白内障手術は中間透光体混濁による矯正視力低下に対する改善方法であるとともに、屈折矯正手術の面も含んでいる治療になります。
メガネで例えて言い換えると
- レンズの傷・汚れによる見にくさを、レンズを(取り換えて)綺麗にして見やすくする手術(中間透光体混濁の改善)
- レンズの度数自体を変えて元より見やすくする手術(屈折矯正)
という手術になります。
1は混濁した水晶体(白内障)を取り除くことで、2は挿入する眼内レンズの度数によって行うことができます。
強度近視は矯正なしに生活が困難
強度近視は-6D~-10Dのことを指すことが多いです。
-6Dの焦点、すなわち見やすいところはどの辺りか?というと
1/6=0.166m=16.6cm
ということで、眼前16cmにピントが合っています。(-8Dなら12.5cm、-10Dなら10cm)
(詳しくは下記参照)
16cmより遠くは、遠くになるにつれてピントがぼけてぼやけて見えます。
さて、私生活で手元16cmがはっきり見える状態でそれより遠くが見にくい状態で、生活できるでしょうか?
「かなり厳しい」が答えだと思います。
この程度の近視の人は、視力検査では裸眼0.1にも満たないです。
裸眼では運転はおろか、学校の黒板の字なども見えず、運動のときも危ないレベルの裸眼視力です。
強度近視の白内障
裸眼視力が非常に低くても矯正して視力が出れば生活はできるので、それを不便に感じていなければそのままでokです。不便に感じる方は自費ですが屈折矯正手術(ICLやレーシックなど)をすればよいです。
他に病気がなければ、矯正すれば視力1.0程度は出る人が多いですが、メガネ矯正だと近視が強いとその分、縮小率も強くなるため、1.0が出ない人もいます。そういう人はコンタクトのほうがオススメだったりします。
両眼が同程度の白内障でどちらも近い時期に手術をするのであれば問題は少ないですが、片方だけ白内障が進行した場合の手術の際の、目標屈折値の問題があります。
片眼手術の際にどこにピントを狙うか?
ここでは両眼とも同じ程度の強度近視(-6D~-10D)で片眼のみ白内障で矯正視力が低下した場合を考えます。
1.元々の度数を狙う
手術によって元々の度数から変えない方法です。今まで通りの生活ができるという点では楽ではあります。
ただし-6D~-10Dという屈折値が、せっかく矯正できるチャンスであったのに残してしますのは、最善だったかというと、それは人によります。
すなわち、せっかく矯正できるチャンスだったのに、手術しても裸眼では手元10-16.6cmくらいしか明視できません。つまり普段から常に矯正していないと、生活は難しい状態のままです。
これから先の生涯、裸眼で生活できない屈折値を残すというのは、ちょっと不便かなと思います。
2.近視を弱めて狙う
-3D前後を目安に狙うことが多いです。
-3Dだと33.3cmにピントが合います。30cm程度の距離は、手元でスマートフォンやタブレット、本を読むなどにはちょうどよい距離です。
外に出かける分にはメガネやコンタクトで矯正しないと見にくいですが、慣れた自宅内などであれば多少は問題ありません。
したがって非常によい選択肢の一つになりますが、反対眼との屈折値の差に注意しないといけません。
屈折値の差が左右で2D以上となると、不同視を生じる可能性があります。
近視を弱めつつ不同視が起こりにくいよう、度数を弱めすぎないようにしますが、元の近視が強すぎる場合は不同視が出てしまうことは仕方がないと割り切るしかありません。
不同視が生じてしまうどうしようもない場合は、反対の目の白内障手術をして屈折値を合わせるという最終手段があります。この場合は、白内障自体による矯正視力の低下がなくても、冒頭で述べた2.のレンズの度数自体を変えて元より見やすくする手術(屈折矯正)の意味での手術となります。
白内障が大したことがない状態で手術することはためらわれる部分もありますが、致し方ないと考えるしかありません。
3.正視を狙う
あえて勧めることはないですが、「裸眼で遠くが見たい」と強く希望される方には選択肢になります。
しかし、左右差がさらに強くなってしまうため、不同視はまず避けられません。
片方の目が遠くが見えて、片方の目が目の前しか見えない状態になります。
不同視が生じてどうしようもない場合は、前述と同様に、レンズの度数自体を変えて元より見やすくする手術(屈折矯正)の意味での反対眼の手術が必要となります。
強度近視の人の白内障手術では近視を弱めることが多い
以上のように、強度近視における白内障手術の術後の屈折値の狙いとしては
- 強度近視が残っていたら生活は変わりないが不便なことが多い(裸眼で生活不可)
- 屈折値を弱めすぎると不同視を生じて新たに生活困難感が出現する
という点から、近視を多少弱めるという方針が多いようで、実際私もそうオススメします。
とはいえ、-10Dの人の屈折値を多少弱めて-7Dにしたところでほとんど意味はないため
基本は-3D前後狙いにします。多少幅を持たせて-2.5D~-4Dくらいまででしょうか。
不同視が生じてしまうであろう場合(-2D以上の左右差が出る場合)は、重々そのことをお伝えした上での手術となります。
まとめ
- 強度近視の人は普段の生活から不便は多い
- 白内障手術をするときにも選択が難しいことがある
- 基本は-3D前後に屈折値を弱める形が多い
- 術後不同視が生じた際の最終手段は反対眼の白内障手術
- 最終的な屈折値の狙いは患者さんの希望に合わせて
強度近視はさまざまな点でデメリットが多く、このような手術の際の悩み以外にも、いろんな眼疾患を生じるリスクとなります。(病的近視)
逆に強度近視であるメリットはほとんどなく、結構辛いです。
現在世界的な近視人口の増加が認められており、予防法がいろいろと研究されている状況です。
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