  黄斑部中心から離れている
    • 中等症 黄斑部中心に近いが含んでいない
    • 重症  黄斑部中心を含む

Davis分類

単純、増殖前、増殖の3つに分類される。

  • 単純糖尿病網膜症(SDR)
  • 増殖前糖尿病網膜症(PPDR)
  • 増殖糖尿病網膜症(PDR)

単純糖尿病網膜症

simple diabetic retinopathy: SDR

  • 毛細血管瘤
  • 網膜点状・斑状・線状出血
  • 硬性白斑・網膜浮腫(・少量の軟性白斑)

増殖前糖尿病網膜症

pre-proliferative diabetic retinopathy: PPDR

  • 軟性白斑(綿花様白斑)
  • 静脈異常
  • 網膜内細小血管異常(IRMA)
  • 網膜無灌流領域(NPA)

増殖糖尿病網膜症

proliferative diabetic retinopathy: PDR

  • 新生血管(網膜・乳頭上)
  • 網膜前出血、硝子体出血
  • 線維血管膜
  • 牽引性網膜剝離

新福田分類

  • 日本固有の重症度分類
  • A1-5、B1-5の10段階
  • 進行はA1→A2→B1→B2→B3→B4→B5(Bは必ずしも順番通りとは限らない)
  • A3-5は陳旧性のもの(6か月以上、鎮静化したもの)
  • レーザー凝固後はP、糖尿病黄斑浮腫はM、硝子体術後はV、牽引性網膜剥離はD、血管新生緑内障はG、虚血性視神経症はNと記載
  • B2PMなどと書く

A1 軽症単純網膜症

  • 毛細血管瘤
  • 点状出血

A2 重症単純網膜症

  • しみ状出血
  • 硬性白斑
  • 少量の軟性白斑

B1 増殖前網膜症

  • 軟性白斑、網膜浮腫、線状・火焔状出血
  • 静脈拡張
  • 網膜内細小血管異常(IRMA)
  • 網膜無血管領域(NPA)

B2 早期増殖網膜症

  • 乳頭に直接連絡しない新生血管(NVE)

B3 中期増殖網膜症

  • 乳頭に直接連絡する新生血管(NVD)

B4 末期増殖網膜症

  • 硝子体出血
  • 網膜前出血

B5 末期増殖網膜症

  • 硝子体への線維血管性増殖組織を伴うもの(牽引性網膜剥離)

A3 軽症増殖停止網膜症

  • 陳旧性の新生血管

A4 重症増殖停止網膜症

  • 陳旧性の硝子体出血

A5 重症増殖停止網膜症

  • 陳旧性の線維血管性増殖組織

分類の比較

まとめ・覚え方

それぞれの分類については、

  • 国際分類は、増殖より前の重症非増殖網膜症の基準が細かい、がそこを重視している
  • Davis分類は、一番シンプル
  • 新福田分類は、増殖網膜症を細かく分類している

という感じです。

いずれも糖尿病網膜症の始まりは、

  • 毛細血管瘤

です。

  • 国際重症度分類では、軽症非増殖糖尿病網膜症
  • Davis分類では、単純糖尿病網膜症
  • 新福田分類では、A1 軽症単純網膜症

となります。

また、いずれも増殖性網膜症としては

  • 新生血管

が基準です。

  • 国際重症度分類では、増殖糖尿病網膜症
  • Davis分類では、増殖糖尿病網膜症
  • 新福田分類では、B2 早期増殖糖尿病網膜症

硝子体出血や網膜前出血、牽引性網膜剥離は新生血管ができてから起こる所見になるので、増殖網膜症になります。新福田分類では、新生血管の所在、牽引性網膜剥離の有無でグレードが異なりますが、他の分類では同じグレードになります。

また、増殖前の所見として

  1. 網膜内細小血管異常(IRMA)
  2. 軟性白斑(綿花様白斑)
  3. 網膜無灌流領域(NPA)

が重要となりますが、すべての分類で共通するのはIRMAのみです。これらの所見がある場合は、増殖前の一番悪い状態と覚えておけばokです。(国際分類では重症非増殖糖尿病網膜症、その他では増殖前網膜症)

国際分類では増殖前の段階として、軽症(毛細血管瘤のみ)、重症(IRMA、他)と中等症がありますが、中等症は中間の所見なので、軽症・重症を除外して当てはめればよいと思います。

どの分類が使われるか?

日本国内ではDavis分類や新福田分類がよく使われますが、国際標準の国際分類は学術的な面で使われることが多いです。

  • 臨床ではDavisか新福田
  • 研究では国際分類

とするとよいと思われます。

参考文献
糖尿病網膜症診療ガイドライン(第 1 版)(PDF)

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