「ボリュームサージャン」と検索すると、だいたい眼科関連のページがでてきます。英語では、volume surgeronです。
- ボリュームサージャンの意味、定義
- ボリュームサージャンってすごい?
など書いていきます。
ボリュームサージャンの意味
Google検索のAIによると「ボリュームサージャン」は、
ボリュームサージャンとは、白内障手術を数多く行う医師を指します。
また、手術症例数の多い外科医を意味する英語表現として「high-volume surgeon」があります。
とのことです。英語(volume surgeon)で検索してみると、
Volume surgeonとは、手術症例数が多い外科医を指します。手術症例数が多い病院はHigh Volume Hospitalと呼ばれます。
手術症例数と病院や外科医の関連性に関する研究には、次のようなものがあります。
- 低ボリュームの外科医が手術した患者の割合が高いほど、病院の質が低いという研究結果がある。
- 大動脈解離の患者における病院や外科医のボリュームと手術死亡率には逆の関係があるという研究結果がある。
- 膝前十字靭帯再建術におけるHigh Volume SurgeonとLow Volume Surgeonの手術時間に関する研究がある。
とでてきました。
たくさん手術をしている医師(外科医)のことを表し、特に日本においては白内障手術をたくさん行っている眼科医のことを表すことが多いようです。
今回は眼科における白内障ボリュームサージャンについて考えていきます。
ボリュームサージャンの定義
ボリュームサージャンは、手術件数が多い外科医のことを指す言葉です。
具体的に「手術件数が何件」という決まり、定義はありません。
しかしパッと検索して出てきた情報によると、眼科白内障ボリュームサージャンに関しては、白内障手術件数が年間500件以上だったり、1000件以上だったり、1日の手術件数が10件以上、数十件など、さまざまでした。
手術件数年間1000件を考えてみます。365日は52週間、つまり1週間あたり約20人手術すれば、年間1000件に達します。年末年始やお盆休み、その他の休みなども考慮すると、平均して20~25人/週手術でしょうか。
手術する日を週1日にしてまとめて20人手術するやり方もあるでしょうし、手術日を週2日にして1日あたり10人手術するやり方もあるでしょうし、平日ほぼ毎日4-5人手術するというやり方もあるでしょう。
いずれにしても、1人で年間1000件の手術をしていたら、結構やっている方だとは思います。とはいえ、年間2000件やっている人、3000件やっている人、後に述べますが1万件やっていた人もいるので、それらと比較すると、1000件は大したことがないようにも見えてしまいます。
また、ボリュームサージャンの意味・定義としては「手術件数の多い医師」を指しますが、そのような肩書として実際に期待されるのは、「難しい手術もできる医師」「合併症が起こっても対処できる医師」であり、実力が求められます。
ボリュームサージャンはすごいのか?
手術をしている件数だけを考えると、すごいです。
先ほども言いましたが、年間1000件手術しているだけでも、手術件数としては結構やっている方だと思います。
しかし実際に手術にかける時間だけで考えると、白内障手術の平均時間を10分として(ボリュームサージャンはもっと早い時間で手術していることがほとんどだと思いますが)、1週間20件にかかる手術時間は200分で、3-4時間に過ぎません。1週間の労働時間のうち、というか1日の労働時間内で完結してしまいますね。
ただし実際には手術時間だけでなく、手術する前の患者さんの移動や消毒など準備の時間もかかります。準備にかかる時間が5分だとすると手術時間と合わせて300分(5時間)、10分かかるとすると手術時間と合わせて400分(6-7時間)かかることになります。まぁこれでも1日で終わる時間ではあります。しかし大きな病院などでは患者さんの入れ替えにもっと時間がかかるところも多々あります。
また、手術以外にも、手術前の検査、手術の説明、手術後の診察など、手術関連の時間は多くかかります。これをどこまで自分で行うのか、他の人にやってもらうのかで、その人の忙しさは大きく変わります。
たとえば、自分は手術はするけどその前後の診療は一切しない、他の医師に任せるという場合、先程述べた20件という手術件数は大したことはないと思いますし、それは別に全然すごいことだとは思いません。なぜなら、先に述べたように、白内障手術を5-10分で終わらせることができる人で、環境が整っていれば週に20件の手術は「時間的には」難なくできるからです。
とはいえ、たくさんの手術をするサージャンには、簡単な症例から難しい症例まで、自分ひとりで行う実力が求められます。仮に手術中に合併症を起こした場合も、可能な限りその対処を行える実力も必要です(必ずしも全員がそうとは限りませんが)。したがって、ボリュームサージャンは技術的に手術が上手な方が多いと思います。
(簡単な手術症例だけ選んでたくさん手術をして、件数的に自分のことを「ボリュームサージャン」と言っている医師がいたら、いたたまれない気持ちになりますよね)
ボリュームサージャンになるためには
ボリュームサージャンは手術件数が多い医師のことです。実際には、たくさん手術をしているのは結果であって、そのために求められるのは「難しい手術もできる医師」「合併症が起こっても対処できる医師」というように実力のある医師です。
ただし意味としては手術件数が多い(だけ)のことですので、たくさん手術をするための方法・案を記載します。
- 短い手術時間で手術できる技術をつける
- 短時間で多くの手術ができるシステムをつくる
- 患者数を増やすための集客(集患)と、実績をつくる
- なるべく重症な白内障はやらない
短い手術時間で手術できる技術をつける
手術時間は短いほうが、より多くの患者さんの手術をすることができます。白内障手術に10分かかるより、5分でできるほうが、手術時間で考えると2倍多く手術することができます。
したがって、まず第一に自身の手術技術を上げることです。
短時間で多くの手術ができるシステムをつくる
手術患者さんの入れ替えを早くすることが大事です。次の患者さんの手術にうつるまでに10分かかるのと、5分かかるのと、2分半かかるのでは、それぞれ入れ替えにかかる時間が2分の1ずつ短縮され、その分より多くの患者さんの手術をすることができます。
そのための人員配置含め、手術中のみならず手術に関わる全体的なシステムづくりが必要になります。
患者数を増やすための集客(集患)と、実績をつくる
たくさん手術できる状態が整っていても、そもそも手術になる患者数が少なければ、多く手術することはできません。
患者数を増やすためにはネット上にいろいろ載っているので参考にしていただければよいですが、手術をするような患者さんの数を増やすには、執刀医の実績も大切になってきます。
実力ない医師のもとへ手術のために患者さんを紹介するでしょうか?普通はしません。無事手術を終えて帰ってきてほしいので、手術は実力のある医師・実績がある医師へお願いしたいと思うのが普通です。
なるべく重症な白内障はやらない
これはボリュームサージャンの人たちが重症な白内障手術ができるのかできないのか、ということではなく、単純に手術件数・手術回転率のためには、難しい時間のかかる白内障手術はやらないほうが多くの人数を手術できる、ということです。さらに言えば合併症発症率を下げるという意味でも、同様です。
現実には、たくさん手術をしている人はそれだけ重症例に遭遇すること多くなるし、合併症を経験する回数も多くなるため、重症例も対応できることが多いとは思いますが、なかには「症例を選んで」たくさんやっている人もいると思います。
日本一のボリュームサージャンの手術件数
「白内障手術 ギネスブック」などと検索すると出てきますが、過去年間1万件程度手術している医師がいます。
年間手術件数1万件というのは、単純計算して、10000 / 365 = 27.3となり、毎日30人弱を365日手術することが必要であり、到底信じられない、すごすぎる人数です。1週間あたりに換算すると、約200人です。
1週間あたり200人を、週6手術するとして計算すると約33人/日、週5で手術するとすると約40人/日、週4で手術すると約50人/日、週5で手術すると約40人/日となり、いずれにしてもとんでもない人数です。
どんなやり方をしていたかは知りませんが、平日週5で1日40人手術していたとしましょう。手術・入れ替え含めて6分で行ったとしても、240分(6時間)かかります。平日のみ働いていた場合、勤務時間のうちのほとんどが手術であり、休憩時間等含めると、術前後のフォロー・検査結果の確認等までは到底手がまわらないと思います。
仮に術前後のフォロー・検査結果の確認等をしていないとしても、平日毎日40件の手術はとんでもない人数です。到底真似はできないと思います。(ギネス記録ですからね)
1人でできる件数は全体の何%なのか
年間1万件の手術件数は、さすがにすごすぎます。
日本において白内障手術は年間100万件以上行われています。1万件という手術件数は、日本全国の白内障手術件数の1%弱を占めることになります。
日本に眼科医は1万数千人います。眼科医全員が白内障手術をしているわけではありませんが、単純に計算すると、眼科医1人が年間100件手術すると100万件に到達します。年間100件というのは週に2件手術することで足ります。
年間1万件の手術件数は、平均化した1人あたりの手術件数(100件)の100倍手術していることになり、とんでもない人数だということがわかります。一方で、1人でおこなった1万件の手術は、全国の眼科医が1年間に1人多く手術することだけで、埋めることができます。
要するに何が言いたいかというと、
- たくさん手術している人はすごいし、すばらしいこと
- 一方で、より多くの医師が安全に手術できるように育てることも、とても大切
ということです。自分の実績だけを考えると、たくさん手術したほうがよいでしょう。たしかにある程度実績があって有名にならないと、たくさんの人に技術を伝えることは難しいかもしれません。
とはいえ、身近なところからでも、後輩医師に自身の知り得た知識・技術をどんどん伝えていくことは、とても大切なことだと思います。中堅以上の年代の医師になっても、後輩の経験・機会を奪って手術し続けている「だけ」の医師は、よくないですよね。
まとめ
- ボリュームサージャンはたくさん手術をしている医者のこと
- 具体的な執刀人数などの決まりはないが、それなりにやっている人を指す
- たくさん手術して治療することはすばらしいことだが、一人でできる件数には限度がある
- 自分の知識・技術を共有、教育にあてることはとても大事
ボリュームサージャン、たまに聞く言葉ではありますが、具体的な決まりはありません。あいまいだけど「手術をたくさんやっている人」ということです。
あいまいな言葉ではありますが、少なくとも手術が下手なのにたくさん手術している医師は多くはないと思うので、手術件数はある程度は手術技術・実力と関係していると思います。
そして、たくさん手術をして治療することは素晴らしいことですが、社会貢献という意味では、1人でも多く手術できる医師を育てる方が、よっぽど社会のためにはなります。
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