黄斑診療を行っている人ではお馴染みのパキコロイドですが、よくわからないなという印象が強い分野だと思うのでまとめました。
パキコロイド関連疾患(pachychoroid spectrum diseases :PSD もしくはpachychoroid disease spectrum)は
- pachychoroid(厚い脈絡膜)
- pachyvessel(太い脈絡膜血管)
- 脈絡膜透過性亢進(CVH: choroidal vascular hyperpermeability)
の3つを大事な所見としていますが
明確な診断基準は決まっていない
というのが現状です。
それぞれの所見、および疾患群の各疾患について簡単にまとめます。
パキコロイド関連疾患の特徴
パキコロイド関連疾患は
- pachychoroid(厚い脈絡膜)
- pachyvessel(太い脈絡膜血管)
- 脈絡膜透過性亢進(CVH: choroidal vascular hyperpermeability)
の特徴をもとに分類されている疾患群です。
AMDで大事であるドルーゼンに関しては重要ではなく(ドルーゼンはAMDの前駆病変という括り)
むしろドルーゼンが強い所見は、パキコロイドとしての関連は弱くなります。
しかしドルーゼン様の所見は、パキコロイド疾患でも一部の眼に発生するとされているようです。pachydrusenという概念もあり。
pachychoroid
- pachy- 厚い、choroid脈絡膜→厚い脈絡膜のこと
- 脈絡膜厚250µmをカットオフ値とすることが多いが、200µmだったり300µmだったり
- 健常者の中心窩下脈絡膜の厚さは190~350μm程度
- 脈絡膜厚は年齢、眼軸長、屈折異常、血圧、時刻などによる影響を受ける
- CSCやPCVでは脈絡膜は厚いことが多い
- ハラー層の拡張した脈絡膜血管に起因する
- Vogt-小柳-原田病、ベーチェット病、白血病などでも増加する
pachyvessel
- 最大300μmの直径の脈絡膜血管(ハラー層)の直径の増加
- 脈絡膜厚の増加は、大きな脈絡膜血管のうっ血性拡張に対応するという仮説
- 脈絡膜の肥厚はハラー層の拡張に続発すると考えられている
- 脈絡毛細管板、ブルッフ膜、RPEなどの上にある組織に圧縮損傷を引き起こす可能性がある
pachyvesselとしては、血管が大きいことと直上のRPE障害などが指摘されています。
脈絡膜透過性亢進
- 構造的な脈絡毛細管板の損傷を表すと考えられている
- インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA: indocyanine green angiography)で評価
- 造影10分以降(~15分)の後期像での脈絡膜背景蛍光で評価
- AMDなどの主病巣周囲は過蛍光を示すことがある
- ICGAはpachyvesselだけでなく、脈絡膜充満欠損、動脈充満の遅延、および通常FAの漏出部位に対応する斑状の過蛍光領域も示すことがある
新生血管のある主病巣の周囲では過蛍光を示すことがあるため、主病巣のところではないところで判断するとよい、と言われていました。
含まれる代表疾患
下の7疾患が記載されていることが多いようです。
- pachychoroid pigment epitheliopathy (PPE)
- pachychoroid geographic atrophy
- central serous chorioretinopathy (CSC)
- pachychoroid neovasculopathy (PNV)
- polypoidal choroidal vasculopathy (PCV)/aneurysmal type 1 neovascularization (AT1)
- focal choroidal excavation (FCE)
- peripapillary pachychoroid syndrome (PPS)
Freundらがパキコロイド色素上皮症(PPE)を命名した2013年から、パキコロイド関連疾患の議論がされ始めたようです。
聞いたことのないような疾患も見受けられますが
パキコロイド関連疾患としての
- pachychoroid(厚い脈絡膜)
- pachyvessel(太い脈絡膜血管)
- 脈絡膜透過性亢進(CVH: choroidal vascular hyperpermeability)
を特徴とし
それぞれ萎縮・滲出性変化・新生血管の所見を有するものとして分類するとよいかもしれません。
- 萎縮
→PPE、地図上萎縮 - 滲出性変化
→CSC、FCE、PPS - 新生血管
→PCV、PNV
spectrum diseaseなので、同一スペクトラムの疾患として、疾患が行き来します。
パキコロイド(の状態)・FCE
・→PPE→滲出のないPNV↔PNV、PCV
・→CSC→PNV
というように移行するようです。
それぞれに関して簡単に記載します。
萎縮を伴うもの
パキコロイド色素上皮症
- CSCの僚眼にしばしばみられる
- 脈絡膜厚肥厚、脈絡膜血管の透見性低下、肥厚した脈絡膜もしくは脈絡膜血管の直上におけるRPE変化・PED
- 基本的には無症状
- 年齢は比較的若く、病巣は中心窩外の場所が多い
- 網膜下液はない
- 小さなPEDが見つかったとしても網膜下液が観察されないため、PPEはCSCの不完全型
- CSC、PNV、さらにはPCVに進行する可能性
パキコロイド地図状萎縮
詳細が書いていないため不明ですが(pachychoroid geographic atrophyでpubmed検索しHIT5件、タイトル一致は1件)
おそらくAMDなどの萎縮型タイプの地図状萎縮ような、パキコロイド関連疾患における萎縮だと思われます。
- 黄斑部の地図上萎縮があること
- パキコロイドの特徴があること
- 両眼にドルーゼンがないこと
を主に従来のAMD地図上萎縮と分けた結果
- やや若年傾向で
- 萎縮面積が小さく
- 中心窩脈絡膜厚が大きく
- CVHが多かった
という話です。
以下の文献しかありませんでした。
滲出性変化を伴うもの
中心性漿液性脈絡網膜症
- 30-40代の男性
- ストレス、A型気質、ステロイド、妊娠などが増悪因子
- 急性CSC→慢性CSC、別で劇症CSC(別名MPPE)
- 一部は新生血管を生じPNVとなる
- 治療は網膜光凝固や光線力学療法(PDT)を行う
CSCは超有名なので、詳細は書籍や下記ページを参考にしてください。
focal choroidal excavation
- 後部ぶどう腫と関係のない、主に黄斑領域に存在する脈絡膜の凹み
- 無症状で男女差なし
- SRDや新生血管を生じることがある
- 先天性や後天性(以前の炎症などの影響で脈絡膜組織の限局性瘢痕、RPE収縮によって形成される可能性)
- 基本的には経過観察で、SRDやNVがあれば治療対象となることがある
これは、眼科書籍にもしばしば載っていますが、そこまで有名ではないかもしれません。
乳頭周囲パキコロイド症候群
これも記載文献がほとんどありません。(Peripapillary pachychoroid syndromeでpubmed検索してHIT25件、タイトル一致は2件)
- 一般には脈絡膜は黄斑部・中心窩で厚いが、本疾患では視神経乳頭周囲で厚くなる
- 主に視神経乳頭周囲での網膜下液、網膜内液、PEDなど
- CSCと類似しているが脈絡膜厚い場所が異なる(CSCは中心窩)
- 短眼軸、遠視、男性(CSCより高齢)に多い
- 視神経を圧迫し、視神経乳頭浮腫を引き起こす可能性
- uveal effusion syndrome (UES)と類似するが造影検査でleopard spotの所見はない
文献は下の2件
新生血管を伴うもの
パキコロイド新生血管
ドルーゼンの頻度が欧米人と比べアジア人に少ないこと
滲出型AMDにおけるPCVの割合が欧米人と比べアジア人に多いこと から
滲出型AMDと診断されてきたアジア人の中にPNVが含まれていた可能性 を考え生まれた概念?
- 脈絡膜新生血管がある
- 中心窩脈絡膜厚が200µm以上
- ICGA後期でCVH・脈絡膜血管拡張に関連したRPE異常(≒PPE)・CSCの既往のいずれかをもつ
- ドルーゼンがあっても少量の硬性ドルーゼン
基準としては上記のようですが、最近は脈絡膜厚は250µmが基準とされることも多いようなので詳細は不明です。
- 若年者(AMDは50歳~)、脈絡膜厚が厚い、軟性ドルーゼンなし→よりPNVを疑う
- 新生血管性AMDと比較して硝子体内抗VEGF療法に対してより良い反応を示す
- PVNを典型的な血管新生AMDと区別することは難しい
ポリープ状脈絡膜血管腫症
aneurysmal type 1 neovascularizationとも呼ばれているようです。(pubmedで58HIT)
- 1型新生血管、異常な分枝血管網、およびポリープ状血管病変を特徴とする
- 黒人やアジア人で多い
- 最近の研究でのパキコロイドの所見から、典型的なAMDとは異なる病原性メカニズムの可能性
- ICGAは、PCV / AT1の診断におけるゴールドスタンダードの検査
- FAは、異常な分岐血管ネットワークの漏れを検出および監視するためにICGAより優れている可能性
- OCTAは、ポリープ病変内の重なる構造と低い血流速度のため検出率がかなり低いとされている
- PED、double layer sign、ポリープ病巣の所見の組み合わせは、89.4%の感度と85.3%の特異度
- 治療はレーザー光凝固術、抗VEGF薬、PDT、抗VEGF療法とPDTの併用など
PCVも非常に有名なので、眼科書籍などを参考にしてください。
まとめ
- パキコロイド関連疾患の特徴 ①pachychoroid、②pachyvessel、③脈絡膜血管透過性亢進
- 代表疾患は大きく ①萎縮性変化、②滲出性変化、③新生血管を生じるものがある
- 明確な基準は定まっていない
新しい概念なので、いろいろと難しい部分も多いですが
疾患概念をより複雑化しているようにも見えるし、基準も定まっていない状況で、偉い方々をはじめ多くの人が習って研究結果をいろいろ出していますが
基準も定まっていないからこそ、カットオフ値によっていろいろとデータは変わってくるし、それで関連性がどうこうと言われても何とも言えない気持ちにもなります。
所見の取り方も曖昧なので、特にCVH有り無しの判断って結構難しく、その曖昧な判定によって、同様にデータはどっちにも転ぶと思います(新しい分野のため仕方ないのですが)
研究者としての地位や実績、利害関係とかもいろいろありそうだな、という勝手に妄想をしています。
もう少し所見の取り方や診断基準をまとめた上でデータが集まり、通常のAMDと区別するにはわかりやすいですが、もうしばらく時間がかかるのかな?という印象です。
より分かりやすくまとめてこそ、科学だと思うので、なんとかして欲しい領域です(他人まかせ)
<現状は、わかっていないことが多いので、どう考えてもわかりにくい>
コメント
コメント一覧 (3件)
はじめまして
会社の健康診断で「左目加齢黄斑変性症疑い」と診断され眼科受診したら、脈絡膜陥凹と診断されました。今は視力などに問題ありませんが、かなり珍しい症例ですと言われました。
お仕事されてて脈絡膜陥凹の患者さんていますか?
私の場合は黄斑部(中心窩)よりちょっと離れた所か凹んでます。
はじめまして、コメントありがとうございます。
Focal choroidal excavationですね。
たまにいらっしゃいますが、そんなに多くはないですね。
中心窩から離れているのが幸いなのと、あとは滲出性変化が出ないかたまにチェックする感じかなと思います。
教えて頂きありがとうございます
眼科はたまに受診して検査してもらってます。先日も眼科受診し、やはり凹んでいて一年前の画像と変わりないみたいです。目(視力)は大事なので、これからも定期的に眼底検査受けようと思います。