癌関連網膜症(CAR) 疫学・原因抗体・症状・検査・診断・治療

癌関連網膜症、CAR:cancer-associated retionopathy(もしくはcarcinoma-associated )についてまとめました。

全身性の癌の存在下で、網膜蛋白質に対する自己抗体による自己免疫性機序によって、両眼性の視細胞(杆体・錐体)を傷害し、急性・亜急性の進行性の視力障害をきたす疾患

概要

  • Sawyerらが1976年、肺がん患者の網膜変性を伴う視力低下を報告した
  • 腫瘍細胞自体の影響ではなく(浸潤や転移、播種などではなく)、腫瘍によって間接的に引き起こされる病態を、腫瘍随伴症候群という
  • 広義では自己免疫性網膜症(autoimmune retinopathy: AIR)に入る。自己免疫性網膜症は腫瘍随伴症候群と非腫瘍随伴症候群に分けられる。
  • 腫瘍の大きさ、浸潤性、転移とは無関係とされている
  • CARの診断は癌の診断に先行することが最大50%ある
  • 肺小細胞癌、乳癌に多い
  • 自己抗体の抗原として、リカバリン、α-エノラーゼなどがある
目次

疫学

  • 腫瘍随伴症候群の頻度は癌患者10000人あたり1人
  • 最終的には全癌患者の10-15%で発症するという報告あり(?)
  • 性差は男<女
  • 平均発症年齢は55-65歳(40-85)
  • 乳癌、肺小細胞癌、血液腫瘍に多い

1番目と2番目は言っていることが全然違うと思うのですが、同じ文献に記載あり。

報告されている癌の種類

肺小細胞癌や乳癌が重要

  • 小細胞肺がん
  • 乳がん
  • 子宮内膜がん(子宮体癌)
  • 浸潤性胸腺腫
  • リンパ腫
  • 子宮頸がん
  • 子宮内膜肉腫
  • 骨髄腫
  • 基底細胞がん
  • 結腸がん
  • 腎臓がん
  • 白血病
  • ミュラー管混合腫瘍
  • 前立腺がん
  • 黒色腫
  • 扁平上皮癌
  • 膵臓癌

報告されている原因抗体

リカバリンとαエノラーゼが有名

  • リカバリン
  • α-エノラーゼ
  • 抗炭酸脱水酵素II
  • 抗GAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)
  • 光受容体間レチノイド結合タンパク質
  • ニューロフィラメントタンパク質
  • タビー様タンパク質1[TULP1]
  • アレスチン
  • 熱ショック同族タンパク質HSC70
  • GCAP 1および2(グアニル酸シクラーゼ活性化タンパク質)
  • PNR光受容体細胞特異的核内受容体
  • Rab6A GTPase(Rab6A)

癌ではVEGFの濃度が上昇し、透過性亢進、血液網膜関門が破壊され、抗体が網膜へエンドサイトーシスによって取り込まれる。

※エンドサイトーシス:細胞が形質膜で外部の物質を取り込んで陥入し,小胞を形成して細胞内へ取り込む作用

リカバリン(染色体17p13.1)

  • 光受容体の明暗順応に関与
  • 抗リカバリン抗体によるCARはより重症である(急性に発症し進行が早い)

α-エノラーゼ

  • 杆体細胞、錐体細胞、神経節細胞、ミュラー細胞にみられる解糖経酵素
  • リカバリン関連よりも重症度が低い
  • 乳癌、前立腺癌、血液癌に関連
  • α-エノラーゼに対する抗体は、健常人にも約11%見られる

抗α-エノラーゼ抗体を示す他の疾患として、ベーチェット病、混合クリオグロブリン血症、炎症性腸疾患、原発性硬化性胆管炎、SLE、多発性硬化症、全身性硬化症などがある

症状

  • 夜盲、霧視が多い
  • 他、グレア、光過敏、飛蚊症、光視症、色覚異常、変視症などさまざまな進行様式を示し、症状は一様ではない
  • 両眼性が多い
  • 癌の診断と眼症状、どちらが先行することもある
  • 網膜の中心まで障害されると著しい視力低下を起こす

所見

  • 初期には眼底異常を認めないことも多い
  • 進行すると網膜色素変性様、網膜血管炎様などを呈することがある
  • 抗α-エノラーゼ抗体によるものではドルーゼンが多発するという報告がある
  • OCTで視細胞の変性により視細胞層~外顆粒層の菲薄化
  • 網膜障害であり、網膜色素上皮と脈絡膜は通常関与しない
  • 軽度の前房炎症、前部硝子体細胞を認めることがある

診断

診断基準はない

臨床症状、検査所見、全身癌の診断、抗網膜自己抗体検査などを組み合わせて行う

抗網膜抗体は健常人約40%にも認めるため、抗網膜抗体の存在のみでは診断できない(この「抗網膜抗体」というのは、リカバリン、αエノラーゼ、他どこまで含むのかは不明)

  • 視野
  • 眼底自発蛍光
  • フルオロセイン蛍光眼底造影
  • OCT
  • ERG
  • 抗体検査

視野

中心暗点、輪状暗点、盲点拡大

FAF

視細胞死とRPEの萎縮により低自発蛍光

OCT

視細胞の変性により視細胞層~外顆粒層の菲薄化、網膜前膜、嚢胞性黄斑浮腫(約25%)

ERG

フラッシュERGでの振幅の消失や、著しい低下

治療

プロトコールは確立されていない

癌を治療しても直接の治療にはならないが、循環抗体量が減る可能性がある

  • ステロイド全身投与(内服・点滴)、IVTA、STTAなど
  • 免疫抑制薬
  • IVIG(静脈内免疫グロブリン)療法・血漿交換(神経変性発症前であれば)

合併症

  • CNV
  • 黄斑浮腫
  • 二次性視神経萎縮

など

鑑別

  • 網膜色素変性
  • 自己免疫性網膜症
  • 悪性黒色腫関連網膜症(MAR)
  • AZOOR他、白点症候群
  • 錐体ジストロフィ
  • 薬剤性視神経症
  • レーベル遺伝性視神経症
  • 栄養障害性視神経症
  • CSC
  • 腫瘍随伴視神経障害(PON)

など

まとめ

  • 癌細胞による直接の関与ではなく自己免疫性機序による網膜(視細胞)障害
  • 肺小細胞癌と、抗リカバリン抗体が有名
  • 視細胞が障害され、フラッシュERGの振幅の消失や著しい低下をきたす
  • 重症例では著しい視力低下をきたす
  • 癌の発見に先行して眼症状を認めることもある(全身検査、他科との協力が必要)
  • 診断基準や治療法は確立されていない

高齢者の原因不明の急性進行性の視力低下、網膜障害を認めた場合は鑑別の一つになる疾患ですね。

・眼科学 第三版
・後眼部アトラス
・Dheerendra Singh, Cancer Associated Retinopathy: StatPearls Publishing; 2022 Jan.

コメント

コメントする

目次