いきみ過ぎると眼底出血を起こすことがある!?
バルサルバ網膜症(Valsalva retinopathy)についてです。
筋トレ時の息止め、息こらえはなるべくしないようにしましょう。
概要
バルサルバ網膜症は胸腔内圧の上昇に続発する網膜前出血を特徴とする網膜症であり、Thomas Duaneによって1972年に初めて報告された疾患です。全身状態に関係なく、誰にでも起こる可能性があります。
- 咳、くしゃみ
- 息こらえ
- 嘔吐
- 排便時(便秘)
- 重い物を持ち上げる
- 筋トレ
- 吹奏楽器の吹込み
これら胸腔内圧を上昇させる行為・行動(バルサルバ手技)の後に、眼底出血を来すことがあります。
バルサルバ(Valsalva)出血性網膜症といい、通常数週間~数か月以内に出血は吸収され予後は良好ですが、出血が起こった場所や出血の広がりによっては視力低下の後遺症を残す可能性もあります。
発症機序
いきむことにより
→胸腔内圧の上昇
→頸静脈圧の上昇
→眼内静脈圧の上昇
→中心窩周囲の表在性網膜毛細血管の破綻
→内境界膜下出血
という原理で網膜で出血を起こします。
原因
- 咳、くしゃみ
- 息こらえ
- 嘔吐
- 排便時(便秘)
- 重い物を持ち上げる
- 分娩
- 筋トレ
- 有酸素運動
- 吹奏楽器の吹込み
- 緊張
- 性行為
- 心肺蘇生後
- 災害や事故などでの圧迫受傷時
など、いろいろな原因があげられています。
症例をまとめたケーススタディでは、誘因は運動(40%)、嘔吐(22%)、他のようです。
所見
写真はYAGレーザーでの治療を行ったもの
- 出血は円形・楕円形で境界明瞭
- 出血は黄斑部、動静脈交叉部に発生
- 基本的には出血は内境界膜下、網膜前出血(後部硝子体膜下出血)
- 網膜下出血や硝子体出血となることもある
症状
- 痛みを伴わない突然の片目の視力低下(まれに両眼もあり)
- 中心暗点
- 飛蚊症
- 赤みがかった視界
物を見る中心部に、急に出血が覆うため、出血の量によっては全く見えなくなります。
治療
出血は自然吸収されることが多く、基本的には経過観察しますが
出血の存在場所によっては治療介入が行われることがあります。
- Nd:YAGレーザー
- 硝子体手術
- ガス置換
Nd:YAGレーザー
- レーザーにて内境界膜(ILM)に穴を開け出血を硝子体側へ拡散させて(その後下方に落ちる)吸収を促す
- レーザーはILM下出血のある最下端で行う
硝子体手術
- 手術により直接出血を取り除く
- 硝子体出血が強く存在する場合など
ガス置換
- 眼内にガスを入れガスの浮力で出血部を押し出血を黄斑部から移動させる
- 網膜下出血がある場合など
鑑別疾患
- 高血圧性網膜症
- 鎌状赤血球貧血
- shaken baby syndrome
- テルソン症候群
- 網膜細動脈瘤破裂
- 貧血性網膜症
など。「後部硝子体剥離時に出血を生じることもあるため、周辺部の裂孔の有無も確認する必要がある」という文献内の記載もありましたが、周辺部に出血の原因となる裂孔があれば基本的に出血は周辺部(裂孔周囲)にありますので、アーケード内に限局したILM下出血は起こさないのであまり心配はないと思います。
バルサルバ網膜症であるということが確実であればその他に調べる必要はありませんが
鑑別疾患を除外する上で、主に上記のものを鑑別するために採血検査や血圧など、全身検査も行ってもよいと思います。
まとめ
- いきみ過ぎると眼底出血をすることがある(Valsalva網膜症)
- 珍しい疾患であり、めったには見かけません
- 予後は良好で、視機能に後遺症を残すことは少ない
- 治療は経過観察が基本、場合によっては治療行為を行うこともある
出血を起こした直後から出血が吸収されるまでは非常に見にくくなります。
また、筋トレのときなどの息こらえは行わないほうがよいでしょう。息こらえは迷走神経反射を起こす可能性もあり、筋トレのときは特に危ないです。(こっちの方が有名)
しかし、いきむことなんて普段の生活でもあると思いますが、そんな簡単に出血していたらそこら中に眼底出血患者だらけです。
従って、実際に出血する可能性は低く、あまり心配はしなくてよいです。(しかも予後良好)
基本的には「こういうことが起こる可能性もある」という認識でokな豆知識的疾患です。
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