白内障手術の難易度を解説 白内障手術は簡単?難しい?

「白内障手術って簡単なんでしょ?」という、つらく切ない言葉をたまにもらうのが眼科医です。

「そんなこと言うなら自分でやってみれば!」という眼科医のお怒りの気持ちもよくわかります。当たり前ですが、自分がしていないこと・したこともないことで、相手が頑張っていることを「簡単なこと」というのは、相手を嫌な気持ちにさせます。対話をするのであれば、言葉を選んだほうがいいかもしれません。

とはいえ、「実際に白内障手術の難易度はどうなんだ?」ということで、個人的な意見を書いていきます。

目次

結論

結論から述べます。

「大多数の(通常の)白内障手術の難易度は高いものではない一方、難易度が高い白内障手術もいっぱいある」

です。多くの医者は手術難易度を表現するにあたって、「簡単」という言葉はあまり使いたがらないので、このように表現させていただきます。

手術の難易度の要素の考察

手術の難易度に関係する要素に関して、以下のページで考察しました。

手術難易度に関係する要素はいろいろあると思いますが、上記ページでは、

  • 手術手技の習得にかかる時間
  • 手術時間の長さ
  • 手術に伴うリスクの大きさ
  • 手術できる医師の人数
  • 手術点数(診療報酬による金額)

を挙げています。白内障手術においてこれらの要素はどうなのか、それぞれ書いていきます。

白内障手術の習得にかかる時間

最初の結論で述べた、”通常の”白内障において考えます。早いところだと眼科医1年目から執刀を始め不安定ながらでも、手術の最初から終わりまで全てできるようになるまで、早ければ1年かかりません

「不安定ながらでも」というのがミソで、できるようになったばかりの手術が、非常に洗練された上手な手術なわけがありません。安定した手術ができるようになるまで、その道の達人と言えるレベルになるまでには、何倍もの長い歳月がかかります。その歳月はセンスや経験数、努力によって変わってきます。

ただし、おおまかに言って、手術を始める時期は早く、できるようになるのも早い手術です。というのも、網膜硝子体手術や緑内障手術など、白内障手術と同時に行う手術がしばしばあります。そのような手術を行う際に、白内障手術ができないと始まらないわけですね。これらの手術を学ぶ前に、できるようになっておかないといけない手術という立ち位置でもあります。

とはいえ、先程も申した通り、その道の達人と言えるレベルになるまでには時間はかかります。

また、手術の上達には経験数がとても大切になってきます。白内障手術は日本国内においてはトップクラスに多い手術になりますので、勤めている環境がよっぽど悪くない限りは、白内障手術は継続的に経験できます。このあたりは勤めている環境要因が大きいので、全然手術ができない・させてもらえない、という方は勤務先・研修先を考え直してもいいかもしれません。

白内障手術は比較的早くからできるようになる手術

白内障手術の手術時間の長さ

10分前後が多いです。

もちろん幅はあり、本当に早い人だと5分かからない人もいます。手術にかかる時間としては、かなり短いほうだと思います。こちらは別記事を書いていますので、参考にしてください。

白内障手術の手術時間は短い

白内障手術に伴うリスクの大きさ

手術に伴うリスクの考え方は複雑なので、ミクロな視点(手術行為自体で生じる合併症の大小)とマクロな視点(それに伴う全身的なリスク・QOLの変化など)で分けて考えます。

ミクロな視点でのリスク

眼の手術は大きく、内眼手術と外眼手術に分かれます。

内眼手術とは、眼球の内部を操作する手術です。簡単にいうと、眼球というボールの内部に貫通させて手術を行います。

外眼手術は逆に、眼球の外側を操作する手術で、眼の内部に貫通する傷は作りません。

内眼手術では、傷口から眼球内部に菌が入り込むことによって生じる、感染性眼内炎という緊急で重症な合併症が起こる可能性があります。治療が遅れると最悪失明したり眼球摘出が必要となることがありますが、完全な失明になることは多くはないです。しかし重篤な視力障害などの後遺症を残す可能性はあります。

眼内炎が生じる頻度は数千件に1件程度と言われています。眼球内部へメスを入れることは、眼球の外側だけ行う手術と比べ、眼内炎やその他にも視機能に大きく影響する合併症が生じる可能性がある点で、リスクが高いと言えます。

しかし重篤な障害を残す頻度はかなり低く、白内障手術は安全な手術と言えるものです。

白内障手術は最悪失明のリスクがある手術だが、その頻度は低く、安全な手術

マクロな視点でのリスク

眼内炎が生じる頻度が数千件に1件、そのうち失明に至るケースは多くはないので、白内障手術によって失明するリスクは更に低いと考えられます。

合併症のリスクという点では、生じる合併症の重篤さと、その合併症が生じる頻度が重要になってきます。かなり低い頻度×最悪の場合失明、このリスクがどれくらいかというのは、言い方を変えれば「白内障手術は安全かどうか」という話になります。「白内障手術は安全ですが、頻度はかなり低いですが最悪の場合失明することもあります。」が答えかと思います。

一方で、最悪のパターンで失明した場合ですが、眼球は2つあります。片眼が見えなくなっても、もう片眼が見えていれば、見え方の質はもちろん下がりますが、見ることはできます。運転免許も片眼見えていれば更新できます。

白内障手術で最悪のパターンが起こっても、片眼を失うのみで、見ることはでき、命にも影響はありません。(白内障手術時の高血圧で脳出血を起こして亡くなった、などのパターンは極々稀ですがあります。)

眼科医的には失明≒眼の死、のようなもので、失明は最悪の状態です。そうならないように治療を行っていますが、失明してしまうケースももちろんあります。眼科医にとって失明は最悪な結果ではありますが、白内障手術の合併症で失明しても、片眼は見えているし、本人は生きている、この状態が他の科の手術、例えば心臓血管外科の手術や脳外科の手術と比べてリスクが高いか?と言われたら、言うまでもありませんがリスクは低いです。

これは眼科という科の特性ですが、眼科の治療はQOLには直結しますが、生命に直結することはほとんどありません。(癌などは除く)

白内障手術の合併症でQOLの低下は起こるが生命には直結しない

白内障手術をできる医師の人数

たいていの眼科医は手術できます。眼科医にとってはありふれた一般的な手術になります。

実際、専門医を取得するまでには必ず経験する手術ですし(経験がないと専門医が取れない)、技術の差や自信の差などはあるにせよ、ほとんどの眼科医が経験する手術になります。もちろん手術が苦手でなんとかやっている人、途中から手術はやめる人など様々ですが、とはいえ眼科医全体の大多数ができる手術かと思います。

白内障手術はほとんど多くの眼科医ができる・できた手術

白内障手術の保険点数

白内障手術の保険点数は、12100点(令和6年)です。かかる医療費としては、121000円になります。支払う金額のうちの手術代は、1割負担で12100円、2割負担で24200円、3割負担で36300円です。

この金額が高いか低いかはいろんな見方があるので、ノーコメントとしておきますが

この手術費用には、手術に使う白内障手術器具、眼内レンズも含まれます。その他、手術室で働くスタッフの人件費等もろもろの出費を考えると、利益はどれくらいになるかというと、機材の仕入れ価格などによって変わるので医療機関によってまちまちでなんとも言えません。

ちなみに眼内レンズは定価だと10万円前後しますので、そのままの価格で仕入れると(そんなことはほぼありませんが)、赤字になります。そのため、納入価の交渉なども重要になってきます。

白内障手術の保険点数が高いか低いかはノーコメント

難易度の高い白内障手術

難易度の高い白内障手術はいろいろありますが、

  • 進行しすぎた白内障(成熟白内障・過熟白内障)
  • チン小帯脆弱・断裂のある白内障

の頻度が高いです。これらを合併症を起こさず終えることでできる術者が上手な白内障術者です。しかし合併症を起こさず手術を終えることが難しい症例も多々あります。

合併症を起こしても、術式を変えたり拡大手術をすることになっても、最終的に綺麗に終えることができることが次に求められるレベルですかね。

まとめ

  • 通常の白内障手術は、ほとんど全ての眼科医が若いうちから経験し、程度に差はあれできるようになる手術
  • 手術症例は多く、手術時間は短く、最悪失明のリスクはあるが現在ではかなり安全な手術
  • 通常の白内障手術は難易度が高いものではないが、難易度が高い白内障手術はしばしばある

「手術ができる」といっても、ただの「できる」と「綺麗に早く安全にできる」では、意味合いが異なってきます。通常の白内障でも、より良い手術をするためにはひたすら努力していく必要があるし、難易度の高い白内障手術は症例数が少なくなります。それをいかに合併症を起こさず綺麗に終えれるか、という点では、奥が深い手術です。(どの手術でもそうかもしれませんが)

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