術後眼内炎は発症頻度は低いものの、術後合併症における重篤な合併症であり、非常に重要です。
また中毒性前眼部症候群(toxic anterior segment syndrome: TASS)という病態があり、白内障手術などの術後感染性眼内炎との鑑別に注意を要します。
術後眼内炎プロトコール
抗生剤の作り方は下記を参照。
TASSとは
- 内眼手術後に非感染性に生じる術後炎症反応
- 消毒液や防腐剤、粘弾性物質、眼軟膏が原因
- 術後24時間以内に発症する
TASSは上記を特徴とする、非感染性の眼内炎症であり、術後24時間以内に強い前房内炎症や角膜浮腫などが出現し感染性眼内炎と似た所見をきたします。白内障術後の無菌性眼内炎として命名されたものです。
TASSは中毒性前眼部症候群toxic anterior segment syndromeというように、前眼部所見が特徴であり硝子体混濁は認めません。
TASSは眼内炎と似た所見をきたしますが、治療がTASSはステロイドであるのに対し、眼内炎は抗菌薬になるので注意が必要です。
- 角膜混濁、びまん性角膜浮腫
- フィブリン析出、前房蓄膿
- 重症例では続発性緑内障や水疱性角膜症などを引き起こす
- 眼痛が軽度、硝子体混濁を伴わない、発症時期が術後24時間以内
TASSといってしまえば白内障術後を指すので上記所見となりますが、硝子体手術併用時にももちろん同様の病態での炎症は起こしうるので、その場合は硝子体にも炎症が存在すると思われます。(この場合はTASSと言うのかどうかは不明)
TASS予防
TASSは手術時のさまざまな薬品などの眼内残留、眼内流入によって生じるため
- 前房内洗浄をしっかり行うこと
- 手術終了前に眼表面もしっかり洗うこと
- 創部の閉鎖をしっかり行うこと
- 眼内圧をある程度上げておくこと
が、予防となります。
もちろんこれらは、TASS予防であるとともに、感染性眼内炎の予防にもなります。粘弾性物質が残留しているとTASSだけでなくその部分に細菌が繁殖し嚢内に残留しやすくなったり、眼内圧が低いと圧力差で創口から前房内に物質が流入しやすくなります。
術後眼内炎 詳細
術後眼内炎の発症時期や、原因菌などについてです。
眼内炎 4大起因菌
- コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
- 腸球菌
- 黄色ブドウ球菌(MRSA)
- アクネ菌
+αで緑膿菌
発症時期による分類
発症時期により原因、原因菌の種類が変わってきます。(もちろん一対一対応ではありませんが)
24時間以内 TASS
手術時の消毒液、防腐剤、粘弾性物質、眼軟膏などに対する反応性の非感染性炎症
→治療は消炎、ステロイド中心
術後24時間以内に強い前房内炎症や角膜浮腫などが出現した場合はTASSを疑います。
1~3日(1週間以内) 急性感染性眼内炎
- 黄色ブドウ球菌(耐性菌MRSA)
- 腸球菌(耐性菌VRE)
- 緑膿菌(耐性菌MDRP)
→バンコマイシンでMRSA・腸球菌に、セフタジジムで緑膿菌に
VREはバンコマイシンもセフタジジムも効きません。フェカーリス(faecalis)の場合アンピシリン、フェシウム(faecium)の場合リネゾリド、ダプトマイシンなどに感受性があります。
2週間程度 亜急性感染性眼内炎
- コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(耐性菌MRSE)
→バンコマイシンが効く
数週~数か月 慢性感染性眼内炎
- アクネ菌
→バンコマイシン、セフタジジム両方とも感受性+
※勿論発症時期だけでの鑑別は不可能なので、状況に応じて治療法は適宜検討してください。
術後眼内炎の治療
「白内障術後眼内炎初期治療プロトコール」で検査すればWEB上にアップされていますので参考にするとよいと思います。
- 点眼
- 硝子体注射
- 点滴
- 硝子体手術
基本的に上記の4つを組み合わせて行いますが、所見が強い場合は早めの硝子体手術が望ましいです。
理由は
- 点眼、点滴からの薬剤眼内到達率は高くはない
- 感染拡大源となる硝子体は切除した方が根本的かつ手っ取り早い
からです。改善が乏しい場合は早めの手術をお勧めします。
眼内炎のときの手術は炎症により疼痛が強いので、充分な麻酔・鎮痛をしましょう。
また、手術後も術後炎症が非常に強くでることも多いですが、その場合は再度手術を行っても同様の経過となることが推定されるので、手術以外の3つの治療でしばらく様子を見ていくこともありです。
まとめ
- 術後眼内炎は手術における重篤な合併症の一つ
- バンコマイシン0.5gとセフタジジム1gと生理食塩水50mlを2つ
- TASSは非感染性の眼内炎で術後24時間以内の発症
- TASSと感染性眼内炎の判断は慎重に
- TASS→ステロイド治療、眼内炎→抗生剤治療
所見が強いときは早めのフォローや早めの治療を検討しましょう。
コメント