眼鏡処方は眼科医の業務独占なのか?→違います

眼鏡処方箋記事↓と似た部分になるのですが

今回は、眼鏡処方は眼科医にしかできないことなのか?というテーマです。

なぜこんなネタを書くのかというと、眼科の書籍には「眼鏡処方は眼科医のみが行える行為である」というようなことがあちこちで書いてあるからです。

結論としては、「そんなことはない」という判断になりましたが、以下で説明していきます。

また今回の記事は、「眼鏡店員も使う意味での眼鏡処方」ではなく、処方という意味や定義を法律から考えた場合(つまり医師に限定した話)での内容です。

眼鏡店員が仕事上で使う眼鏡処方というワードに関しては以下をご覧ください。

目次

処方は医師の業務独占である

処方は医師の業務独占です。医師法で規定されています。

↑こちらの記事で詳しく説明しています。

眼鏡処方は眼科医の業務独占なのか?

処方は医師の業務独占ですが、その処方というのは薬のことです。眼鏡ではありません。

しかし眼科の学術雑誌や書籍、参考書などには以下のように、眼鏡処方は眼科医の業務独占のように記載されていることが度々見受けられます。

眼鏡処方箋を発行することは医療行為で,医師のみに許されるものであるが…(以下省略)

臨床眼科 54巻11号 (2000年10月)

眼鏡処方は、法的には眼科医のみに認められた医行為である。

眼科学第3版 D.眼鏡処方 眼鏡

しかし本当にそうなのでしょうか?

処方という言葉は、医師法に載っている内容を見る限りでは薬に対してのみ使われます。過去に国から「眼鏡処方箋を発行できるのは眼科医のみである」などという明白な通達文があれば納得ですが、あるのでしょうか。少なくとも軽く調べた程度では見つかりませんでした。(インターネット検索)

診療報酬にある眼鏡処方箋という言葉

ではなぜ、「眼鏡処方箋を発行することが医療行為で、眼科医のみに認められた行為」という主張をしているのか。

眼科の保険診療において矯正視力検査というものがありますが、そこに眼鏡処方箋という言葉が記載されています。

D263 矯正視力検査
 1  眼鏡処方箋の交付を伴う場合
 2 1以外の場合

おそらくはここから、そのような解釈になっているのかと思います。

普通、矯正視力検査を行うのは

  • 眼科を標榜している医療機関で
  • 眼科の保険診療を行っているところ

になります。そこに眼科医がいるのが普通ですから、

その医療機関で眼鏡処方箋の交付のコストを取っている
≒ 眼科医がコストを取っている、眼科でしかできない検査、眼科医のみに認められた行為

となっているのでしょう。

ただし文字通りに「眼科医のみに認められた行為」かというと、そうではないと思われます。

保険診療上のコストが取れるかどうかの問題

「D263 矯正視力検査 1 眼鏡処方箋の交付を伴う場合」は、保険診療上でコストとして取る上での名称に過ぎませんから、そのコストが取れるのか、取れないのかが問題になります。

保険診療点数は、医科共通です。

ほとんどは誰でも取れるコスト

眼科の手術関連の診療報酬は、涙道のK199から硝子体のK284まであります。その中で、たとえば眼瞼手術として「眼瞼」と名が付くものは以下のものがあります。

  • K209 眼瞼膿瘍切開術
  • K215-2 眼瞼結膜腫瘍手術
  • K216 眼瞼結膜悪性腫瘍手術
  • K217 眼瞼内反症手術
  • K218 眼瞼外反症手術
  • K219 眼瞼下垂症手術

しかし眼瞼手術は、眼科以外でも行います。特に眼瞼下垂などは形成外科もよく行います。

涙道は普段眼科で診ることがほとんどですが、涙道手術は眼科医以外もします。耳鼻科の涙嚢鼻腔吻合術があります。

というように、眼の領域の内容でも形成外科や耳鼻科が行う手術もあり、コストを取っているわけです。医科共通ということですね。

ちなみに眼瞼手術を美容整形外科で行うと、自由診療となるので保険は効きませんし手術費用は高くなります。眼瞼の機能が下がっている場合の手術では保険が効きますので、まずは保険医療機関を受診することをお勧めします。(若い方の二重手術などは保険は効かず自由診療です。)

また、僻地医療では全身を診なくてはいけませんから、いろんな科にまたがって診察する必要性があります。麻酔科医ではなくても全身麻酔をかけることはありますし、麻酔のコストもとります。

コストは取れるが研修が必要とされるもの

麻酔領域の中に、眼瞼痙攣に対するボトックス注射の保険診療があります。

  • L100 神経ブロック 4眼瞼痙攣

Lは麻酔分野です。麻酔分野なので、麻酔科が行うのでしょうか?

ボトックスの注射は、ボトックスの講習を受けた医師であれば誰でも行えます。

こちらは添付文書に、薬を使ってよい承認条件として、知識・経験がある医師のみが行うよう記載されています。

本剤についての講習を受け、本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、本剤の施注手技に関する十分な知識・経験のある医師によってのみ用いられるよう、必要な措置を講じること。

ボトックス注 添付文書

その方法として、製薬会社が講習会をして資格証を渡しています。しかし診療報酬の記載上は制限されていないので、コストを取ろうと思えば取れるのでは、と思います。(後々問題となっても知りませんが)

似たような措置として眼科ではiStentがあります。こちらも以下のように添付文書上に記載があります。

緑内障治療に対する十分な知識・経験を有する医師が、関連学会と協力して作成された適正使用指針を遵守し、講習の受講により、本品を用いた治療に関する技能や、手技に伴う合併症等に関する知識を得る等、本品が適切に用いられるよう、必要な措置を講じること。

iStent inject 添付文書

診療報酬コストは

  • K268 緑内障手術 6水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術

となりますが、こちらもコストを取る上での記載・制限はありません。

他にも似たようなものは多々あります。関連学会に所属した上で講習を受けないといけないものだったり、様々ですが、診療報酬上に記載されていない(制限されていない)ものは多いと思います。

医療機関、医師が限定されているコスト

一方、コストを取る上で明確に記載されている診療報酬もあります。

例をあげていきます。

  • B001 特定疾患治療管理料 5小児科療養指導料

小児科を標榜する保険医療機関において…(省略)…必要な生活指導を継続して行った場合に、月1回に限り算定する。

  • D270-2 ロービジョン検査判断料

厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において行われる場合に1月に1回に限り算定する。

  • I001 入院精神療法(1回につき) 1入院精神療法(Ⅰ)

精神保健指定医が30分以上入院精神療法を行った場合に、入院の日から起算して3月を限度として週3回に限り算定する。

これらはコストを取る上での前提で、医療機関や医師が限定されています。

「視力検査 眼鏡処方箋を交付するもの」は、このように標榜科・医療機関・医師が限定されているものではない、ということです。

普通、視力検査を眼科以外の医療機関で行うことはないですが、検査すればコストを取れないことはない、ということです。

そもそも自分の診療科が何なのか

医師の診療科に関しては、基本的には一つの専門領域の診療科を持つことが多いですが、いくつもの科をまたがって仕事をしている人もいます。

眼科で働いていたら眼科医なのか?

そうとは限りません。

コンタクト眼科のバイトなどは眼科医以外の医師もよくやっています。

勿論そのコンタクト眼科は眼科を標榜していますが、診察している医師は眼科を専攻していないこともあるということです。

患者が「やっぱりコンタクトじゃなくて眼鏡がいいな~」となって眼鏡処方箋を希望されたら、たまたまバイトに来ていた眼科医とは言わない医師が処方箋を出すこともあるかもしれません。

それなのに眼鏡処方箋は眼科医限定なのか?眼科医じゃないから書けません、とはなりません。

目の診察をしたら眼科医なのか?

そうとは限りません。

島医やへき地医療などでは、医師が病気・ケガ含め全身全てを診なくてはいけません。目を診ることもあります。目を診たらその医師は、眼科医になるのですか?

眼科領域も診なくてはいけないだけで、眼科医とは呼ばないですよね。

まとめ

  • 眼鏡処方箋は眼科の診療報酬一覧に記載あり
  • 法的に眼科医のみに認められた行為ではない
  • 基本的には眼科を標榜している医療機関でのみ取るようなコストである

結局のところ、「眼鏡処方は眼科医のみ認められた行為」は言い過ぎだいうことです。

ただし標榜していない科の検査をたくさんして、コストをどんどん取っている医療機関があったら、目を付けられるとは思います。その診療科を標榜すればよいだけですが。

冒頭でも述べましたが、今回の記事は「眼鏡店員も使う意味での眼鏡処方」ではなく、処方という意味や定義を法律から考えた場合(つまり医師に限定した話)での内容です。

眼鏡店員が仕事上で使う眼鏡処方というワードに関しては以下をご覧ください。

参考文献
医科診療報酬点数表(PDF)|厚生労働省

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