「妊娠 視力低下」と検索するとだいたい「ホルモンバランスが原因で~、…時間が経つと治ることが多いです」
となんだかはっきりしない感じで書いてあることが多く、医学的な見解として書いてあるものは多くありません。
なので今回は
論文ベースに妊娠と視力低下、主に屈折値(度数)の変化について調べた上でお伝えします。
妊娠中に視力が悪くなった、メガネ・コンタクトの度数がズレたなどの経験談、心配のある方は参考になるかと思います。
妊娠中は度数が変化しやすいは本当なのか?
答えは、度数がズレやすい可能性はあるけど全員がなるわけではない、です。
実のところ眼科学を学んでいる身としても、妊娠と屈折値の変化(裸眼視力の低下)に関しては参考書などで読んだ記憶はあまりなく、今回調べた結果いろいろ分かったというくらい、あまり重要ではないテーマかもしれません(知らなかっただけかもしれませんが)
いくつかのレビュー(まとめ論文)を見てみると、度数がズレる傾向はあるものの、反対に度数がズレやすいことはないという論文もあったり、決定力に欠けています。
すなわち、度数がズレて視力が下がる可能性もあるけど、そんなに多くはない、です。
1D程度近視化するというレビューが以下。
「近視化する」は、遠くが見にくくなる状態。詳しくは以下を参考に。
「度数はズレる傾向はあったが、近視・遠視バラバラにズレた」というのが以下の論文。
度数が変化しやすい原因は角膜の厚みやカーブの変化のため?
度数がズレる(屈折値が変わる)主な原因は、角膜であることが考えられているようです。そしてズレた場合も、出産後は自然と改善することが多いようです。
妊娠中の角膜の変化
- 角膜知覚の低下
- 角膜厚の増加(1-16μm)
- 角膜曲率半径の増大
- 近視化(1D程度)
- いずれも分娩後~数ヶ月程度で改善
具体的に何割の人がなるかなどの記載はなく、傾向があるだけで全員がなるわけではありません。
コンタクトが合わなくなると感じる原因は?
コンタクトレンズの装用中に生じる痛みやかゆみなどの不快感など、コンタクトが合わないと感じ継続的な使用ができなくなる状態を、コンタクト不耐症(ふたいしょう)と言います。
妊娠中に視力が悪くなったと感じる中に、コンタクトが合わなくなったと感じることもあると思います。コンタクト不耐症の主な原因は、ドライアイ(涙の減少)、アレルギーですが
妊娠中は先程述べた、角膜の形状が変わる影響でコンタクトが合わなくなったように感じる場合もあるようです。(ドライアイにもなりやすいようですが)
妊娠によるその他の変化
妊娠中は妊娠の時期にもよりますが、体液循環が変わる影響によって、病気がなくても全身性の浮腫(むくみ)が生じることが30%程度にあります。
その影響で
- 眼瞼腫脹(まぶたの腫れ)
- 脈絡膜の肥厚
などが生じることがあります。
また性ホルモンに親和性のある細胞は、眼瞼、涙腺、マイボーム腺、結膜、角膜、虹彩、毛様体、水晶体、網膜 (網膜色素上皮)、脈絡膜と様々なところに存在しており
つまりは眼球全体に影響が出ておかしくない、ということになります。
治療は急がず、経過観察?
見にくくなって困るかもしれませんが、病的なものがなければ、分娩後~数ヶ月程度で改善することが普通なので、まずは様子を見ることをおすすめします。
ただし生活に困るくらい見えない場合は、とりあえず安めのメガネを作ることをおすすめします。コンタクトは不耐症のこともあるので、メガネのほうがおすすめです。
出産後に屈折値がまた元に戻って、メガネが不要になることも考え、「安い」メガネというところがポイントです。
これらは一時的な変化であり、病気ではありません。
しかし病気があると、見にくい状態が残存したり、悪化したりする可能性もあります。
妊娠中に起こりやすくなったり悪化しやすい眼科の疾患はあります。(糖尿病網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症など)
なので、ちょっと眼の調子がおかしいなと思うときは、眼科を受診することをおすすめします。
まとめ
- 妊娠中は屈折値が変わる(度数が変化する)可能性がある
- 角膜の曲率や厚みの変化が原因の可能性
- 自然に改善することが多い
- 全員がなるわけではなく、データとしてもはっきりしない
- コンタクトがズレる場合もある(度数がズレる場合と、不耐症の場合)
妊婦の身体の変化というのは凄まじく、ホルモン、血液循環、さまざまなことが大きく変化していきます。
その影響を眼も受けることは十分にあり得て、なりやすい病気などもあるくらいですが
様子見るだけで問題のないパターンもあるということですね。
また、「視力が下がった」には一般人と眼科医とで認識が違うので、以下の記事も読んでおくとよいと思います。
コメント