手術難易度の基準は何か?という点に関して考えてみます。
- 手術時間が長ければ難しいのか?
- 手術によるリスクが高いと難しいのか?
- はたまた、手術費用が高いものが難しいのか?
それ以外にもいろいろと考えがあると思いますが、個人的に考えたものを書いていきます。
手術難易度を記載している科もある
「手術 難易度」などで検査してみると、消化器外科学会の「手術難易度区分(2008年までの審査申請に適用)」というページに到達しました。
そこには、低難易度手術・中難易度手術・高難易度手術というくくりに、術式がたくさん記載されており、手術難易度について非常に綺麗にまとまっていました。
眼科においては手術難易度を示すようなページは見当たりませんが、網膜硝子体手術(網膜剥離などの手術)が難しい手術として認知されているのか、そのような記載のページはいくらか散見されました。
手術手技の上達と難易度
手術操作というのは、基本的には繰り返しの操作で慣れていくことでうまくなっていきます。もちろん、そこに論理的な考え、物理学的な視点で理解することで、手術操作はより精巧に磨き上げられていきます。
患者さん一人ひとりの手術臓器の状態は個々で異なっていますが、その異なりの程度が小さいものは、基本手技を十分に経験していれば、なんてことはなく取り掛かることができるようになっていきます。つまり、徐々に、それほど焦らず、難しいとは感じなくなっていきます。
一方、状態が大きく異なるようなもの、事故などによる外傷(怪我)では、損傷具合は様々であり、基本となる術式はわかってはいても、そこからどのように手術するか、発展した考えが必要になってきます。
手術の難易度の基準としての要素
では、これらの「手術難易度」というものは、何を基準として定められているのでしょうか?
もちろん先ほど紹介した消化器外科学会のページでは、公表しているからには基準はあると思われます。
自身で思い浮かんだ要素としては、以下のようなものがあります。
- 手術手技の習得にかかる時間
- 手術時間の長さ
- 手術に伴うリスクの大きさ
- 手術をすることができる医師の人数
- 手術点数(診療報酬による金額)
それぞれについて考察してみます。
手術手技の習得にかかる時間
手術手技の習得にかかる時間は手術難易度に関係する一つの要素だと思います。
手術できる医者の人数にも関係してくる話ですが、手術経験がたくさんできる手術は、上達しやすいです。手術がたくさんできるので、手術できる医者の人数も多くなりやすいです。
月に1件しかできない手術では、上達するまでにどれだけ時間がかかるでしょうか?
動画や本で論理的なことを学んでいても、月に1度しか実践しなかったら、なかなか上達はしにくいことは明白です。(スポーツや車の運転などを考えれば明らかですね)
結局、実際に経験した分だけ上達するスピードは早くなりやすいです。これは「手術」が「動作」を伴う治療であるため、慣れもある程度必要だからです。
もちろん、ただ数をこなせばよいと言っているわけではありませんし、手術手技の習得にかかる時間には個人差があります。とはいえ、総じて経験できる機会が多い手術は上達しやすく、手術できる医者も多くなる傾向にはあると思います。
「上達しやすい手術」「若いうちからできるようになる手術」と考えると、それは特別難易度が高いものではない、とは思います。
手術時間の長さ
手術時間は手術難易度に関与する一つの要素である可能性があります。
短い時間の手術=簡単な手術、ということを言っているのではありません。
同じ手術でも、上手な医者が行えば短く終わる手術も、初心者がやれば長い時間がかかります。ものすごい技術のある医者が難しい手術を短い時間で終えたとしても、それは手術難易度が低い手術だから、ということにはなりませんよね。
とはいえ、ずっと同じレベルで繊細な操作が必要な手術において、手術時間が短いものと、長いものでは、長い方が大変であることは明らかでしょう。手術時間が長く集中力を持続させなくてはならない手術、と考えると、手術時間は難易度に関与している部分もあります。
一方、以下の述べる要素もあるため、手術時間が短いという理由だけでは簡単な手術とは言えないと思います。
手術に伴うリスクの大きさ
手術にはリスクがつきものです。手術によって病状をより悪化させることもあります。もちろん、合併症としてどうしようもないこともありますが、技術がある人とない人で言えば、ない人の方が合併症を生じさせやすいです。そうならないように、術者は努力し、手術後の反省をし、こういったことを繰り返して技術を向上させていきます。
さて、その手術によって病状が悪くなってしまった際(合併症を起こしてしまった際)に、身体への影響が大きいものは、ハイリスクな手術と言えるでしょう。
ハイリスクな手術に、何の手術も経験したことがない初心者がいきなり望むでしょうか?手術をさせてもらえるでしょうかか?
教育者によっては「経験が大事」ということで積極的にさせることもあるかもしれないが、「リスクが大きい手術」=「患者に実害がでやすい手術」であるのだから、まずは低リスクな手術から経験させるのが一般的です。
手術によるリスクが大きい手術に対しては、より繊細で丁寧で早い手術が必要です。それが簡単な手術か難しい手術か、と言われたら、難しい手術となるでしょう。
そう考えると、ハイリスクな手術というのは、難易度の高い手術と言えます。
手術をすることができる医者の人数
その手術をできる医者が少ない手術は、難しい手術である可能性があります。ただしこれはイコールではありません。その領域まで到達できる医者が少ない場合は手術難易度が高いと言えるかもしれませんが、以下のような場合もあります。
1.患者数がそもそも少ない
患者数が少ない手術は、そもそも手術ができる医者がたくさんいる必要がないため、難易度とは関係がない可能性があります。
2.その領域の医者がそもそも少ない
その領域の医者の人数がそもそも少なければ(人気がない分野など)、その手術をする医者の人数は少ないので、必ずしも難易度とは関係がない可能性があります。
したがってその手術を行える医者が少ないという理由は、難易度に関係する部分もあるが必ずしもそうではない可能性があります。
手術点数
保険診療で受けられる手術の費用は、国が定めていおり、手術ごとに、いくらと決まっています。
手術点数はある程度は難易度とも関係しています。例えば眼科領域の網膜硝子体手術に関して言えば、3万点弱のものから7万点弱のものまであります。(厳密にはもう少し安い手術もある)これらはコストが高い手術ほど、より手術操作が煩雑になり、重症疾患が含まれ、疾患が限定されていきます。
しかし手術点数の改定があるように、それによる医療費や様々な観点から手術点数は見直され修正されます。また、違う領域・違う科の手術と比較するにあたって、手術費用だけで難易度を判断することはできません。
したがって、手術点数は難易度にも関与するが、難易度だけで決まっているわけではないということになります。
まとめ
手術の難易度の要素について考えてみました。
- 手術手技の習得にかかる時間→関係あり
- 手術時間の長さ→関係あり
- 手術に伴うリスクの大きさ→関係あり
- 手術できる医者の人数→関係あるかもしれない
- 手術費用→関係あるかもしれない
他にも要素はあると思いますが、こういった要素からある程度の難易度は予測できるかもしれません。
しかし同じ手術においても、難易度の難しいもの、簡単なものもあるので、一概には言えないことも確かです。
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