輪状締結(encircling、エンサークリング)は、主に網膜剥離の中の重症例に対して行う術式で、硝子体手術と併用で行うことが多いです。輪状締結では、眼球にバンドを巻き付けることで眼球を凹まし(内陥させ)、網膜裂孔の閉鎖および網膜にかかる牽引の向きを変えることで網膜の復位効果をもたらすとされます。
今回は、「エンサークリングをどれくらい締めると、どのくらい内陥するのか」という点を、幾何学的な観点から説明します。先に結論を記載しておきます。
- エンサークリングを10mm分締めると、1.6mm程度内陥する
- エンサークリングを12.5mm分締めると、2mm程度内陥する
実際の内陥量はこれより小さくなりますが、概算としての目安になります。
円周と半径の関係
この関係を理解するためによく知られている例として、「地球に巻いたヒモ」の問題があります。
地球一周(約40000km)にぴったりと巻き付けたヒモを考えます。このヒモを1mだけ長くして円形に巻き直すと、ヒモは地上からどれくらい浮くでしょうか?直感的には「ほとんど変わらない」と感じる人が多いですが、実際はそうではありません。
以下の図、式で説明されます。

つまり、ヒモを1m長くした場合、ΔR= 1/2πとなり、約0.16m、すなわち16cmとなります。約4万kmもの距離のある地球1周に巻いたヒモを1m長くして巻き付け直すと、地上から16cm浮いた形で巻くことになる、ということです。
そんなに浮くんだ、という印象ですが、最終的な式にはRが含まれていないので、
- 地球
- サッカーボール
- ゴルフボール
どの球体でも、円周を1m長くすると半径は16cm増えるという結果になります。逆に円周を1m短くすると半径は16cm小さくなります。
上記をまとめて数式で記載すると、円周がΔC変化すると半径がΔR変化する式として以下が成り立ちます。
- ΔC=2πΔR
- ΔR=ΔC/2π
輪状締結への応用
この関係を輪状締結に当てはめると
- ΔC=2πΔR
- ΔR=ΔC/2π
より、2π= 6.28として、
- 10mm締める→約1.6mm半径減少
- 12.5mm締める→約2mm半径減少
となります。ただしこれは理想的な幾何学計算であり、実際の眼球ではこの通りにはなりません。理由は主に2つあり、
- バンド自体の伸展
- 強膜の弾性
が関与します。例えば、
鉄球にゴムバンドを巻いて締める場合
→鉄球は変形せず、バンドが伸びるだけ
マシュマロのように柔らかい球体に硬いヒモを巻く場合
→球体がそのまま変形する
というように、巻く物体と巻かれる側の物体の剛性で変化します。
眼球にエンサークリングバンドを巻く場合には、バンドの伸び、強膜の弾性の両方が関与するため、計算上の内陥量より小さくなります。
手術手技としての内陥量
輪状締結において「何mm内陥させるべきか」という明確な基準はありません。
一般的には、眼底を見て十分な陥凹が確認できること、網膜裂孔部を支持していること、などを目安に判断されます。内陥が弱すぎると効果は不十分になりますが、一方で締めすぎると前眼部虚血などの合併症が起こる可能性があるため注意が必要です。
まとめ
- エンサークリングを10mm締める→1.6mm以下の内陥
- エンサークリングを12.5mm締める→2mm以下の内陥
実際の内陥量は、バンドの弾性、強膜の弾性によって、これより小さくなります。
輪状締結は経験的に行われることが多い手技ですが、この円周と半径の関係を理解しておくと、「どれくらい締めるとどれくらい内陥するのか」というイメージを持つことができますね。

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