外傷性視神経症(Traumatic optic neuropathy:TON)についてまとめました。
明確なガイドラインは存在せず、方針としては大きく以下の3つがあります。
- 経過観察(無治療)
- ステロイド投与
- 手術(視神経管減圧術)
レビューからまとめた情報とそこから行うべき検査や治療の方針などにつき記載していきます。
外傷性視神経症とは?
顔面~頭部の外傷によって引き起こされる視神経障害
外傷部位としては、眉毛部外側(こめかみの辺り)が危険とされている

疫学
若い男性に多い疾患
- 発生率は頭部外傷の0.5~2.0%、顎顔面外傷の2.0~5.0%
- 男性に多い(約80%が男性)
- 若年に多い(年齢の中央値は約30歳)
- 外傷の原因は、①転倒(26%)、②自動車(自転車)事故(21%)、③暴行(21%)
- 小児におけるTONの原因は、①転倒(50%)、②自動車(自転車)事故(40%)
病因
病態生理は完全には解明されていないが、以下のような分類・メカニズムが提唱されている。
- 直接TON:視神経管骨折による骨折片が直接視神経を切断・障害
- 間接TON:外力や骨折により視神経管を変形させ視神経を牽引・圧迫もしくは微小循環への障害
上記による障害(一次性)の他に、以下のように二次性にも視神経が障害される。
- 一次性:視神経軸索の機械的遮断、視神経微小循環への損傷による視神経の虚血・浮腫・壊死
- 二次性:損傷したニューロンとは無縁だった隣接ニューロンのアポトーシスによる損傷
診断、臨床所見
頭部~顔面に外傷を認め、視神経乳頭の所見が正常である人で、視神経機能障害(視力低下、対光反射異常など)を認めるときにTONを疑う。
視力検査
正常から光覚無し(医学的失明)までさまざま
対光反射
RAPDが陽性となる
視野検査
低視力では検査困難ではあるが、検討すべき検査
外傷のため様々な視野障害を呈する
眼底検査
視神経萎縮は通常1か月前後から生じるため、受傷直後の視神経乳頭が正常であることを確認する
OCT
障害された視神経から逆行性に網膜神経線維層が菲薄する
「網膜神経節細胞(RGC)の減少は受傷後2週間から始まり、20週で停止する」という研究があり、治療介入をするのであれば少なくともこの時期までには行う(通常は治療介入するのであれば早急に行うが)
CT
視神経管の骨折の有無がはっきりしないことも多い
視神経の描出としてはMRIのほうが優れるが、外傷の際の金属異物の存在の可能性もあり、基本的にはCTを推奨
治療
有効性が確立した治療方法はない
- 無治療で最大50%程度の確率で視機能が改善する
- ステロイド療法による有効性ははっきりしていない(改善率は約50%程度)
- エリスロポエチン製剤の静脈内投与により視機能が改善しやすい可能性がある
- 手術治療による有効性も薬物療法と同程度
- 外傷後2-3日以内の手術が推奨されているが、7日後の治療群と治療成績が同等だったメタアナリシスあり
治療介入する場合は、外傷時の全身状態や、外傷による感染症等を十分踏まえた上で行ったほうがよい
その他、社会的対応
主に転倒、自動車事故(自転車事故含む)、暴行により生じるため、傷害相手、事故相手が判明している場合には、より慎重に診断する必要がある。
また、所見と検査結果の整合性が得られない詐病の場合もあるため注意する。
まとめ
- 顔面・頭部外傷(主に眉毛部外側の外傷)に生じる視神経障害
- 視機能障害は軽度~失明までさまざま
- 自然に回復する症例もある
- 方針は、①経過観察、②ステロイド、③手術が一般的だが、エビデンスのある治療法はない
- 治療を行う場合は、対応可能な脳神経外科にも相談すべき
視神経が切断しているといった状況には治療をしても効きません。ステロイドや手術はあくまで、視神経が切断されておらず、主に浮腫が起こった視神経自身を、狭い視神経管壁による圧迫から解除することが目的です。
普段からCTに見慣れていない眼科医には判断が難しいため、脳神経外科に相談するのが賢明だと思います。ただし治療をしてもその有効性は十分ではないです。
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