失明の原因疾患を日本と世界で記載しました。
この記事では
- 失明の定義、基準
- 日本と世界での失明原因の違い
- なぜその違いが起こるのか
などを記載しています。
これらを知ることで日本と世界の現状を知ることができると思います。
失明の定義やデータの時期、引用元などにより差はありますが、最近の結果も載せました。
失明・低視力の定義
日本の眼科的には失明=光を完全に失っている状態(光覚弁なし)を意図することが多いですが、さまざまな定義があります。
失明
完全に光を失っている状態でなくとも、失明と表現されます。
- 医学的失明=全盲(光覚なし)
- WHO基準=良い方の眼が視力0.05未満 or 中心10度以内の視野(視力に関わらず)
- 米国基準= 良い方の眼が 視力0.1以下
医学的な失明は光を完全に失った状態(光覚なし)を失明と言いますが、そこまでいかなくともほとんど見えていない状態では社会的失明となり、上記のように基準があります。
低視力
low visionといったり、visual impairmentといったりします。
- WHO基準=良い方の眼が視力0.05-0.3未満
- 米国基準=良い方の眼が視力0.1-0.5未満
良い方の視力とは、最高矯正視力ではなく、現視力を用います。
=日常で使用している眼鏡やコンタクトレンズでの視力(使用していない場合は裸眼視力)
矯正すれば見える状態でも、矯正していなければ見えていない状態で、かつ普段矯正していないのであれば、普段は見えていない状態だからです。これは特に名前はないのですが、生活視力・現視力(現在の状態の視力)といいますか、日本の眼科ではあまり重視されないのですが、結構大事なことではあります。
日本の失明原因疾患
正確には、視覚障害者(身体障害者)の原因となった眼疾患(2015)としてのデータが、失明疾患として扱われているに過ぎません。身体障害者の視覚障害における基準は下記記事を参考にしてください。
視覚障害者(身体障害者)の原因となった眼疾患(2015)のデータを示します。
- 1位 緑内障(29%)
- 2位 網膜色素変性症(14%)
- 3位 糖尿病網膜症(13%)
- 4位 加齢黄斑変性(8%)
- 5位 脈絡網膜萎縮(4%)
上記の「緑内障」は具体的な緑内障の種類まで記載はありません。従って、様々な疾患による続発性緑内障が含まれている可能性がありますが詳細は書いてありませんでした。(糖尿病からの血管新生緑内障なども含まれている可能性あり)
ポイント
- 失明原因ではなく視覚障害者認定の原因疾患
- 新規視覚障害認定者数は減少傾向
- 緑内障は増加傾向
- 糖尿病網膜症、網膜色素変性、黄斑変性は減少傾向
1位の緑内障、3位の糖尿病網膜症は、早期発見し進行しないように治療することで、抑えることができる疾患です。
世界の失明・低視力原因疾患
世界全体での失明疾患は、日本とは医療水準が異なるため原因が異なってきます。日本では治療、対応すれば改善するので失明の原因疾患となりえないことも、世界では原因になります。
世界の失明疾患(2015)
- 1位 白内障(35%)
- 2位 未矯正屈折異常(20%)
- 3位 緑内障(8%)
世界の低視力疾患(2015)
- 1位 未矯正屈折異常(52%)
- 2位 白内障(25%)
- 3位 加齢黄斑変性(4%)
ポイント
- 視覚障害の90%は発展途上国
- 視覚障害は高齢者、女性に多い
- 寿命の延長と、貧困社会での医療サービスへのアクセス困難が原因とされる
日本では、①白内障は手術で治療可能、②未矯正屈折異常は眼鏡でより簡単に対応可能ですが、世界ではそれらが主な視覚障害の原因となっています。
つまり、世界の地域によっては、日本では当たり前に受けられる治療が受けられずに、低視力・失明となっている、というわけです。(白内障手術が受けれない、眼鏡が作れない環境)
逆にいうとこれらの人は、白内障手術を受け、眼鏡を作れば、低視力・失明ではなくなります。
世界の失明、低視力原因(直近のもの)
最近のレビューでは以下のようなものもありました。
世界の失明原因
- 白内障(51%)
- 緑内障(8%)
- 加齢性黄斑変性症(5%)
- 角膜混濁(4%)
- 小児失明(4%)
- 屈折異常(3%)
- トラコーマ(3%)
世界の低視力・失明原因(年代別)
左のグラフは低視力、右のグラフは失明
どちらも白内障が占める割合が高く、低視力では未矯正屈折異常も多く占める一方、失明では未矯正屈折異常は少なくなっています。
まとめ
- 日本の視覚障害者の原因は、①緑内障、②網膜色素変性症、③糖尿病網膜症
- 世界の視覚障害の原因は、白内障と未矯正の屈折異常が多くを占める
このデータをもとに、日本では「緑内障での失明が増えている」ということが言われています。
しかしあくまで、身体障害者手帳のデータをもとにしたものであるということ、緑内障の分類まではしていないこと(続発性が含まれている可能性あり)は注意しないといけません。
勿論緑内障が大事な疾患であることに変わりはありませんが、これを理由に過剰な治療を行うことは違うと思いますので、それぞれの患者に適切な治療をしていきましょう。
一方世界では「眼鏡がない」「白内障手術が受けれない」ことで見えにくい人がたくさんいるということになります。これらは治療、矯正をすれば「見える」ようになる状態ではあります。したがって治療すれば低視力、失明の状態からは改善します。しかし実際にはそれらを受けることができていないため、失明・低視力として扱われます。
つまり、
- 日本のおいては治療・通院した上で改善の余地のない状態の失明
- 世界においては未治療の生活視力における失明
の判定になっているという違いがあることに注意です。
生活視力は日本の眼科においては重視されない傾向ですが(最高矯正視力のみを測ることが多い)、重要なので一度ご確認ください。
確かに病的異常を診るという点ではあまり重要ではないですが、患者一人一人のQOV(見え方の質)を考えると最高矯正視力はむしろ生活視力を反映していないため、逆に重要でなくなってしまうとすら考えられます。
まぁつまり、偏り過ぎずに最高矯正視力も、裸眼視力も、現在の矯正視力もたまに測るといいと思います。
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