ベベルダウンの意味と力の作用方向(眼科手術・採血点滴針)

ベベルダウンとは何か。

ベベルの説明と、ベベルダウン・ベベルアップでの力の作用方向、使い道などを説明します。

目次

ベベル(bevel)の意味

ベベルとは、「斜めの面」のことを意味します。

そして、斜めの面が上に向いていることをベベルアップ斜めの面が下を向いていることをベベルダウンと言います。上記イラストでは、斜面(への垂線)は上方に向いているので、ベベルアップです。

ベベルの向きによる力のベクトル

ベベルをなぜ考える必要があるかというと、鋭利な先端部の力の作用方向が変わってくるためです。

上図のように、ベベル(斜めの面)に対して二等辺三角形を描き、そこに頂点から垂線を下ろします。その垂線の方向が、先端部の力の作用方向になります。

上のイラストは斜面は上を向いているので、ベベルアップです。すなわちベベルアップの状態は、針を水平に寝かせていても、針の先端部は少し下方(すなわち組織の方向)に力が働くことになります。針を立てて角度をつければより組織方向に力が働き、刺さっていくことになります。

医療行為におけるベベル

ベベルについて理解しておくと、

眼科ではIOLインジェクター、25~27Gの鋭針など、その他医療従事者では採血針、点滴ルート針などでより上手に・安全に取り扱えるようになると思います。

鋭針におけるベベル

結膜下注射や、その他麻酔などの処置で、鋭針を刺すことがあります。

そのときのベベルの向きによって力の作用方向が変わるため、組織への刺さりやすさが変わります。

ベベルアップ
ベベルダウン

上のイラストは針の角度を同じにして、先端部の向きだけ反転させたものです。

ベベルアップとベベルダウンでは、針の先端部のベクトル方向が異なります。

どちらもイラスト下方に組織があるとして、

  • ベベルアップでは針の先端は組織方向へ刺さっていく
  • ベベルダウンでは針の先端は組織からほぼ真横、すなわち組織の上を滑るように横方向に刺さっていく

ということになります。

結膜下注射を行うときはどうするか。結膜の下に先端部を入れたいけど、眼球には刺してはダメ。ベベルダウンで注射したほうが刺さっていかないため、安全です。結膜は疎な組織なので鑷子で掴んで持ち上げて注射をすれば、どちらでも大丈夫です。

テノン嚢下注射を鋭針で行うことがあります。その際も同様です。ベベルアップで行うと強膜に刺さっていく可能性が高くなります。これもベベルダウンで行うのが普通です。

IOLインジェクターのベベル

ベベルという単語を初めて聞いたのは眼内レンズのインジェクターの挿入の仕方を説明されたときですね。

基本的にベベルダウンです。すなわち、「斜めの面が下に向くようにして」挿入するという意味です。

何故ベベルダウンかというと、

内容物(IOL)が下方向~下ななめ前に押し出されて水晶体嚢に入ってほしいからです。ベベルはダウンにしないと無理ですよね。

これがベベルアップだと、IOLが上方斜め前方向に押し出されて、思いっきり角膜内皮方向にIOLが出ていくことになります。そうならないように角度をつけて深く先端部を深く入れて出せば内皮にあたらないかもしれませんが、先端部で後嚢を破ったりし兼ねないですね。(普通やりません)

点滴ルート針・採血針におけるベベル

点滴・採血のときの針の向きは常識的に知っていると思いますが、これもベベルによる力の作用方向が関係します。

点滴などの場合は、針の先端部が皮膚を貫通して、血管内まで届かせなくてはなりません。すなわち、組織を貫通させる組織方向に力が働く向きで刺します。

ベベルアップ

この向きで刺せば、組織方向に刺さりやすく、表皮を貫いて血管まで向かうことができます。(この向きが正解です。)

ベベルダウン

逆にこの向きだと、全然深く刺さっていかず、皮膚の表面を削るだけになってしまいます。

球後麻酔針のベベル

球後麻酔は曲針ですることが多いと思いますが、球後針の先端って、眼球に対してベベルアップになっているんですよね。

すなわち、眼球に刺さりやすいベベルになっています。なので、眼球方向に角度をつけすぎて刺入すると、眼球に刺さる可能性あります。合併症で眼球穿孔ありますからね。

何でこの向きなんだろう。球後の更に奥の方、眼窩先端部のほうに麻酔薬が浸透しやすくするため?

まとめ

  • ベベルとは斜めの面のこと
  • ベベルダウン・アップにより、先端部のベクトルが変わる
  • 組織を刺したいときはベベルアップ
  • 組織を刺したくない・安全に刺すのはベベルダウン

番外編:上手な採血、点滴ルートの取り方

採血の場合は逆血が来たらその場から全く動かさないようにすれば問題ありません。そのまま血を引きましょう。

点滴ルートを取る場合は針先を血管内に入れてから、シースを押し出して血管内に留置します。

まずは逆血が来るまで針先を進めます。逆血が来たら操作を慎重に、ほんの少しだけ針先を進めます。

そのまま進め過ぎると血管の下壁を突き破って失敗です。怖気づいて針先を少し引いてしまうとこちらも失敗します。

逆血が来たら、まずは針先を寝かせます。寝かせることで、ベベルを含む先端全体が血管内に入りやすくなる、先端部のベクトルがやや緩やかになる、針先が持ち上がるので血管内が広がります。

その後意識して少し針を持ち上げてもよいです。そうすると血管が引き延ばされて内腔が変形し、より血管下壁を突き破りにくくなります。②の方向に持ち上げれば先端は血管壁には当たらないので、血管を損傷しません。

その後、数mm程度針を進めたら、シースを押し出してみてスムーズに入れば留置して終了。入らなければもう少し押し進めて同様にして留置します。

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