「医者1人の育成に税金1億円」情報の真偽、新情報

「医師の育成には一人あたり1億円の税金がかかる」という都市伝説がありますが、本当なのでしょうか。

他ブログでは既に解決済みな解答が得られていますが、いまだにこのような発言が飛び交うこと、また某大学がホームページで具体的に記載していること(←New)など、細かな真偽は不明ですが記載していきます。

目次

医者になるためにかかる費用

まずは税金は関係なく、医者になるための費用です。

医者になるためには、以下の関門を通過する必要があります。

  • 医学部に受験し、合格する
  • 最低6年間、医学生をする
  • 卒業試験、国家試験に受かる

医者になるためには、医学部を受験し合格して入学し、医学生として大学に6年通い、大学を卒業し医師国家試験に受かる必要があります。そして勤務先が決まっていればその後医師として働き始めることができます。

医学部に入る以前の教育に関しては様々です。

  • 有名私立中学・高校への入学
  • 有名塾への入会

これらは医学部に入る前の費用としてはかなり高額になることもありますが、公立高校卒の人や、塾に通わないで医学部に入る人もいるため、今回は考慮しないものとします。

したがって、医者になる上でかかる費用としては

  • 医学部受験料
  • 入学費用、6年間の授業料
  • 医学部在学中の諸費用(主に書籍など)
  • 国家試験受験料

などになります。

在学中6年間の学費(授業料)は、0円~5000千万円程度の幅があります。

学費が安くて有名なのは、自治医大と防衛医大です。自治医大は授業料0円の代わりに卒後9年間、指定された場所(主に僻地)で勤務をする必要があります。防衛医大は授業料がかからないどころか、給料がでます。卒後の進路は特殊で9年間、自衛隊に勤める必要があります。

このような特殊な大学でなくても、授業料免除を全額毎回受けることができれば、実質授業料は無料で卒業することもできます。授業料免除関連の対応は私立医、国立医それぞれありますが、内容は私立医では大学ごとに異なると思われます。

つまり、大学受験から医学部生活、卒業し国家試験に受かり医師免許を取得するまで、生活費などは除きますが、100万円もかからずに医者になることもできます。

これは大学に通うために個人が負担する費用であり、税金とは別です。では税金はいくらかかっているのでしょう?

医師育成に1億円の税金がかかっている件の真偽

こちらの内容が調べた限りで一番古くからある記事(2007年)で、既に解決しています。

内容としては、

  • 医学生一人1億円かかるのであれば一学年で約100億円(一学年医学科生は100人前後いるため)
  • 毎年各大学の医学科に100億円、国から支払われているということになる(医学部は全部で82校あり→8200億円)
  • 補助金が施設や設備に投資されている場合、学生以外にも医師や研究員を含め病院、大学で働くすべての職種の方、現在治療を受けている患者や、これから研究によって新たな治療の恩恵を受けられる患者の為の税金投入でもあり、決して医師育成だけの補助金ではない
  • 1億円という数値は経費を学生の頭数で割った数字で計算されたものであり、他学部で考えると物理学科の学生の教育費用をスーパーコンピュータやトリスタンやカミオカンデの費用も含めて計算しているようなもの

ということです。

具体的な費用、その内訳の公表されたデータはないので、真実はわかりません。ただし、

  • 医学生の教育だけにかけられている費用
  • 病院の設備面における費用

は分けて考えなくてはいけないのは言うまでもありません。

病院に最新設備、最新機器を導入し、それにかかる費用を医学生教育(医師育成)にかかる費用として計上されていたら計算はおかしなことになりますよね。(前述の物理学生の例のように)

産業医科大学が医学生教育の費用、使っている税金額を公開

産業医科大学では以下のページに、学生教育にかかる費用、そのうちの公的負担等の割合を載せています。

要点を引用すると、

  • 令和2年度の医学部学生1人当たりの医学教育経費は、約 1,419万円
  • これを6倍した額を在学6年間に必要な医学教育経費とすると 約 8,513万円
  • 私立医科大学協会加盟29校の平均額は、約1億1,586万円
  • 負担内訳の大半(86.7%)は、補助金を含む公的負担等であり、6年間の学生自己負担は 1,130万円(13.3%)に軽減

ということだそうです。経費の合計額としてだされていますが、細かい内訳は書いていません。

そしてこちらの内容が自分にとっては新情報でしたが、令和3年度以降、同様の内容のものは公開されていません。

医学部特有の教育・実習内容

医学部の授業カリキュラムとして、実習があります。

  • 解剖学実習
  • 組織学実習
  • 病理学実習
  • 病院臨床実習

大学によって多少差はあると思いますが、上記のような実習があります。

この中で特殊なのは解剖学実習でしょう。献体を解剖して人体の構造を勉強します。実習用に献体は毎年一定数必要となり、献体の搬送や保管、実習後の火葬などに費用がかかります。

組織学で学ぶ正常組織標本、病理学で学ぶ病理組織標本は基本的に既にあるものを使いまわすので、毎年かかるコストは少ないと思われます。

病院での臨床実習は、医者の仕事を一緒に見て学ぶことがメインです。学生向けに医者の時間は取られますが、その分医者に給料が発生するようなことはなく、コストという点ではほとんどかかりません。(院内の役職がそれなりにある人が学生を担当することが多いので、その役職分給料が多少多いということはあり得ます)

他は基本的に講義ですので、他学部と変わりありません。

そう考えると、医学部のカリキュラムの中で「医学生の教育のためだけに」かかっている費用ってそんなに多くはないのでは?と思うのが卒業した身からの感想です。

もちろん知らないだけでたくさん費用がかかっている可能性もありますが、自分の出身大学では前述の産業医科大学のように「あなたにはたくさんの税金がかかっている」という内容を口うるさく言われてこなかったため、わかりません。

医者1人1億円はどこから来たのか?

医者ヘイトから来ているでしょう。先ほどのブログからの引用ですが、

  • 1億円ものお金を社会から投入された「恩返し」を社会にしなければならない。
  • だから、医学部に入っても医師国家試験に合格さえ出来ない者は「税金泥棒」
  • 医師になっても医者をしない者、医者を辞める者がいて、税金ドロが横行している。
  • 特に、東京女子医大に多い、女性は「結婚退職」して医者を辞めてしまう税金ドロ
  • 就職・結婚の自由を侵害するつもりは無いが、さっさと辞める人間は投入された税金は半分返せ。

医師育成に一人一億円の税金がかかる、という都市伝説|医者の常識、世間の非常識 ~Herr doktor~ より引用

これを見る限り、医者に対する不満があって出てきた内容に感じます。

ただし医者の給料は病院の収益から、病院の収益は医療費からも支払われているため、医者が働けば働くほど間接的にはさらに税金を使うことにもなるんですけどね。

まとめ

  • 医者一人の育成に1億円の税金がかかっているのは本当か?
  • 「そんなことはない」ということがネット上に載っている
  • 産業医科大学は学生一人に約8500万円かかっていると公開している
  • 具体的な経費、内訳を細かくは公開されていないため真偽は不明
  • 医学部卒業した身としては、「教育」にお金がすごいかかっていると実感することはなかった

具体的な費用を詳細に公開してくれれば真偽はわかるかもしれませんが、個人的にはどちらでもよいかなと思います。

多額の税金が使われていようがそうでなかろうが、自分自身としては医者としてのやるべき仕事をするだけかなと思っています。

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