主に加齢黄斑変性などに対する硝子体注射の、投与間隔についての基本的内容です。
PRN、TAEなどは眼科においてはほぼ硝子体注射の投与間隔を表す言葉として使われます。
基本事項なので若手専修医向けです。
治療における基本的戦略
何でこんないろんな方法があるのかというと、理由は非常にシンプルで
- 患者の通院間隔は延ばせるなら延ばしたい
- 病状が悪化している期間を短くしたい
ということを目標にして、いろいろ検討しているからです。
患者の通院間隔は延ばせるなら延ばしたい
通院頻度が増えることは、
- 患者の負担
- 診察・検査する医療者側の負担
- 医療費の増大
につながります。減らせるなら減らしたほうがよいです。
病状が悪化している期間を短くしたい
病状が悪化している期間が長いと
- 本人は見にくい期間を過ごしているということ
- 障害が進んでしまう可能性があること
- 治療後も障害が残り後遺症となる可能性があること
などのよくないことがあります。
硝子体注射の多くは網膜への治療です。網膜は障害されると後遺症を残すことがあります。
網膜の状態が悪くない(病気の所見がない・少ない)状況を維持することが大事になってきます。
したがって、視機能を悪化させない中で通院間隔を減らす方法が、費用対効果を含めて効率がよいわけですね。
それを模索する上での様々な方法が試されているのです。
PRN
pro re nataの略です。
意味は、
〈ラテン語〉必要になったら(薬を)、必要であれば、必要なときに、必要に応じて、
ICHACHA.NET WEB DICTIONARY 英和辞典
というように、必要なときに注射を打つことを言います。
必要なときとは、「病状の所見があるとき」「病状が悪化しているとき」になります。
悪化したときにすぐに治療ができるようにたくさんチェックするため、患者さんは高頻度に通院しなくてはなりません。
そのかわりに、悪化していないときには治療はしない(注射は打たない)ので、治療回数自体は少なくなります。
さらにいうと、悪化したときに初めて治療をするので、治療する際には「必ず悪化しています」。どういうことかというと、「一度悪くなって初めて治療する」ということなので、視機能的には後遺症を残しやすくなる可能性があります。
基本的には毎月通院です。
PRN
- 通院頻度が多くなる
- 注射回数は減る
TAE
treat and extendの略です。
意味はそのまま、「治療して間隔を延ばす」です。
「治療して」「間隔を延ばす」ので、基本的に必ず「治療」します。
前回からの治療期間を参照して、たとえば2カ月前に注射の治療をしたとします。
2カ月後に来たときに、
「病状の所見がないとき」「病状が改善しているとき」
→注射します
その上で、前回の治療で2カ月間の維持できたので、次回は通院間隔を2カ月よりも長くする(期間を延ばす)
という方法です。(1か月延ばしたり、2週間で延ばしたり、いろいろ)
2カ月後に来たときに
「病状の所見があるとき」「病状が悪化しているとき」
→注射します
その上で、前回の治療で2カ月では維持できなかったので、次回は通院間隔を2カ月より短くする(期間を短くする)
という方法でもあります。(1か月短くしたり、2週間短くしたり、いろいろ)
shorten(短縮する)の場合もあるということです。treat and extend/shorten という感じですね。
TAEでは投与間隔を延ばしながら注射するやり方ですが、間隔は少しずつ延ばすこと、来たときは必ず注射するので
TAE
- 通院回数は減る
- 注射回数は増える
というふうになります。
また、前回から悪化所見がなくても「注射をして」投与間隔を延ばす方法のため、予防投与的な意味もあり、網膜の所見を悪化させないままフォローしていくという意味で、PRNとも異なります。
固定投与
言葉の通り、投与間隔を固定して、通院&投与を行う方法です。
間隔は2カ月だったり、いろいろ。
固定しているので、通院回数も投与回数も決まっています。
2カ月固定投与なら、年6回来て6回注射をするわけですね。
固定投与
- 投与回数は固定
- 注射回数も固定
- シンプルである一方
- 病状に応じて変化できない
という感じです。
その他の方法
3+PRN、3+TAEなど
加齢黄斑変性などでは、初期治療は3か月間は毎月連続投与(計3回)することも多いです。
その場合は、3+PRNや、3+TAEという記載になります。
一方、1回の投与で改善する例も多くある疾患などでは、1+PRNなどとして、1回投与後はしばらく毎月フォローして再発していたら投与するパターンもあります。
再発を繰り返して長期間投与している人
このような場合は、だいたい投与間隔が決まっています。3か月ごとに再発する人という感じです。
そのようなときは、毎月診察しても最初の2カ月はほぼ再燃しないので、来るだけ無駄なことがほとんどです。
従って、TAEで3か月前後で微調節しながら投与するか、3か月で固定投与とするか、という方針になります。
modified TAEなど
施設によっては更に上記方法を改良して、独自のTAE法やPRN法などでフォローしていたりします。有名なワードではmodified TAEなどでしょうか。
詳細は対応する報告をご確認してください。
どの方法がよいのか
それぞれメリットデメリットがあるので、患者側の意向や施設側の意向で好まれる方法は変わってきます。
どの方法が好まれて使われているかも、よく学会などでアンケートを取られていたりしますが、開業医なのか、市中病院なのか、大学病院なのかなどによって、好まれる方法が異なったように思います。国によっても違ったと思います。
- 患者数が多すぎて忙しいようなところでは、毎月checkしていくと患者人数がパンクしてしまうのでTAEが
- できるだけちょこちょこ来てもらって、念入りに診察したいようなところでは、PRNが
という感じです。
またTAEのよいところは、再発していなくても投与しつつフォロー間隔を延ばしていくので、注射回数こそ多くなれど網膜障害がでない状況を維持できる点にありますね。(勿論延ばして再燃するケースも多々ありますが)
個人的には
- TAEをしつつ、悪化していたら注射をして、間隔を短くする
は決まりきっているのですが(本人が拒否しない限り)
所見が乏しいとき(悪化所見がないとき)にどうするかは、以下の2点を説明の上でできるだけ毎回患者さんの意見を尊重します。
- 注射をして、通院間隔を延ばすか
→より網膜が痛まない期間が維持できる - 注射しないで、次回早めにチェックに来てもらうか
→注射の回数は減るがその間に悪化する可能性がある
できるだけ注射をしたくない人もいれば、できるだけ通院頻度を減らしたい人もいます。
注射したくない人には②の方針にし、通院頻度を減らしたい人には①の方針、という感じですね。
もちろん疾患や病勢によって変わってきますけれど。
まとめ
- PRNは通院多く、注射少ない
- TAEは通院少なく、注射多い
- 固定投与は通院も注射も固定
患者が研究対象などでない限り、
手間でなければ「適宜組み合わせて治療していく」でよいかと思います。
逆に大人数を診る人では、TAEがよいのではないでしょうか。
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