白内障手術は両眼同時のほうが費用対効果が優れている?

目は左右2つあり、両眼とも白内障であれば両眼とも白内障手術をする必要があります。

厚生労働省のDPCデータベース上では、

  • 両眼同時白内障手術件数は、片眼白内障手術件数の5分の1程度

となっており、白内障手術は両眼に白内障があっても、別々の日に手術を行うほうが圧倒的に多い状況です。

目次

白内障手術を左右別の日に行う理由、慣習

白内障手術を左右別日に行う主な理由は、下記の3つになります。

  • 両眼同時の感染性眼内炎が起こらない
  • 術後の屈折値を確認し反対眼の眼内レンズ度数を変更できる
  • 左右別日で手術を行ったほうがコストが取れる

術後感染性眼内炎の観点

白内障手術では最悪失明する可能性のある、感染性眼内炎という怖い合併症が存在します。(発症頻度は数千件に1件程度)

万が一、両眼同時に眼内炎を発症し、最悪の転帰では両眼失明する可能性があります。(両眼同時発症の確率は数千万件に1件程度)

まず起こりませんが、万が一、という精神ですね。

普通の眼科医は生涯に数千万件も白内障手術はできませんので、確率的には全く心配の必要はない内容ではあります。(年間3000件手術している医師が30年やって、10万件届くか届かないかレベル)

術後屈折誤差の観点

白内障手術による術後の屈折誤差が予想以上に大きかった場合、左右の手術を別日にしておけば反対眼の手術の際にレンズ度数を変更することができます。しかし現在においては機械の精度の向上により、術後屈折値が大きく外れることは少なくなってきています。

通常眼の白内障手術であれば、あまり気にしなくてよいと思います。

一方で、強度近視眼、強度遠視眼、レーシック術後、円錐角膜など、特殊な例においては片眼ずつ行ったほうがよいかもしれません。

診療報酬上の利益の観点

白内障手術は眼科における最大の手術件数を誇る治療であり、両眼同時手術・片眼ずつの手術での利益に差があれば、件数が多い分、利益差もどんどん大きくなります。

現在の診療報酬では、両眼同時よりも片眼ずつ行った方が医療機関の利益になります。

であれば特殊な事情がない限りは片眼ずつ手術を行いますよね。

両眼同時手術は片眼ずつの手術と同等の安全性、有効性

医学系雑誌の大御所であるLancetにて、両眼同日に白内障手術を行った場合と、左右を別日に行った場合において、安全性(合併症など)、有効性(屈折誤差など)に差はなかったと報告されています。(2023年6月)

本研究では、

  • 異常な眼軸長(< 21 mm または > 27 mm)
  • 両眼の眼軸長の差が > 1.5 mm

や、高度角膜乱視、円錐角膜などは除外されていますので、「通常の白内障では」と考えた方がよいです。

※オランダの研究です

Safety, effectiveness, and cost-effectiveness of immediate versus delayed sequential bilateral cataract surgery in the Netherlands (BICAT-NL study): a multicentre, non-inferiority, randomised controlled trial|Lancet. 2023 Jun 10;401(10392):1951-1962.

費用対効果は両眼同時手術のほうが高い

左右の手術を別日に行うと、

  • 片眼手術後の術後診察のための通院
  • 片眼手術後の反対眼手術のための通院(日帰りの場合)もしくは入院
  • もしくは1度の長い入院の上、別日での両眼手術

というように、通院回数や入院日数が多くなります。

1度に両眼の手術を行えばこれらは削減できるため、医療費上のコストは削減されます。また、通院にかかる交通費などの負担、送迎のために家族が仕事を休む日数なども減り、さまざまな費用が削減できるでしょう。

今後、両眼同時白内障手術が増えていくか?

同等の有効性、安全性で、費用対効果がより優れるのであれば、両眼同時手術を推奨していくほうがよいです。

しかしそれにはまず、両眼同時手術により得られる利益を、片眼ずつ2回と同等もしくはそれ以上にあげる必要があります。

両眼同日に白内障手術をやればやるほど、片眼ずつ手術よりも損をするなら、普通は行いません。

医者

私のクリニックは損をするけど、社会貢献のために両眼白内障手術を進んでおこなっています!

なんて医者はあまりいないでしょう。

※ただしこの辺りは、手術の際にかかるコスト(手術器具や人員の配置など)をどの程度うまく扱うかによっても変わってきますので、必ずしも損をするとも限りません。

まとめ

  • 日本においては白内障手術は左右別日で行うのが多数
  • 両眼同日に行っても有効性、安全性は劣らない
  • 両眼同日に行うと医療機関への通院回数などが減り費用対効果が高くなる
  • 日本においては両眼同日手術のほうが医療機関が得られる利益は少ない
  • 今後両眼同日手術がさらに普及するかは制度の整備次第か

利益なしに考えれば、医者側としても入院や日帰り手術のための準備、手続きが1回で済み、その後の通院回数も減るため、両眼同時手術のほうが楽なはずです。同意書も「両眼」白内障手術、で1枚で済み、そういった雑務、手間が減るはずです。

あとはやはり、診療報酬上の整備次第な気がしますね。

Safety, effectiveness, and cost-effectiveness of immediate versus delayed sequential bilateral cataract surgery in the Netherlands (BICAT-NL study): a multicentre, non-inferiority, randomised controlled trial|Lancet. 2023 Jun 10;401(10392):1951-1962.

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