白内障と認知症、どちらも高齢になるとなりやすくなる病気です。
白内障は視力が下がって見えにくくなったり、視界がかすんだり、まぶしく見えたりする病気です。(病気というより歳をとると全員なるので、加齢による変化とも言えます。)
外界の視覚情報が眼内に入りにくくなり、その情報が脳に到達しにくくなります。そうなると認知症が進行しやすくなるのか?という話です。
白内障と認知症の関係は?
白内障とそれによる影響を考えます。
- 白内障があると網膜に外界の光が届きにくくなります
- その結果、脳へ到達する情報が減り、視力が低下します
- 視力が低下、すなわち見えにくい状態です
- 見にくいと、つまずいたり転んだりして危ないので、行動範囲が狭くなります
- 行動範囲が狭くなると、社会活動性が減ります(出かけたりしなくなりやすい)
- また見にくいと、転倒したりするリスクもあがります
- 転倒・骨折し、寝たきりになると、同様に行動範囲が限定され活動性が低下します
- これらのことで、認知機能の低下が進行する可能性があります
まとめて書くと、以下のような形になります。
- 目からの光情報が減ることでの脳への刺激の低下
- 見にくいことによる活動性の低下
- さらに転倒・骨折などによる身体的制限で更なる活動性の低下
見えないことで脳が刺激されない、見えないと行動しなくなる、見えない状態で行動すると転ぶリスクも高くなる、転んで安静が必要になるとさらに行動できなくなる、これらが原因で認知症になりやすくなる可能性がある、ということです。
このように考えると、視力が低いと認知症は進行しそうな気がします。
視力が0.6以下だと認知症のリスクが2.4倍あがる?
検索エンジンで検索すると、「視力が悪くなると認知症の発症リスクが2倍」などという記事が散見されます。
出典は、奈良県立医科大学のEffect of cataract surgery on cognitive function in elderly: Results of Fujiwara-kyo Eye
Study(Plos one. 2018)という文献。そのdiscussionの中の一文、
Furthermore, subjects with mild visual impairments (BCVA >0.2 logMAR unit) had 2.4 times higher risk of having dementia than those without visual impairments after adjusting for age, sex, and length of education.
を翻訳すると(Google翻訳)
「さらに、軽度の視覚障害 (BCVA > 0.2 logMAR 単位) を持つ被験者は、年齢、性別、および教育期間を調整した後、視覚障害のない被験者よりも認知症になるリスクが 2.4 倍高かった。」
となり、この一文をもとに「視力が悪くなると認知症の発症リスクが2倍になる」と言っているようです。
ここでは白内障というより、”視力低下”が原因でということになりますが、白内障になればたいてい視力は下がります。また、歳をとればたいていの人は白内障になります。
間接的には白内障も認知症のリスクとなり得るということですね。
ちなみにlogMAR視力 0.2は、普段日本で用いている小数視力では0.64です。多めにみて、視力0.6以下だと認知症のリスクが高くなる、ということになります。
0.6程度で認知症が進行すると言われると、逆にそれはそれで「そうかな?」という気もしますが、0.6以下も含まれているのでまぁ認知症は進行するのでしょう。
白内障と認知症の関係のレビュー
他のレビューでの視力障害と認知症の関係については以下のようなものがあります。引用部分は結論をGoogle翻訳で日本語化したものです。
Visual Impairment, Eye Diseases, and Dementia Risk: A Systematic Review and Meta-Analysis|J Alzheimers Dis. 2021;83(3):1073-1087では、30件の論文からまとめたもので
結論: 視覚障害、白内障、および糖尿病性網膜症は認知症を発症する可能性の増加と関連しているため、早期診断は認知症のリスクがある人を特定するのに役立つ可能性があります。
The association between vision impairment and cognitive outcomes in older adults: a systematic review and meta-analysis.|Aging Ment Health. 2023 Feb;27(2):350-356では、16件の論文から76373人の参加者を含むまとめで
結論: 視力障害は、横断的および縦断的研究全体で、認知障害および認知症のリスク増加と関連していました。
Vision impairment and cognitive decline among older adults: a systematic review.|BMJ Open. 2022 Jan 6;12(1):e047929.では110件の論文からまとめたもので
結論: 私たちのシステマティック レビューは、視覚と認知の関係を調べる研究の大半が、視力障害が高齢者の認知機能低下、認知機能障害、または認知症と関連していることを報告していることを示しています。
The Bidirectional Relationship between Vision and Cognition: A Systematic Review and Meta-analysis.|Ophthalmology. 2021 Jul;128(7):981-992では、40件の研究が含まれ47913570人をまとめたもので
考察: 全体として、私たちの研究は視力障害が認知症の危険因子であることを示唆していますが、視力障害の危険因子としての認知症の関連性を確認するにはさらなる研究が必要です。
と記載されています。
このように、多くのレビューで認知症と視力障害の関連性が示唆されています。
見えにくかったら動きにくくなるし、動かなくなれば身体も弱るしボケてくるし、見にくくてつまずいて転倒・骨折し寝たきりなんてなればさらに動かなくなったボケてくる。
というようなことは容易に想像できると思います。
認知症を考える上で、白内障の治療をすべきタイミングは?
白内障手術は全身麻酔でもできますが、基本的には局所麻酔(意識のある状態)で行うのが一般的です。
手術時間は長くはありませんが、細かい操作が多いため、患者さんにはできるだけじっとしてもらえないと危ないです。したがって、認知症が強くあってこちらの言葉に反応して従っていただけない状態、じっとしていることができない状態だと、局所麻酔での手術は難しくなります。
白内障手術を受ける人はたいていが高齢者であるため、手術時期が遅くなると認知症のリスクはもちろん、その他にも老化、その他の病気の影響で身体の状態も悪くなる可能性があります。
現在元気で目もよく見えているけど、5年後10年後には白内障が強くなって見にくい状態になっているかもしれないし、そのような状態でも身体の状態が悪くてなかなか手術を受けられないこともあり得ます。
さらに認知症がとても強くある状態では、局所麻酔での手術は難しくなります。全身麻酔で手術をする場合、全身麻酔による身体への負担も加わってくることになります。身体の状態によっては全身麻酔による身体へのリスクも高くなります。
なので
認知症や、そのほか今後の健康のことを考えて、
ある程度の年齢になったら白内障手術をしておくということも一つの案ではあります。70代くらいになって、白内障は強くないけど今後のことも考えて手術希望という方がいれば、私だったら手術します。
また、今回のレビューにあったように、視力低下は認知症へ影響している可能性があります。ある程度視力が下がってきた場合は、白内障手術を先延ばしにせずしたほうがよいかもしれません。
まとめ
- 視力が低下していると認知症は進行しやすい可能性がある
- 白内障手術をして視力回復すると認知症が進行しにくくなる可能性がある
- 認知症が強くなると白内障手術ができないことがある
- 認知症が悪化しすぎる前に白内障手術をしておくのも一つの案
寿命が伸びた現代では、健康に長生きすればほぼ100%の人が白内障になります。
認知症の観点からも、遅すぎないタイミングでの白内障手術をおすすめします。
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