麻痺性斜視における内斜視・外斜視の麻痺筋は、左右いずれかの外直筋・内直筋でありシンプルですが
上下斜視の麻痺筋を同定するには慣れと考察が必要です。
その理由は、眼球運動における上・下方向の運動は
- 上直筋
- 下直筋
- 上斜筋
- 下斜筋
の4筋が関与しており、単純に上下直筋だけでなく、斜筋も関わるからです。
さらにそれらの筋の作用により、内転・外転・内旋・外旋偏位も関わり、複雑化します。
眼球運動の基礎となる外眼筋の作用方向、最大作用するときの目の向きを理解することが必要なので、まずはそれを理解した上で考える必要があります。
今回紹介する考え方は、9方向眼位での最大上下偏位がわかっている場合に活用できる方法で、簡単に麻痺筋を同定することが可能です。
上下斜視の麻痺筋の考え方
上下斜視はL/RかR/Lであり、そのときの麻痺方向、麻痺眼、麻痺筋、その筋が麻痺していたら一番眼位がずれる方向を1つずつ書き出していくとわかります。
この考え方では3ステップで完結します。
L/Rの場合
これを左から順番にかけるようにしましょう
※上斜筋、下斜筋の「最大作用」は下転、上転における作用が一番強く働いている眼位のこと
以下で、一つずつ説明していきます。
Step1. 上斜しているのは右眼か左眼か
L/Rは、「左眼が上、右眼が下の上下斜視」の意味です。
分数みたいに考えて、
「L/R」→「Lが分子、Rが分母」→「Lが上、Rが下」
と考えると覚えやすいです。
Step2. 麻痺しているのは右眼か左眼か
L/Rは具体的には
- 右眼で固視している(中心にある)のであれば、左眼が上転している
- 左眼で固視している(中心にある)のであれば、右眼が下転している
の2つの状態があります。(上下斜視は、右眼と左眼の相対的な上下の位置関係の問題のため)
麻痺としては
- 左眼の上転→左眼の下転麻痺
- 右眼の下転→右眼の上転麻痺
ということになります。(左眼の下転麻痺もしくは右眼の上転麻痺)
左下転麻痺の場合
左下転に関与する筋は、左眼の下直筋と、左眼の上斜筋です。
右上転麻痺の場合
右上転に関与する筋は、右眼の上直筋と、右眼の下斜筋になります。
Step3. 一番ずれるのはどの方向か
9方向眼位の一番ずれているところを確認し、それと照らし合わせます。基本的には9方向眼位での第三眼位で確認します。(右上、右下、左上、左下の4方向)
左下転麻痺の場合
左下転に関与する筋は、左眼の下直筋と、左眼の上斜筋です。
- 左下直筋の下転の最大作用方向は左方視時で、左下方視しているときに一番作用している(麻痺のときにずれが大きくなる)
- 左上斜筋の下転の最大作用方向は右方視時で、右下方視しているときに一番作用している(麻痺のときにずれが大きくなる)
左下直筋は、左方視で視線と直筋が一直線のときに下転作用が一番強くかけることができ、左下方視では下転している状態であることから一番作用している、ということです。逆にそこでずれているということは、左下方視で下転できていなく、麻痺している、ということです。
筋の作用方向と、最大作用方向がよくわからない場合は下記参照
右上転麻痺の場合
右上転に関与する筋は、右眼の上直筋と、右眼の下斜筋です。
- 右上直筋の上転の最大作用方向は右方視時で、右上方視しているときに一番作用している(麻痺のときにずれが大きくなる)
- 右下斜筋の上転の最大作用方向は左方視時で、左上方視しているときに一番作用している(麻痺のときにずれが大きくなる)
これらからわかることは
9方向眼位を測った上で、どの方向でのL/RもしくはR/Lの偏位が最大なのか、に着目すればわかるということです。
上下斜視は、外直筋・内直筋以外の筋が原因であるため、基本的に「上下」以外に、「内転・外転」、「内旋・外旋」が関与し、「目の向き」によって作用する力が変わります。
結果として、どこかの方向を見たときに、一番ずれる位置が出現します。
それがどこかを考える上で、第3眼位に着目すればよく、たとえば右上方向での眼位ズレが最大なのであれば、右上方向をみたときに関わる筋肉の麻痺が一番考えられる、ということです。
上下斜視は左右の相対的な位置関係に過ぎないので、「右上」方向を見たときに関わる筋肉は、右眼、左眼で異なりますが(L/RなのかR/Lなのかで異なる)
L/RなのかR/Lなのか確認して、麻痺として考えれる左右の外眼筋を絞れば、答えはでてきます。
練習問題
練習問題を解いてみましょう。
第51回視能訓練士国家試験
問75.麻痺筋はどれか
- 右眼上斜筋
- 右眼下直筋
- 左眼上直筋
- 左眼下直筋
- 左眼下斜筋
解答
R/Lなので、右眼が上、左眼が下です。
L-FIxとあるので、左眼で固視していて、右眼が上の位置にあります。(この情報はなくても解けます)
R/Lで一番偏位があるところは、左下方向です。(R/L 16°というところを見る)
R/Lの図を書きます。
左下方視で一番上下作用を示すのは、右上斜筋であり、その麻痺のため左下方で一番ずれるということで
答えは1の右眼上斜筋です。
まとめ
- L/Rなのか、R/Lなのか確認する
- それぞれの場合の左右眼での麻痺筋、最大作用方向を確認する(書く)
- 書けたら答えは既に出ている
繰り返しになりますが
これを書けるようにしましょう。
これを書くには外眼筋の作用と最大作用方向の理解が必要です。
書けたら実際に検査で一番ずれている眼位に照らし合わせれば、原因筋がわかります。
斜視、眼球運動は苦手な人が多く、実際自分自身も得意ではありません。
他にも斜視、複視、眼球運動に関してわかりにくい部分をまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
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