詐病と心因性視力障害の違いについて。どちらも器質的な異常がなく、視力障害・視野障害をきたします。
大きな違いとして、詐病の人は、必ず診断書を欲しがります。(病院書式、保険会社書式など)
保険会社から保険金を受け取ったり、何らかの利益(疾病利得)がなければ、わざわざ時間を作って病院に来て、検査でお金払ってまでして、嘘をつく必要がないですからね。
どちらも除外診断である
まず、どちらも除外診断であり、他の器質的異常・機能的異常がないことを確認する必要があります。
異常があるのであれば、それが原因であり、詐病でも心因性でもないのですから。
具体的には前眼部~眼底検査、眼底黄斑部のOCT(中心窩網膜の形態評価)、自発蛍光、蛍光眼底造影、網膜電図、視野評価と視神経評価(フリッカー、色覚検査など)、更に視路~脳の評価にMRIなどを行います。他には角膜不正乱視がないか、角膜形状解析を行ったりします。これでほぼ全部です。
- 視力検査
- 前眼部~眼底(スリット、倒像鏡)
- 角膜形状解析(矯正できない乱視がないか)
- 視野検査(◎GPがよい)
- CFF
- 眼底カメラ
- OCT
- FAF
- ERG(通常・多局所)
- FA(侵襲性あるのでここまでしなくてもよい)
- 頭部画像検査(CT、MRI)
ここまでやって異常がなければ、異常なしでよいと思います。(もっとやる人もいるかもしれませんが)
特徴的な視力障害
- トリック法による視力改善
これがあったら、心因性を頭の隅においてよいです。詐病では「見やすくなった」という結果は残したくないので、トリック法により視力が変化する可能性はあっても、改善することは考えにくいです。
一方心因性の場合は改善する可能性があります。また、視力検査値と実際に移動のスムーズさなどを確認するとよいです。
視力検査値では非常に視力が低いのに、検査案内、診察室への入室のがスムーズな場合があります。ORTに視力検査の様子を確認するとよいでしょう。
特徴的な視野障害
- らせん状視野狭窄
- 求心性視野狭窄
これらがあったら、心因性・詐病を頭の隅においてよいです。
ただし求心性視野狭窄は視神経異常でも起こり得ますので、視野だけで判断はしないように。
再現性があるか
眼科の多くの検査は自覚検査です。
患者さんが見えた、見えなかった、を記録しているに過ぎません。変だなと思ったら、少し期間をおいてあらためて視力検査、CFF、視野検査などを検査してもよいです。
心因性の場合は時間とともに改善することもあります。
詐病の場合は多少結果にずれが生じることがあるか、悪くなります。明らかに良くなることはありません。(悪い状態で診断書を書いて欲しいため)
心因性視覚障害の対応
心因性で多いのは、小学生以降の若年の女性です。
心因性の多くの原因は、家庭・学校・習い事・眼鏡願望などとされています。
年齢にも依りますが、親と同席での診察だけでなく、親との面談、本人との面談も行いましょう。
親には
- 普段家での様子(見えにくいような様子はあるのか)
- 学校や部活、習い事などで環境の変化はあるか、それに対して本人がどのように感じているのか
- 眼鏡を気にするようなしぐさ・発言があるか(眼鏡使用願望の有無)
などを確認。
本人にも同様のことの確認ですが、最初から心を開いて本音を聞き出すのは難しいです。
無理のない範囲で本人に負担をかけずに、信頼関係を築くことが大事だと思います。
眼鏡願望がある場合(そのように訴えない場合もあり)は、とりあえず眼鏡(度なし)を処方してみるすぐに改善することもあります。
また、診察の際には、
- 診察室への移動の手際の確認
- 視力検査などの検査状況の確認
など、診察以外の状況にも目を向けましょう。(詐病患者も同様)
心因性では緊急性がないこと、自覚が改善すればよいので、トリック法で視力が上がっていれば、一番視力が出た度数の眼鏡を処方するのはアリです。(トリック法で打消しで度なしであれば度なし眼鏡でok)
詐病の対応
詐病の場合はほとんど成人で、中高年が多い印象です。
子供は診断書を欲しがる理由がありませんので。(親が診断書目的に子供に嘘を付かせようとすることは、可能性としてありますが)
キャラクターが濃かったり、普通の患者さんとは違うなと感じると思います。辛いことを非常に強くアピールしてきたり、診断書が欲しいことを最初に言ってきたり、検査に関してはお金がかかるので非協力的もしくはなるべく日数をかけずに早く終わらせたい様子がうかがえたりします。
診断書を依頼されたら書くのが医師の仕事でもありますが、どこまでか書くのかなど悩ましい部分もあります。細かくは下記記事を参考に。
まとめ
- 心因性も詐病も除外診断であること(必ず他を否定してから)
- 心因性では親への説明は大事
- 心因性では時間の経過や眼鏡処方で改善することも多い
- 全く改善がない場合は心療内科受診なども検討
詐病と心因性障害を間違えることは少ないと思います。
なぜなら最終目標が違うからです。詐病は診断書が欲しい、心因性障害は辛いから治したい、です。
一方最初に述べたように、検査結果から特徴的で詐病や心因性を疑うことはあっても、あくまで除外診断であるため、他の器質的疾患を見落とさないように十分注意しましょう。
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