老眼になると近くが見にくくなります。老眼は目の調節力が落ちることで生じます。
調節力とは何か?
今回、ヒトの目における調節について解説します。
簡潔に言うと調節とは、遠くを見ている状態から近くを見るときのピント合わせのことをいいます。
調節とは
- 遠くを見ている状態から、近くを見るときにピントを合わせる目のピント調節機構のこと
これを理解するには、
- 無調節状態でどこにピントが合っているのか
が大事になってきます。
無調節状態というのは目がピント調節機能を働かせていないので、曖昧な表現ですが「目がリラックスしている状態」という風にも理解できます。実際に調節が過度になると眼性疲労やその他目の病気を起こすことがあります。しかし、実際に目がリラックスしているかどうかは、自分ではわかりません。
その無調節の状態で
- 近くが見やすい人が近視
- 遠くが見やすい人が正視
- どこもぼやけて見える人が遠視
となります。
手前側(近く)に向かってピントを調節する作用が、「目の調節」となります。言い方を変えれば、近視側にピントを移すことを調節といいます。
下の表は、目の屈折力による近視・正視・遠視の分類ですが、近視側にピントを移す=表の左側に移動する、ということになります。
カメラにおけるレンズ調節
カメラを例にしますと、
カメラで風景(遠く)にピントを合わせると
→近くの被写体はぼやけます。
カメラで被写体(近く)にピントを合わせると
→遠くの風景がぼやけます。
これは、基本的な物理現象なので、こういうものです。実際にはカメラ性能の向上、多数のレンズを使うことなどにより、遠方も近方もぼやけない、ぼやけにくい写真も撮ることはできます。
さて、このピントですが、カメラでは自由にピント合わせをすることができます。
- 風景→被写体 と近くにピントを合わせることもできますし
- 被写体→風景 へと遠くにピントを合わせることもできます
ヒトの目でのレンズ調節
ヒトの目は、
「遠くから近くへのピント合わせしかできない」ということです。
近くにピントを合わせた分だけはそれを解除することで遠くにピントを戻すことができますが、そもそものリラックスした状態(無調節状態)から、遠くにピントを合わせにいくことはできません。
つまり、元々遠くが見やすい人は、調節して近くを見ている状態から、調節を解除すれば遠くへピント合わせることはできますが、元々近視の人(無調節状態で近くにピントが合っている人)が、調節によってその状態から遠くにピントを合わせることはできない、ということです。
もしこれができてしまうと、近視の人にメガネは必要なくなります。無調節状態から遠くにピントを合わせることは目の力ではできないので、メガネをかけてピントの位置を調整し見えるようにします。
ヒトの目における調節は、上の表において<左方向(←)のみに働くピント調節機構>となります。
これらから日常生活的には、調節力がある若いうちは、正視・遠視のほうが日常生活に不便が少ないです。近視の人は右方向(→)にピントを調節することはできないので、メガネが必要となります。
しかし老眼になるとこの調節力が失われていくため、近くにピントを合わせることができなくなります。そうすると、元々遠くが見えていた人は近くが見えにくくなり、近視・正視・遠視もどれがいいかと言われると、微妙な感じになります。(その人の生活スタイルに依ります)
調節はどこで行っているか
水晶体・チン小帯・毛様体で行っています。
正確には水晶体で行っているのですが、その水晶体が調節を行うために毛様体が働き、チン小帯を通して水晶体に働きます。
調節の作用は大きく、水晶体の移動と変形によって行われます。
- 水晶体が前方に移動すると近視化する
- 水晶体が後方に移動すると遠視化する
- 水晶体が膨隆して近視化する
- 水晶体が扁平化して遠視化する
この4つがメインです。水晶体の膨隆・扁平化はまとめて水晶体の変形ですが、変形することで水晶体の表面でのカーブが変わり屈折量が変わってきます。
ここで言う近視化・遠視化は、上の表の左方向に動くか(近視化)、右方向に動くか(遠視化)という意味です。以下でイラストを踏まえて説明します。
水晶体の前方移動
水晶体は大雑把に言うと凸レンズの役割をします。従って、光を収束させる作用があります。
レンズの位置が前に移動すると、それだけ早い段階で光を収束させ始めるので、結果的に光が収束する位置が前に移動します。
眼内で言うと、網膜より前面に光が収束します。
すなわち近視化するということになります。
レンズの役割の詳細はこちら
水晶体の後方移動
同様にすると、水晶体の後方移動は、光の収束させる位置を後方へ移動させます。
水晶体の膨化
膨隆することで水晶体のカーブが強くなります。すなわち、レンズとしての度数が強くなります。
強い凸レンズは強く光を収束させるので、結果的に光の収束位置を前方へ移動させます。
水晶体の扁平化
同様に水晶体の扁平化はレンズ度数が弱くなることを意味しますので、弱い凸レンズ作用となり光の収束させる位置を後方にずらします。
毛様体・チン小帯の働き
毛様体は収縮・弛緩することでチン小帯を緩めたり、引っ張ったりします。その引っ張り、緩みが最終的に水晶体を引っ張り、緩め、水晶体を変形させます。
チン小帯はとっても大事です
毛様体は輪状の筋肉のなので、
- 収縮すると径が小さくなり、水晶体との距離が近くなるため、チン小帯は緩む
- 弛緩すると径が大きくなり、水晶体との距離が遠くなるため、チン小帯は引っ張られる
となります。
チン小帯が水晶体を引っ張ると、水晶体は薄くなる(毛様体は弛緩している)
チン小帯が水晶体を引っ張る強さが弱まると、水晶体は厚くなる(毛様体は収縮している)
また、
- チン小帯が緩むと、水晶体は硝子体圧によって前方へ移動し
- チン小帯が引っ張られると、水晶体は後方移動します
つまり
- 水晶体は厚くなり、前方移動することで、近視化(調節)し
- 水晶体が薄く、後方移動することで、遠視化(調節の解除)をしている
厚くと前方移動はセットで、薄くと後方移動もセットで働くわけですね。
水晶体の前方移動、後方移動は、瞳孔の縮瞳・散瞳によっても同時に生じることがあります。
以下の記事は専門向けですが非常に濃い内容ですのでお勧めです。
まとめ
- ヒトの目の調節とは、遠く→近くを見るための目の働き
- 近く→遠くへの調節はできない(調節の解除のみ)
- 調節(近視化)は、水晶体が厚く、前方移動することで起こる
- 調節は毛様体がチン小帯を介して水晶体に働きかけている
カメラのレンズみたいに遠くにもピントを合わせることができれば、近視の人もメガネが不必要になります。
しかし実際にはヒトの調節は近くにしか合わせることができないため、近視の人は矯正して遠くを見るしかないのです。
一方、正視・遠視の人は調節力があるうちは、近くも見ることができますので、調節力があるうち(=若いうち)は、正視、遠視の方が良いです。ただし遠視は強いと斜視などの病気を起こすこともあるので、メガネが必要となることもあります。
若いうちは近視であることが正視より優位であることは、ないと思います。
屈折、矯正の眼科教科書はコレだけでok
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