白内障手術に超重要 チン小帯の役割・解剖・断裂・調節について

チン小帯(×こたい、〇しょうたい)の話。チン小帯とはZinnさんにちなんで名づけられた目の構造物で、毛様体小帯(もうようたいしょうたい)とも言います。ZinnZinn言っている記事ですが、最後までお付き合いください。

目次

チン小帯とは

チン小帯は、目の中のレンズである水晶体のまわりにたくさんくっついている、毛様体から出る線維状(糸みたいなもの)物質です。

チン小帯と毛様体と水晶体

チン小帯は、毛様体から発生して、水晶体に付着しています。(正確には水晶体の外層、水晶体嚢という水晶体の表面の皮に付いています)

付着して、水晶体その位置にとどめる、支える役割をしています。

Zinnは目のなかのレンズ(水晶体)を支えている

チン小帯断裂

チン小帯が切れることを、チン小帯断裂といいます。

チン小帯が切れると、水晶体(レンズ)がぐらぐらになります。

水晶体ぐらぐら状態

すべてのチン小帯が切れてしまうと、水晶体は硝子体のほうへ転がり落ちます。

かなしみの瞬間

一部チン小帯が切れて少しずれている程度であれば様子見でもよいですが、上の二つのイラストの程度ではどちらも手術適応です。

水晶体は目の中のレンズなので、位置がずれるとぼけてしまい見えにくくなってしまいます。簡単にいうと、眼鏡がないとぼやけて見えない人に、眼鏡のレンズの位置を目からずらして見ているような状態です。



これじゃ、見えません

せっかくよく合っていて見やすい眼鏡を作っても、こんなずれた掛け方していたら、あたり前ですが眼鏡の役割を果たしていませんよね。レンズは適切な位置にないと、意味がないということです。

目のなかのレンズ(水晶体)も同様で、適切な位置にないと意味がないということです。チン小帯が水晶体の位置を固定しているので、チン小帯が切れてレンズの位置がずれてしまうと、見えにくいですよ、ということです。(その他にも目にとっていろんな悪いことが起こりやすくなりますが、割愛します)

ということで、チン小帯は大事ということです。

Zinnが断裂すると、水晶体が脱臼・落下する

チン小帯の役割

チン小帯は水晶体の周囲についていることで水晶体を支えるという役割のほかに、調節という作用にも関わります。

調節とは、チン小帯の線維が緩むことで水晶体を引く力が弱くなり、水晶体がやや厚くなって、近くを見やすくする反応です。

遠くを見ているときはチン小帯はピンと張っていて、水晶体を強く引っ張り、水晶体は薄くなっています。近くを見るときにはチン小帯がゆるんで、水晶体を引っ張る力が弱くなり、水晶体が厚くなります。水晶体の厚みが変わることで、見やすい奥行きが変わるのです。

この状態は遠くにピントが合って遠くが見やすい
この状態は近くにピントが合って近くが見やすい
  • チン小帯が緩む→水晶体が厚くなる→近くが見やすい
  • チン小帯が張る→水晶体が薄くなる→遠くが見やすい

これらは意識して行っているわけではありません。自動的に、勝手に行われる反応です。歳を取ると、水晶体が硬くなって、チン小帯が引っ張る力を変えても水晶体の厚みはほとんど変わりません。これが、老眼です。

さらに細かく言うと、チン小帯がゆるむ・張るには、チン小帯のつけ根である毛様体が動くことで生じます。毛様体の輪状筋が収縮すると(縮瞳する方向に働くと)、その分チン小帯がゆるんで結果的に水晶体への引く力が弱くなりり、水晶体が厚くなって近くが見やすくなります(調節)。

逆に毛様体筋が弛緩すると(散瞳する方向に働くと)、チン小帯は引っ張られるので結果的に水晶体も引っ張る方向に力が働き、水晶体が薄くなります。

  • 毛様体が弛緩→チン小帯が緩む→水晶体が厚くなる→近くが見やすい
  • 毛様体が収縮→チン小帯が張る→水晶体が薄くなる→遠くが見やすい

Zinnは遠く~近くの見え方にも関与する

チン小帯は見えない

チン小帯自体は水晶体の赤道部(レンズの端)についている構造物であり、水晶体の前方には虹彩(茶目)があるため、基本的には見えません。

チン小帯は眼内の端のほうにあるので見えない

角度をすごい付けて眼科の顕微鏡で見たり、散瞳を精一杯させれば見えたりすることもありますが、基本的には隠れています。

真正面から見た感じでチン小帯がどの辺りにあるかというと、

こんな色の虹彩は存在しませんが・・・
瞳孔よりもかなり外側にチン小帯はある

チン小帯がついている位置は瞳孔(黒目)よりもかなり外側についているので、普通は見えないのです。

点眼薬で散瞳させる(瞳を開かせる)と、非常に散瞳している場合にたまに見えることがありますが、基本的には隠れていて見えないところにあるもの、と考えてよいです。

Zinnは見えないところにある

白内障手術時に非常に重要

チン小帯は水晶体を支えています。白内障手術では、水晶体の中身を吸い取って、代わりに人工レンズを入れる手術です。支えが弱い水晶体を手術のときに触ると、ぐらぐらしてしまい、手術の難易度が上がります。

また、完全に切れてしまうと上述のように、レンズは目の奥に落ちてしまいます。そうすると硝子体手術という目の奥の手術も併用しないといけません。

Zinnが弱い人は手術が難しい

チン小帯が弱くなる原因

チン小帯が弱いと手術が難しくなります。ではどのような人がチン小帯が弱いのでしょうか。チン小帯が弱くなる原因として大きく3つが有名です。

  1. 加齢
  2. 外傷後
  3. 落屑

歳を取ると身体は衰えていくので、ある程度仕方ないです。ただし基本的にはそんなにチン小帯が弱い人は、多くはないです。

外傷、すなわち目に衝撃をうけたことがある人は、その衝撃の際にチン小帯がいくらか切れることがあります。目への衝撃を繰り返していると、チン小帯がすべて切れて、水晶体が落下することがあります。

落屑とは、目のなかに溜まるフケみたいなものです。目のなかにフケが出やすい人がいます。そのような人はチン小帯が弱いことがあります。

チン小帯の解剖(専門向け)

以下はマニアックな内容になります。チン小帯の細かな解剖です。

チン小帯のこまかな分類
  • チン小帯は前部チン小帯、赤道部チン小帯、後部チン小帯に分かれている
  • 前部チン小帯は前嚢、赤道部チン小帯は赤道部の嚢、後部チン小帯は後嚢に付着している
  • 後部チン小帯は前部硝子体膜と一体化しWieger靭帯を形成し輪状に後嚢と付着している
  • 前部硝子体膜と後部チン小帯が一体化し隔壁として作用し房水の硝子体側への流入を防いでいる

房水が硝子体側へ回ってしまうと、IMS(infusion misdirection syndrome)という術中合併症が起こり、手術難易度がグンと高くなります。場合によっては手術を中止しないといけなくなります。

簡単にいうと、房水が硝子体側へ回ることで硝子体圧が上がり、後嚢が前房方向へ押され、前房が消失します。前房が浅くなるパターンと深くなるパターンがありますが、詳細は専門書を参照してください。

まとめ

  • チン小帯は水晶体の周囲についている線維
  • 水晶体を支えている
  • 調節という役割にも関与する
  • チン小帯が切れると水晶体はぐらぐら、落下する
  • チン小帯が弱いと白内障手術の難易度が上がる

眼科のZinn、とっても大事だということが分かりましたでしょうか。

Zinnが非常に悪い状態だと、オペレーション(手術)がなかなかうまくできずに長引いたり、悪い影響(合併症)が出ることがあります。逆にオペレーション(手術)のときに、できるだけZinnに負担を与えない人がテクニシャン(上手な術者)ということです。

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