遺伝性網膜ジストロフィーの遺伝子治療薬、ルクスターナ®(一般名:ボレチゲン ネパルボベク)がNOVARTISより製造され、2023年6月26日に厚生労働省に認可されました。
基本的に網膜ジストロフィーは治療法がなく、経過フォロー、必要に応じてロービジョン対応が一般的ですが、今回のこのルクスターナによって治療が期待できるのか?
現時点での情報をまとめていきます。
適応疾患
- 遺伝子検査にてRPE65遺伝子の両アレル性変異を認める網膜ジストロフィー患者
- 適切な検査により、生存網膜細胞を有する網膜であること
①は遺伝子学的な採血検査ですね。
②は適切な検査が不明ですが、網膜機能という点では網膜電図でしょうか。黄斑部の視機能が大切なので、多局所ERGが使われるのかと思いますが、詳細不明です。
用法および用量
- 1.5×10^11ベクターゲノム(vg)/0.3mLを左右それぞれの眼の網膜下に単回投与する(網膜下注射)
- 左右眼への投与は6日以上あけるが、短い投与間隔で投与すること(臨床データでは6~18日で投与)
- 同一眼への再投与はしないこと
投与方法は網膜下注射のため、黄斑下手術、すなわち硝子体手術が必要となります。
1バイアル0.5ml中には主成分が2.5×10^12ベクターゲノム(vg)含まれるため、10倍希釈したものを0.3mL網膜下に投与するようです。専用希釈液のバイアル(1.7mL)があるため、うまい具合に希釈するのでしょう。
使用法における注意
免疫応答リスク低減のため、ステロイドを併用して用います。
- 投与前から3日間 PSL1mg/kg/日(最大40mg/日)
- 投与後から4日間 PSL1mg/kg/日(最大40mg/日)
- その後 5日間 PSL0.5mg/kg/日(最大20mg/日)
- その後1日起きに PSL0.5mg/kg/日(最大20mg/日)を3回分
計17日間に15回分PSL内服が必要ということになります。
投与手技、手術操作
- 結膜、角膜及び眼瞼に広域局所抗菌薬を投与すること。
とありますが、抗菌薬点眼と抗菌薬全身投与をするように、ということでしょうか。
- 硝子体を切除したのちに、上方血管アーケードに沿うエリアで、中心窩から2mm以上離れた位置に網膜下注射する
- 術後は24時間、仰臥位で安静にする
仰臥位安静にすることで、重力で黄斑、中心窩付近に浸透させるということでしょう。
もし24時間絶対安静にする場合であれば、閉瞼時のベル現象を考慮すると眼球が上転するので、下方アーケード付近に入れたほうがよいような気もしますが、どうなのでしょう。下方視野のほうが大切だから上方投与なのか、わかりません。
重大な副作用、合併症
- 眼内炎(頻度不明)
- 眼炎症(6.7%)
- 網膜異常(28.9%)
- 眼圧上昇(13.3%)
- 白内障(24.4%)
上記が添付文書上に記載されていますが、これらは硝子体手術における合併症ですね。
手術なので眼炎症は程度が小さいものも含めれば、ほぼ全例出るでしょう。問題になるような強い炎症の場合が記載の通りなのかもしれません。
網膜異常には、黄斑円孔、黄斑変性、網膜小窩障害、黄斑線維症、黄斑症、網膜裂孔、網膜剥離などと記載がありますが、基本的には手術に伴う合併症と考えてよいでしょう。
眼圧は上昇する場合もあれば、手術により低下する可能性も多少あります。
白内障は有水晶体眼での硝子体手術では、多くは発生します。時間経過とともに強く出てくるため、今回のデータでの観察期間での結果だったのでしょう。年齢によっては白内障手術併用で行ってもよいと思いますが、そのような記載はなさそうです。
臨床成績(効果、効能)
評価されたスケールは以下のものとなっています。
- MLMT:multi-luminance mobility test
- FST:full-field light sensitivity thresholdもしくはfield stimulus threshold test
MLMTは、低視力者の運動能力を定量化し、機能的視覚を評価するための検査。
FSTは、視野全体の感度を測る検査。全視野刺激試験。
The multi-luminance mobility test (MLMT) results
上記ページの下方でMLMTの検査がどのようなものか確認できます。
いずれの検査結果も対照群と比べると改善した、という結果です。視力や視野での評価ではなく、日常の歩行や生活が改善したか(MLMT)、網膜の反応がよくなったか(FST)という評価になります。
薬価、価格
アメリカでは両眼で85万ドル(約1億2000万円)とのことです。
日本での価格は不明ですが、アメリカでのこの価格を考えると、日本でも高額になるでしょう。
ちなみに2021年時点では、ルクスターナ(Luxturna)は、アメリカにて最も効果な薬剤第5位にランクインしています。
まとめ
- 遺伝性網膜ジストロフィーに対する遺伝治療薬が日本で承認された
- 価格は未定だが、アメリカではものすごい高額
- 投与方法は網膜下注射(硝子体手術が必要)
- 周術期にはステロイドの内服をする
- 機能的な視覚能、網膜感度が改善したという臨床結果
まず一番気になる価格ですが、日本ではまだ未発表のようです。
投与には硝子体手術の黄斑下手術に準ずる操作が必要、かつ網膜ジストロフィーに関する専門知識を持つ眼科医である必要があり、また高額で新しい治療薬であるため、実際にこの治療を行える眼科医は極一部だと思います。
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