眼科では初診から再診を含め、多くの場合で視力検査をしますが、その視力検査に関してです。
視力は大きく、裸眼視力、(現在の)矯正視力、最高矯正視力の3つがあります。
- 裸眼視力:眼鏡やコンタクトをしていない状態での視力
- (現在の)矯正視力:現在使っている眼鏡やコンタクトでの視力
- 最高矯正視力:一番視力が出る度数で矯正した状態での視力
毎回裸眼視力、(現在の)矯正視力、最高矯正視力を測っていたら、一人あたり3回視力測定していることになり、時間が多くかかってしまいます。
従って多くの医療機関では基本的には、最高矯正視力をもとに視力のフォローをしています。
ただし、本当に最高矯正視力だけのフォローでいいのか?という疑問を投げかけます。
眼科では視力≒最高矯正視力
基本的に眼科での視力は最高矯正視力を意味します。
一番視力が出る度数のレンズを当てた上での視力です。
最高矯正視力が良ければどうなのか?
矯正すれば視力が出る状態は、眼科の病気の状態を判断する上で、「概ね問題はない」ことになります。
医療機関は病気を診る、治療することが主な目的の場所ですから
矯正すれば出る視力であれば、矯正すればいいだけだし
矯正しても視力が出ないのであれば、その原因・病気を調べていくことになります。
従って、最高矯正視力をフォローすることは、目の病状を判断する上で理にかなっているし
視力検査を裸眼、現在の矯正視力、最高矯正視力と3回分測っても時間が約3倍かかるだけで、取れるコストも変わらず、時間効率が悪くなります。
したがって、基本的には最高矯正視力だけ見ていくのが一般的だと思います。
しかし逆に考えると、最高矯正視力しか見ていない状態というのは、病気しか見ていないともとれます。
医療機関なんだから病気だけ見ていればいいでしょというのは、合ってはいますが、個人的には不十分だと思います。
患者さんの病気のありなしを含めて、普段の見え方に困っていないかどうかをフォローし、必要であれば眼鏡矯正することを勧めてあげるのも、目の専門家としての仕事かなと思います。
その上で必要なのは、裸眼視力や現在の矯正での視力の数値ということです。
裸眼視力、生活視力が大事な理由
裸眼視力、現在の矯正の視力が大切なのは
- その人の現在の視力、生活視力を表しているから
です。
普段の生活での見え方がどうなのか?ということが、本人にとっては一番大事なことです。
最高矯正視力は、一番良い状態での測定結果に過ぎず、普段の生活視力を反映していません。
矯正したらばっちり見えるけど、普段矯正していなければばっちり見えません。
その状態がその人の視力です。
眼鏡をかけたらいいじゃないか、ということですが、その通りです。
しかし、最高矯正視力と裸眼視力に差が大きいからといって、必ずしも全員が一番見やすい眼鏡などを使って生活しているわけではありません。
裸眼視力はかなり悪い目で、矯正したら1.2まで見えるのに、普段矯正していない人なんて、たくさんいるのは関係者であれば知っていますよね。
「眼鏡をかければ見やすくなる状態なのに、眼鏡を持っていない」
という状況になっていないかどうかを確認することが、とても大事なことだと思います。
世界的には低視力の原因は、「矯正不十分のため」が多くを占めます。
「眼鏡をかければ見やすいのに、眼鏡がない」という状態です。
これは言ってしまえば、日本では回避しようと思えばリスクなしに回避できる低視力です。
手術するわけではないのでリスクはないし、眼鏡を作れば済むのですから。
視力に関する認識の違い
下記記事でも述べていますが
視力の取り扱い方・認識は、患者サイドと眼科医療従事者サイドで異なります。
- 眼科
→視力=最高矯正視力 - 患者
→視力=生活視力(今の状態での視力)
眼科側で視力を説明したとき
「(一番よい矯正をすると視力は)1.2でした」という意味で言っているのに対し
患者側の認識は
「(裸眼の今の状態で/今の眼鏡で)1.2でたんだ~」となるのです。
この認識のずれは勘違いをよく生みます。(眼科で働いている人は皆、経験していると思います)
(まぁ勿論、視力検査しているときに裸眼視力を測っていなかったら、のちに視力結果を説明されて裸眼視力が1.2と思うのもおかしな話なんですが)
医療サイドとしては
- 眼科医は最高矯正視力を視力結果として伝えている
- 患者さんは裸眼視力や現在の矯正視力が言われた視力だと思っていることが多々ある
ということを分かった上で、気を付けながら説明したほうがよいと思います。
医療従事者が気にかけるべき
もちろん普段の診療において、基本的には最高矯正視力フォローで全く問題ないと思います。
理由は上記で述べた
- 毎回裸眼、眼鏡、最高矯正視力を測るのは時間の無駄
- コストも1回分しか取れず効率が悪い
ということです。
しかし最高矯正視力しか見ていないと、上で述べた視力結果の認識の違いもあって、ずっとフォローしている患者さんであっても認識の違いが生まれていることがあります。
最高矯正視力がよく出ている状態であれば、「医学的に」問題になることはあまりありませんが
裸眼視力を踏まえて視力を考えていないと、患者さん自身が「生活の上で」問題となることがあります。
逆に
最高矯正視力が低くても、患者さんの生活水準上、そのままで良いこともあります。
最高矯正視力が良くても、見えにくさを訴えられるのであれば、裸眼視力や生活視力を確認すること
最高矯正視力が低くても、運転もしない、行動範囲の狭い人に、無理してリスキーな治療を勧める必要はないこと
こういった一人ひとりの状況に合わせて考えていくことも、大事かと思います。
たとえば、運転免許では
片眼で0.3以上ずつ、両眼で0.7以上(第一種普通免許)
が必要ですが
裸眼視力0.4ずつ矯正視力1.2ずつの近視があった場合
そんなに近視が強いわけではないので、運転してても細かい看板の字は見えないにしても、特に困らず運転できると思います。しかし裸眼0.4ずつの視力で両眼0.7出ているかと言われると、微妙なところかもしれません。
免許上は前回裸眼で更新できているのであれば裸眼で運転してよいのですが
今現在視力が足りていないのに更新期限がまだ先だから裸眼で運転している状況
というのは、どうなんでしょう?と思うわけです。
眼科医としてその人の視力を知ってしまうわけですから。
個人的には、免許が裸眼で通っている人に対しても、現在の裸眼視力が免許的に危うい・足りていない人には、運転時の眼鏡を勧めています。免許更新は以前できたにしても、今の裸眼視力では通らないのですから。今を考えれば、本来「眼鏡等使用」になるはずですよね。
もしその人が裸眼運転して、見にくいことも一因として事故を起こしたとしても、「眼鏡等」の記載がない限り、免許上は法律的には問題ないのでしょうが
眼鏡を掛けた方が見え方の質は上がるわけですし、運転する人であれば自分の安全、同乗者の安全、歩行者や他のドライバーの安全にもつながるわけです。
矯正していないことでの低視力というのは、世界では非常に多く、矯正さえすれば見えるのに、眼鏡やコンタクトがない・使えない環境だから見えないという人がいるのに対し
日本ではそこら中で簡単に眼鏡を作れるわけです。だったら眼鏡作ってもらいたいと思いますし、眼科受診をした患者には医療従事者がきっかけを与えるべきですし、そのためには裸眼視力やJB視力などを把握しておく必要と、眼鏡に関する質問(普段眼鏡をかけているか、眼鏡をもっているか)をしたほうが良いと思うのです。
まとめ
- 病状をフォローする上では、最高矯正視力で概ね問題ない
- 裸眼視力、現在の眼鏡などでの矯正視力が、その人の生活視力
- 患者さんは最高矯正視力で生活しているわけではないということ
病状をフォローする上でも、たとえば
- 核性白内障の進行で視力は維持できつつ近視が強くなっているパターン
- 後部ぶどう腫などで眼軸が伸長し近視が強くなっているパターン
- 急激に近視が進行する病態(毛様体浮腫による浅前房など)
などもあるので、細かくいうと最高矯正視力の値だけではなく、その屈折値は合わせて見る必要はあります。
医療従事者側が、最高矯正視力だけでなく、患者さんの生活視力も気にかけるとより良いのかなと思います。
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