抗VEGF薬が眼科領域で使われるようになって、硝子体注射は眼科において非常に一般的に行われている治療の一つになります。
眼球内に薬液を注入する際、眼球容積は変わらないことから眼圧は必ず上昇します。
- 眼圧の上昇がどれくらいなのか
- 注射後眼圧が正常値まで戻る時間はどれくらいなのか
- 眼圧が上がりやすい、下がりにくいリスクは何か
- 合併症が生じた際の対応
などを書いていきます。
硝子体注射後の眼圧の推移
抗VEGF薬0.05mlを硝子体注射すると、以下のような眼圧変化をします。
- 注射直後に眼圧は45mmHg程度まで上昇する
- 30~60分以内には正常値に戻る
The acute and chronic effects of intravitreal anti-vascular endothelial growth factor injections on intraocular pressure: A review|Surv Ophthalmol. 2018 May-Jun;63(3):281-295.より引用
眼球容積が変わらないため薬液を入れたら圧は上がるのは当たり前で、時間が経つと線維柱帯から房水が流出し眼圧が下がります。以下のような眼圧の変化があったという文献があります。
- マクジェン0.09ml 、30G:14mmHg→65mmHg(注射直後)
- ルセンティス0.05ml、30G:13mmHg→49mmHg(注射直後)
- アバスチン0.05ml、30G:13mmHg→49mmHg(注射直後)
眼圧変化に関わる因子
硝子体注射後の眼圧変化には以下のものに影響されます。
- 注射する薬液量
- 注射針の太さ(ゲージ)
- 房水流出路の流出のしやすさ
薬液量
薬液量が多ければ多いほど、眼圧は上がります。眼球容積が変わらないため、薬液を入れたらその量が多いほど眼圧は上がります。
注射針の太さ(ゲージ)
注射する針の太さは、注射後の注射部位からの逆流に関わります。針の太さが太いほど、注射部からの逆流が起こりやすいため眼圧は上がりにくくなります。
房水流出路の状態
房水流出路である線維柱帯が詰まっていると、眼圧は下がりにくくなります。文献からは、緑内障の患者のほうが眼圧が下がりにくい(有意差あり)という結果になっています。
その他
単眼軸・小眼球は眼球容積が小さいため、同じ薬液量を入れた際の眼圧上昇は原理的には大きくなります。一方、強度近視などで眼球容積が大きいと、同量の薬液を入れた際の眼圧上昇の程度は原理的に小さくなります。
さらに、薬剤の分子量が大きいかったり、複合体を形成しているなど、薬剤の分子構造が大きくなると線維柱帯を抜けにくくなり眼圧が下がりにくい可能性があります。(と、考察に書いてある論文がありましたが真偽は不明です。
硝子体注射直後の合併症
急激な眼圧上昇に伴って起こり得る合併症として、網膜中心動脈からの血流の途絶があります。(眼内圧によって外部から血管がつぶされ血流が悪くなる)
- 視神経乳頭部の血流があることの確認
- 注射直後からの視力低下がないかの確認
が大切です。注射後に毎回視神経乳頭を診察することは行われていないほうが多いと思いますし、しなくてよいと思いますが、注射後見えにくくなったらすぐに伝えてもらうように患者さんにしっかり伝えておくことが大切かと思います。
硝子体注射後の高眼圧の予防
通常症例には基本的に予防は必要ありません。末期緑内障などで高眼圧にできるだけさらしたくないような患者さんに、予防を行うかどうか考慮してもよい、というレベルの話です。
てっとり早く眼圧を下げる手段としては、硝子体注射時に前房穿刺を行い、注射のタイミングに眼圧を下げておくことが効果的です。ただし前房穿刺による水晶体損傷やその他のリスクは増えるため、必要な人に対してのみでよいと思います。
注射液の投与量としては、
- 現在主流の抗VEGF薬の硝子体注射は0.05ml
- トリアムシノロンアセトニドの硝子体注射は0.1ml
- 眼内炎の抗生剤硝子体注射ではバンコマイシン0.1ml、セフタジジム0.1mlの計0.2ml
となり、うしろ2つの投与薬液量が多い場合には、前房穿刺も検討してよいと思います。眼圧下降薬を使うのもありですが、眼圧上昇は一時的であり、そのために点眼薬1本処方するのはあまり意味がありません。注射前に眼圧下降点眼や内服を行う方法も考えられますが、あまり効果がないという文献もあります。
まとめ
- 抗VEGF薬(0.05ml)硝子体注射後は眼圧は45mmHg前後まで上がる
- 1時間以内にはほとんどの人が正常値まで戻る
- 投与量が多いと眼圧はより高くなる
- 注射針が細いと眼圧は上がりやすい
- 緑内障患者は眼圧が下がりにくい
- 必要に応じて前房穿刺することを検討してもよい
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