現在主に使われているであろう眼科抗生剤点眼の種類・特徴、結膜常在菌と主に結膜炎を起こす細菌の感受性、抗菌スペクトラムを記載しています。
「この菌にはこの点眼」という形で記載し、他の教科書にはあまり載っていない切り口で書いていますので、ぜひ参考にしてください。
総論
- 眼科における抗菌薬は主に局所使用(点眼・軟膏)である
- 点眼薬の移行は、角膜内1/100程度、前房内1/10000程度の濃度となる
- 全身投薬の目への移行は、外眼部(眼瞼)、前眼部(結膜・強膜・角膜周辺部など)へは血中濃度がそのまま、眼内(硝子体、房水、網膜など)へは血液房水関門、血液網膜関門があるため移行率は高くはない
- 従って眼内感染(眼内炎)には硝子体注射や硝子体手術時の灌流液に薬剤を混注し直接薬剤が到達するようにしたりする
眼表面は点眼薬がそのまま、全身投与の薬剤も血中濃度がそのまま反映されると思いますが、眼内への取り込まれる濃度は低くなります。
眼科抗生剤点眼種類
それぞれの抗生剤の特徴と眼科で扱われている薬剤についてです。
セフェム系
- βラクタム系に分類される。
- 殺菌性抗菌薬
- 時間依存性
- 細胞壁合成阻害(ヒトに対する毒性は低い、ヒトの細胞は細胞壁がないため選択性が高い)
- ベストロン®(セフメノキシム:CMX)第三世代セフェム
第三世代セフェムはグラム陰性菌にも効果を示すが、グラム陽性菌への効果は第一世代より弱い
セフェム系の抗菌薬点眼はコレだけ。
ニューキノロン(フルオロキノロン)系
- 殺菌性抗菌薬
- 濃度依存性
- DNA合成阻害
第二世代:
- タリビッド®、オフロキシン®など(オフロキサシン:OFLX)
- ノフロ®、バクシダール®など(ノルフロキサシン:NFLX)
サンフォード感染症治療ガイド2021ではNFLXはかなり多くの菌種に感受性がないことが記載されている。
第三世代:
- クラビット®(レボフロキサシン:LVFX)
- オゼックス®・トスフロ®など(トスフロキサシン:TFLX)・・・小児適応あり
第四世代:抗嫌気性活性+
- ガチフロ®(ガチフロキサシン:GFLX)
- ベガモックス®(モキシフロキサシン:MFLX)
アミノグリコシド系
- 殺菌性抗菌薬
- 濃度依存性
- 蛋白質合成阻害
- ゲンタマイシン、ゲンタロール®(ゲンタマイシン:GM)
- トブラシン®(トブラマイシン:TOB)
- パニマイシン®(ジベカシン:DKB)
- フラジオマイシン:FRM(リンデロンA®、ネオメドロールEE®に含有)
サンフォード感染症には、GM、TOBのみ感受性の記載あり。
マクロライド系
- 静菌性抗菌薬
- 蛋白質合成阻害
- エコリシン®(エリスロマイシン:EM)
- アジマイシン®(アジスロマイシン:AZM)
アジマイシンは結膜炎には1日2回点眼を最初の2日間、1日1回をその後5日間使う。(計7日間) 眼瞼炎、涙嚢炎、麦粒腫には1日2回点眼を最初の2日間、1日1回をその後12日間使う。(計14日間)
→使い方がやや面倒
クロラムフェニコール
- 性菌性抗菌薬
- 蛋白質合成阻害
- クロラムフェニコール:CP
- オフサロン®(CP+コリスチン)
・・・あまり使っている人を見たことがない
グリコペプチド系
- 殺菌性抗菌薬
- 時間依存性
- 細胞壁合成阻害
- バンコマイシン眼軟膏®(バンコマイシン:VCM)
※使用には申請が必要(”バンコマイシン眼軟膏”で検索すれば出てきます)
結膜嚢常在菌
常在菌の分布は研究結果により多少差がありますが、以下のようになります。
- 表皮ブドウ球菌(32%)
- アクネ菌(27%)
- コリネバクテリウム(10%)
- 黄色ブドウ球菌(5%)
- 腸球菌(2%)
- 表皮ブドウ球菌(20%)
- アクネ菌(15%)
- 黄色ブドウ球菌(MSSA+MRSA+他、15%)
- 連鎖球菌属(13%)
- コリネバクテリウム(9%)
- インフルエンザ菌(5%)
- モラクセラ(3%)
引用:眼科クオリファイ②結膜オールラウンド
結論として多いのは、
- 表皮ブドウ球菌 Staphylococcus epidermidis
- アクネ菌 Propionibacterium acnes
- 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus
- コリネバクテリウム Corynebacterium diphtheriae
+連鎖球菌属、インフルエンザ菌など
結膜炎の主な起因菌
日本眼感染症学会特定菌(眼科クオリファイ②結膜オールラウンドより)として、以下の6種があげられています。
- 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus
- 肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae
- 緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa
- モラクセラ菌 Moraxella catarrhalis
- インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae
- 淋菌 Neisseria gonorrhoeae
菌種別 抗生剤点眼感受性
上記の6菌種およびその他眼科領域感染症で原因として多い細菌の感受性を記載します。
感受性はサンフォード感染症ガイド2021を参考にしています。
- ベストロン®:CMXについては記載なし
モダシン®(セフタジジム):CAZ(眼内炎のとき使うことがあるので) - ガチフロ®:GFLX、ベガモックス®:MFLX、クラビット®:LVFX、タリビッド®:OFLX、ノフロ®:NFLX
- トブラシン®:TOB、ゲンタロール®:GM、
- アジマイシン®:AZM、エコリシン®:EM
- バンコマイシン:VCM
として、感受性を「++」,「+」,「+-」,「-」として記載。
黄色ブドウ球菌
Staphylococcus aureus (S.aureus) グラム陽性球菌、コアグラーゼ陽性
MSSA
- CMX記載なしだが多くのセフェム系+
CAZ+- - GFLX+, MFLX+, LVFX+, OFLX+, NFLX-
- GM+-, TOB-
- AZM+-, EM+-
- VCM+
→ノフロ以外のニューキノロン(ガチフロ、クラビット、ベガモックス、タリビッド)、ベストロンはok
MRSA
- CMX記載なしだが大体セフェム系-
CAZ- - GFLX-, MFLX-, LVFX-, OFLX-, NFLX-
- GM+-, TOB-
- AZM-, EM-
- VCM++
→バンコマイシン1択
※使用には申請が必要(バンコマイシン眼軟膏で検索すれば出てくるので、詳しくは日東メディック社に連絡を)
肺炎球菌
Streptococcus pneumoniae (S.pneumoniae)
- CMX記載なしだが多くのセフェム系+
CAZ+ - GFLX+, MFLX+, LVFX+, OFLX+-, NFLX-
- GM-, TOB-
- AZM+-, EM+-
- VCM+
→ガチフロ、ベガモックス、クラビット、ベストロンはok
緑膿菌
Pseudomonas aeruginosa (P.aeruginosa)
- CMX記載なしだが多くのセフェム系-
CAZ+ - GFLX-, MFLX-, LVFX+, OFLX+-, NFLX-
- GM+, TOB+
- AZM-, EM-
- VCM-
→クラビットか、アミノグリコシド系(トブラシン、ゲンタマイシン)、LVFXは+
モラクセラ・カタラリス
Moraxella catarrhalis
- CMX記載なしだが多くのセフェム系+
CAZ+ - GFLX+, MFLX+, LVFX+, OFLX+, NFLX-
- GM-, TOB-
- AZM+, EM+
- VCM-
→ノフロ以外のニューキノロン、マクロライド(アジマイシン、エコリシン)、ベストロンはok
インフルエンザ菌
Haemophilus influenzae (H.influenzae)
- CMX記載なしだが多くのセフェム系+
CAZ+ - GFLX+, MFLX++, LVFX++, OFLX+, NFLX-
- GM+, TOB-
- AZM+, EM-
- VCM-
→クラビットかベガモックス、ベストロンはok、ゲンタロール、アジマイシンも可
淋菌
Neisseria gonorrhoeae (N.gonorrhoeae)
- CMX記載なしだが多くのセフェム系-
CAZ- - GFLX-, MFLX-, LVFX+-, OFLX+-, NFLX-
- GM-, TOB-
- AZM+, EM-
- VCM-
→耐性化が多くほぼ効かない。アジマイシンは一応〇だが、基本的にはCTRX(セフトリアキシン)の全身投与のみ
腸球菌
なぜだか結膜にいて、眼内炎などの眼感染症を起こしたりする(しかも急速で重篤な印象)
Enterococcus faecalis
- CMX記載なしだが多くのセフェム系-
CAZ- - GFLX+, MFLX+, LVFX+, OFLX+-, NFLX+
- GM+-, TOB-
- AZM-, EM-
- VCM++
→フルオロキノロン系、もしくはバンコマイシン(眼内炎時)
Enterococcus faecium
- CMX記載なしだが多くのセフェム系-
CAZ- - GFLX+-, MFLX+-, LVFX-, OFLX-, NFLX-
- GM+-, TOB-
- AZM-, EM-
- VCM+-
→点眼はあまり有効なものはない
化膿レンサ球菌
Streptococcus pyogenes A群β溶血レンサ球菌
- CMX記載なしだが多くのセフェム系+
CAZ+ - GFLX+-, MFLX+-, LVFX+-, OFLX+-, NFLX-
- GM+-, TOB-
- AZM+-, EM+-
- VCM+
→ベストロンで
まとめ
サンフォード上
- ニューキノロンではクラビット点眼がさまざまな菌種に感受性が良好
- ノフロ点眼はほとんどの菌種に感受性がない
- 大体はニューキノロンとベストロンで大丈夫
常識的な話ですが、無用な抗生剤点眼の継続は、耐性菌を生じうるのでやめましょう。
そして、抗生剤点眼にNFLXは選択しないほうがよいかもしれません。
結論、大体はニューキノロンとベストロンでカバーできるのですが、本来の感染症の治療としてその感受性に有効な抗生剤を選択すると、よりちゃんとした医学的治療となると思います。
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