未熟児網膜症(retinopathy of prematurity: ROP)について。
概要・病態
早産児に見られる網膜症で、在胎週数34週未満、出生体重1800g以下で出生した児に生じた網膜症をいう。(書籍によっては36週未満と記載のものもある。)
網膜血管は在胎週数14~16週頃より視神経乳頭から発生し網膜周辺部に伸びていき、38~40週に周辺部に到達する。過度の酸素投与などが影響して発症することもある。
発症率
米国の他施設研究での、出生週数、出生体重によるROP発症率はおおよそ以下の通り。
出生週数
- 27週未満 89%
- 28-31週 52%
- 32週以上 14%
出生体重
- 750g未満 93%
- 750-999g 75%
- 1000-1250g 43%
出生体重1500g以上では重症なROPはまれである。
stage分類
厚生省分類もあるが国際分類のほうが使われる。
国際分類
- stage1
:境界線(demarcation line: DL) - stage2
:隆起(ridge) - stage3
:新生血管(NV)、増殖膜 - stage4
:網膜剥離
→黄斑剥離を伴わない網膜剥離(stage4A)、黄斑剥離を伴う網膜剥離(stage4B) - stage5
:全網膜剥離 - plus disease
:後極部の網膜血管の怒張蛇行が2象限以上に認めるもの - aggressive posterior ROP(APROP):重症型未熟児網膜症
:網膜血管が全周にわたり著明な怒張蛇行を示し、境界線DLを作らずに網膜剥離へ進行する
zone分類
- zone1
:視神経乳頭-黄斑距離の2倍を半径とした、視神経乳頭を中心とした円の内側 - zone2
:視神経乳頭-鼻側網膜端を半径とした円の内側 - zone3
:zone2から残りの外側の部分
28Dレンズで視野の端に乳頭を来るようにした際の、反対の端がzone1の半径であるため、診察の参考にする。
原因
網膜血管が最周辺部に到達する前に生まれてくることによる。
過剰な酸素投与により血管が収縮し生じることがある。
症状
未熟児に生じる疾患のため、症状は訴えない。
所見・診断
早産児の網膜血管が周辺部まで到達していない状況で、上記所見を認めると未熟児網膜症という。
在胎週数26週未満の児は修正在胎収集29週までに、26週以上の児は生後3週までに診察を行う。
網膜血管が最周辺部から何PD(乳頭径)のところまで伸びているかのか、境界線、隆起、増殖膜・新生血管の有無、血管の蛇行、拡張、横走、血管の吻合など血管変化の有無を診察する。
28Dレンズで視野の端に乳頭を来るようにした際の、反対の端がzone1の半径であるため、診察の参考にする。
米国眼科学会の推奨フォロー間隔
- 1週以内
:zone1 noROP or stage1 or 2、zone2 stage3、APROP疑い - 1-2週間
:posterior zone 2 noROP、zone2 stage2、zone1 寛解期 - 2週間
:zone2 noROP or stage1、zone2 寛解期 - 2-3週間
:zone3 stage1 or 2、zone3 寛解期
zone1 stage2~, zone2 stage3~, pre-plus disease, APROP疑いは週2回以上推奨
未熟児網膜症の診断を受けた場合、治療をしたか否かにかかわらず、網膜血管が充分に(鋸状縁付近まで)伸びるまでは退院後も外来で経過観察を行う。(治療をした場合は血管が伸びてもフォローを)
治療・予後
治療すべきタイミングと治療方法について
72時間以内に治療を推奨される状況
- plus diseaseを伴うzone1すべてのROP
- plus diseaseを伴わないzone1 stage3 ROP
- plus diseaseを伴うzone2 stage3 ROP
- aggressive posterior ROP (APROP)
※APROPでは速やかに治療を開始する。
網膜光凝固
スポットサイズ300-500µm、凝固時間0.2-0.3sec、出力150mW程度~。
レーザーする場所は、無血管領域と、境界線の内側(後極側)に1-2列行う。
環境が整っていない場合は専門施設へ転院した上で行う。
抗VEGF硝子体注射(ラニビズマブ)
2019年11月に国内で承認された。一般的な治療はまだ光凝固であり、施行できる施設は限られている。
眼球が非常に小さいため、注射をする際は成人の注射とは投与量・刺入位置など方法が異なる。(参考:未熟児網膜症に対する抗VEGF療法の手引き)
- 用量:片眼1回につき0.02ml (0.2mg)
- 方法:輪部から1-1.5mm後方において、真下方向(後方)に向けて刺入する。(刺入面に対して垂直方向(眼球の中心方向)へ刺すと水晶体に接触する恐れがある)
観血的手術(stage4~)
網膜剥離が周辺部に限局する場合はバックリング手術、後極側に存在するときは硝子体手術を行う。
未熟児の手術経験者は非常に少数で限られるので、基本的に専門施設へ送った上での手術となる。
コメント