眼科手術・注射前後の抗菌薬点眼・全身投与は必要か?

現在は抗菌薬の多用による薬剤耐性菌の出現、増加が懸念されており、世界保健機関(WHO)総会にて抗菌薬の使用の減少が求められています。対策をしないと2050年には耐性菌による死亡者が1000万人を超えるようです。

眼科では慣例的に、目の注射や手術前後に抗菌薬の点眼を、手術中や手術後に抗菌薬の点滴や内服が使われてきました。現在、これらが部分的に不要である可能性が報告されてきており、無駄な抗菌薬使用を減らす方向に動いている施設が多くはないかもしれませんが、それなりにはあります。

今回の内容の概要は以下のようになります。

  • 眼科手術中、手術後の抗菌薬全身投与にエビデンスはない
  • 手術・注射前の抗菌薬点眼にエビデンスはない
  • 注射前の抗菌薬点眼は行うことが添付文書に記載されている
  • 眼科 網膜硝子体学会では術前点眼の必要性は各医師の判断にゆだねられている(しなくてもよい)
目次

眼科手術・処置での合併症の考え方

眼科手術の合併症の考え方で、大きく

  • 白内障や硝子体、緑内障手術などの目の内部へ操作が及ぶ手術
  • 翼状片、結膜嚢胞、その他の目の内部へ操作が及ばない手術

という考え方をします。

目の内部へ操作がおよぶ内眼手術では、術後眼内炎という目の中への細菌などの感染症が起こるリスクが数千件に1件程度あります。眼内炎は感染を起こした菌にも依りますが、早いものでは時間単位で悪化し、放置すると失明に至ることもあり、眼科手術の中の合併症としては非常に怖いもので、防ぐ確率をできるだけ上げたい合併症です。

眼科注射薬剤の添付文書

眼科で使う注射薬剤では、必ず投与前後の抗生剤点眼の使用をすることが記載されています。以下に載せておきますが、これらは全て局所的な抗菌薬の使用(点眼薬)の内容です。

アイリーア添付文書

本剤投与前に、十分な麻酔と広域抗菌点眼剤の投与を行うこと。(未熟児網膜症以外の患者に対しては広域抗菌点眼剤は本剤投与3日前から投与後3日まで投与すること。)

ルセンティス添付文書

本剤投与前に、十分な麻酔と広域抗菌点眼剤の投与を行うこと。(広域抗菌点眼剤は本剤投与3日前から投与後3日まで投与すること。)

ベオビュ添付文書

本剤投与前に、適切な麻酔と眼周囲の皮膚、眼瞼及び眼表面を消毒するための広域局所抗菌薬を投与すること。

バビースモ添付文書

本剤投与前に、適切な麻酔と眼周囲の皮膚、眼瞼及び眼表面を消毒するための広域局所抗菌薬を投与すること。

マキュエイド添付文書

[硝子体内投与][テノン嚢下投与]

本剤投与前に、十分な麻酔と広域抗菌点眼剤の投与を行うこと(広域抗菌点眼剤は本剤投与前から投与後3日まで投与すること。)。

ですが、この「注射前後の抗菌薬点眼はあまり意味がない」という報告はしばしば上がっていますし、海外では使われていない国もあります。

マキュエイドの注射はテノン嚢下注射(直接眼内へ及ばない注射)でも、抗菌薬点眼の使用が記載されています。

しかし眼科的な観点から考えると、内眼操作における眼内炎を起こしたくないから抗菌薬点眼を使うのであって、テノン嚢下注射の前に抗菌薬点眼を使っている人なんているの?という感じです。(いたらすみません)

術前の抗菌薬点眼が不要であるという報告は多い

最も眼内移行の良いとされるMFLX の頻回点眼で得られる硝子体濃度でさえ,約0.2μ/mlであることから,注射後の点眼の効果は期待できない硝子体注射に抗菌薬点眼が不要であることを示唆する論文は散見されるが,その必要性について言及する論文は見あたらない。耐性菌の誘導というデメリットをもたらしてまで硝子体内注射の前後に抗菌薬点眼を用いる意義は乏しい。

術前,術後抗菌薬点眼はもはや不要なのか?|臨床眼科 74巻 12号 pp. 1338-1344(2020年11月)

具体的な論文は調べつくしておりませんが、しばしば講演会や学会などでも抗菌薬を少なく使用・未使用での眼内炎発生率の評価などは発表されていますが、「抗菌薬を使っていたほうがよい」という結果にはたいていなっていない印象です。

すなわち、現在眼科手術においては必要以上に抗菌薬が使われている可能性があります。

眼科手術中・手術後の抗菌薬全身投与(点滴・内服)にエビデンスなし

眼科手術における抗菌薬の全身投与においては、その有効性を含めたエビデンス自体の報告が少なく、海外では白内障手術において抗菌薬の予防的全身投与は行われていないことが多いです。

また、白内障手術における眼内炎発症における全身抗菌薬の予防効果は、systematic review ではエビデンスが確立されていません。

米国眼科学会(AAO)のガイドライン(2013 年)では、術前の抗菌薬を用いず、開瞼器をかけたあと注射直前にヨード消毒を行うことが記載されています。

2015 年の網膜硝子体学会の「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」では、術前の抗菌薬点眼の必要性については「施設または施設者が個別に判断すべきである」と記載されており、術前点眼の必要性は各医師の裁量として判断してもよいと解釈されます。

添付文書を遵守しないと裁判で負ける?

医療裁判を経験したことがないため、わかりません。

が、海外では抗菌薬を一般的には使っていないところもあるようです。

日本のように術前・術後に抗菌薬を点眼する国,術前点眼はせずに術後のみ点眼する国,術前のみならず術後もほとんど点眼しない国もある。

日本では,まだ前房内投与より点眼による感染予防が一般的であるが,抗菌薬の前房内投与が非常に普及しているスウェーデンでは術前・術後の点眼はほとんど行われていない。

眼科抗菌療法の実戦と留意点|臨床眼科 73巻 11号 pp. 15-19(2019年10月)

添付文書が法的効力などを持っているとは思いませんし(知りませんが)、添付文書が重要なのだったら常に最新情報に合わせて添付文書もアップデートしてほしいと思いますし(実際になされることは少ない)、添付文書にそう書いてあるから、、、というのは保守的な考えですね。

基本的にはそれでいいのですが、保守的過ぎるといろいろと身動きがとりにくいなと思いますし、新しい治療がでてこなくなります。

なので、添付文書がどうこうというより、最新の信頼できるデータを参考にしたほうがよいと思いますし、それで裁判に負けるようなことはないのではないかとは思うのですが、どうでしょう。

それでもあなたは抗菌薬使いますか?

使う側の意見、理由としては、

  • 添付文書に書いてあるので万が一眼内炎などを起こし裁判などになったときのための保身

が主だと思いますが、処方による保険点数も少し稼げます。

使わない側の意見、理由としては、

  • 使用すること有効ではないから(エビデンスがない)
  • 薬剤耐性菌の増加に関与する可能性がある

というものですかね。

私は無駄な薬剤は使わないほうがよいという考えなので、後者ですね。(無駄とまで言えるかはまた別ですが)

以前勤めていた勤務先で、術後の点眼をアホほど出しているところがありましたが、なんというか言葉を失いますね。

まとめ

  • 薬剤耐性菌の出現、増加が危惧されている
  • それによる死亡者が将来急増する可能性を秘めている
  • 不要な抗菌薬の使用をなくすことが求められている
  • 眼科手術の抗菌薬全身投与(点滴・内服)はエビデンスが乏しい(なくても問題ないという研究のほうが多い)
  • 術前・注射前の抗菌薬点眼も同様である
  • 眼内炎を発症し裁判となったときが心配?

眼科手術・注射においては抗菌薬をどうするかよりも、手術時・注射時の清潔操作をしっかり行うことや、術後の患者さんの清潔操作を指導することのほうが大事だと個人的には思います。

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