水晶体の発生、解剖、機能・生理・代謝などについて。
目次
水晶体の発生
- 水晶体は表皮外胚葉由来
- 胎生4週、眼胞が表皮外胚葉に作用し水晶体板を誘導する
- 胎生5週、水晶体板は表皮外胚葉から分離し水晶体胞となる
- その後、水晶体内に水晶体線維が追加されていく(一次水晶体線維、二次水晶体線維、胚核、胎生核など)
- 胎生9カ月、硝子体動脈が退縮し水晶体血管膜が消失する(不完全消失だと瞳孔膜遺残となる)
- その後は前房水や硝子体液から栄養される
水晶体の解剖
- 直径約9mm、厚み約5mm、重量約250mg(成人)
- 生下時は直径約6mm、厚み3.5mm、重量約90mg
- 加齢で大きく、重く、硬くなる
- 無調節時の水晶体屈折率は約20D(眼球全体+60Dの約1/3を占める)
- 調節力は青年期約15D、40歳代で約4~8D、50歳代で2D以下
- 無調節時の曲率半径は前面約10mm、後面約6mm
- 調節時は前面約6mm、後面約5mm(前面が急峻化する)
- 屈折率は約1.36(皮質)~1.4(核)
水晶体嚢
- 水晶体上皮細胞から産生される水晶体上皮の基底膜
- 水晶体全体を包んでいる膜
- Ⅳ型コラーゲンから成る
- 水晶体嚢は生体内で一番厚い基底膜
- 厚みは前嚢(前極)約15µm(加齢により厚くなる)、赤道部周囲約22µm、後嚢(後極)約5µm
水晶体上皮細胞
- 前嚢(前極)~赤道部の水晶体嚢の内側に存在する一層の立方上皮
- 前極ではやや扁平な長方形、赤道部では立方体から六角柱状となる
- 前赤道部の増殖帯で分裂増殖し、弓状帯(水晶体内部方向)へ移動する
- 伸展し水晶体内部へ押し出され脱核、細胞内小器官が消失し、水晶体線維となる
水晶体線維
- 上皮細胞が伸展され内部へ押し出されたもの
- 脱核、細胞内小器官は消失し、線維となる
- 木の年輪のように、内部ほど古い線維となる
- 進行すると内部のほうから硬化し、核白内障となる
- 周辺部の皮質やepi-nuclearも、すべて水晶体線維から形成
水晶体の神経
- 神経は存在しない
水晶体の機能
- 透明性の維持(光の透過)
- 光の屈折(集光)(約20D)
- 紫外線の吸収(波長350nm)
- 輻輳反応による調節(0D~15D:年齢による)
水晶体の代謝
- 血管は存在せず、房水を用いて水晶体上皮細胞が代謝を担う
- 質量の約1/3が蛋白質(水溶性と不溶性)、2/3は水分
- 若年者の水晶体の約80%は水溶性蛋白(加齢に伴い不溶性が増える)
- 蛋白質の主成分は、α、β、γクリスタリン
- αクリスタリンは変性したβ、γクリスタリンを修復する(シャペロン機能)
- β、γクリスタリンは透明性の維持、屈折率を高める働き
- 酸化ストレスにより水溶性蛋白が変性し、不溶性蛋白質が増える(→白内障)
- 還元型グルタチオン→酸化グルタチオンの酸化還元反応でフリーラジカルを除去している
- アスコルビン酸も抗酸化物質
- 糖代謝によって必要なATPが生成される
- 通常の糖代謝ではグルコース→(ヘキソキナーゼ活性)→グルコース6リン酸
- 高血糖下ではヘキソキナーゼが飽和しグルコース→(アルドース還元酵素)→ソルビトール・フルクトース
- ソルビトール・フルクトースは高浸透圧性物質
水晶体は低酸素の環境により酸化ストレスの影響が少ないとされる。高濃度酸素療法や、硝子体術後などに、硝子体や房水内の酸素分圧が上昇することにより、核白内障が進行するとされる。強度近視では眼軸が長いことから硝子体体積が大きいこと、PVDを早期に生じることから酸素分圧が上昇、酸化ストレスにより核白内障の進行が早いとされる。
加齢による変化
・αクリスタリン↓、β/γクリスタリン↑
・水溶性蛋白↓、不溶性蛋白↑
・還元型グルタチオン↓、酸化型グルタチオン↑、酸素(活性酸素)↑
・アスコルビン酸↓
・K↓、Na↑、Ca↑
・ATP↓(ATPは糖代謝によって生成される)
糖尿病、高血糖による変化
・高血糖によりヘキソキナーゼ活性の経路が飽和する
・アルドース還元酵素経路の反応↑、ソルビトール↑
・ソルビトール、フルクトースによる浸透圧増大による水分↑で白内障進行
コメント