網膜中心動脈閉塞症 レビューを踏まえた原因・症状・治療

網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion: CRAO)について。

眼科における緊急疾患ですが、確立された治療法はなく、視力予後も厳しいことが多い疾患です。

レビューも交えてまとめます。

目次

概要・病態

網膜中心動脈の閉塞(塞栓性、攣縮性、動脈炎性など)により、以降の栄養されている網膜が虚血になり不可逆的な重篤な視機能障害を残す血管閉塞性性疾患。中心動脈以降の分枝先で閉塞すれば網膜動脈分枝閉塞症(branch retinal artery occlusion: BRAO)となる。

基礎疾患に動脈硬化性疾患(糖尿病、高血圧など)、塞栓性疾患(心房細動などの心疾患)を有する高齢者に発症することが多い。明け方に目を覚ますときに気付くことが多い。稀に若年者にも生じるが、その際は血栓性疾患などの有無をよく調べる。

治療プロトコールは存在しない。その理由は、稀な疾患であり大規模データ収集が困難、有効性が不明であるさまざまな治療法を組み合わせて治療されるが多い、今まで多くの研究で有益な成果を示せてこれなかった、完全CRAOと不完全CAROが含まれている、などがある。

網膜血管は終動脈(多部位からの吻合・栄養がない)であるため、完全閉塞が起こると神経節細胞は約15分以内に不可逆的に障害される。しかし完全ではない(少しのすき間などから血流がある)場合は、その限りではない。(発症後240分程度たつと不可逆的な変化が生じる、動物実験では100分程度で障害、発症1-2日は治療を望むべき、などコメントはさまざま)

原因

塞栓子、血管攣縮、動脈炎により網膜中心動脈が閉塞することで生じる。

分類

  1. 動脈炎性(A-CRAO)
  2. 非動脈炎性(NA-CRAO)
    ・完全、不完全、毛様網膜動脈存在例(塞栓性)
    ・一過性(攣縮性など)

ほとんどの場合、非動脈炎性で塞栓性(コレステロール塞栓75%、カルシウム塞栓10%、血栓15%)である。

重症高血圧などによる攣縮性や、大量出血や透析時などの低血圧性に生じることが稀にある。

動脈炎性も稀だが巨細胞性動脈炎の有無を確認する。(のちに反対眼にも生じるため)

毛様網膜動脈がある例では、黄斑が障害されないため予後がよい(※短後毛様動脈から分岐し乳頭黄斑線維付近を栄養する、30%程度に存在)

症状

片眼性の無痛性の急性視力低下(ほぼ全例で0.1以下、指数弁以下が大部分)

分類によって視機能への影響は異なり(一過性と毛様網膜動脈存在例は他と比較して予後良好)、治療せずとも視力と視野に有意な改善が見られたとの報告もあり

所見・診断

前眼部

患眼の対光反射の減弱、RAPD陽性

眼底

中心窩以外の網膜の白色浮腫(cherry-red spot:桜実紅斑)

網膜動脈狭窄所見

OCT

虚血による網膜内層の肥厚と高反射(白色)

フルオロセイン蛍光眼底造影

血管の閉塞具合を確認するのには必須

急性期ではNA-CRAOのほとんどの例で充盈遅延がある。充盈が完全欠如している例は少ない。

後期ではある程度の充盈が得られることがあるが、これはCRAが完全に閉塞していない、という訳ではないらしい。(となると完全閉塞と不完全閉塞の判断はどうするのか?)

ERG

α波正常、β波陰性

結果は知っていても、行う必要はない検査

治療・予後

有効性が示された治療は存在しない

さまざまな方法が試みられている。

眼圧の下降

網膜中心動脈(CRA)への灌流を増やす目的で行われる。眼内圧の低下により相対的に灌流圧が上昇する。部分的な閉塞部位の流れが増加し、CRA塞栓や血栓を遠位に飛ばす。

前房穿刺

眼圧下降に即時的であるが、前房出血、眼内炎など他の合併症のリスクがある

薬剤療法

マンニトール+アセタゾラミド点滴や、アセトゾラミド内服、点眼薬(PG、β遮断、CAI、α2刺激など)

眼球マッサージ

眼内圧の変化させることにより圧迫解除時に上記眼圧下降と同様の効果を期待する。また圧変化により塞栓の断片化、除去を図る。効果は不明。簡便にできる。やり方は、5~10分間、1分間に100回の速度で圧迫と解除を繰り返すとの文献あり。

血管拡張薬

CRAを拡張させることにより灌流圧の増加、塞栓子の遠位への移動を期待する。有効性は示されていない

血栓溶解療法

虚血性脳疾患のようなプロトコールはない。脳出血などの深刻な合併症あり。エビデンスなし。

その他

  • ペーパーバック再呼吸法(二酸化炭素分圧を上げても網膜血管の拡張を図る)
  • 高濃度酸素療法(血中酸素濃度を増加させて酸素を送る。脈絡膜から酸素を供給することを試みている。酸素で血管自体は収縮するため効果は不明)
  • 血液希釈(血液粘稠度を下げ血流増大を図る。希釈された分酸素濃度が減り逆効果)
  • 抗血小板薬(血小板凝集による血栓の予防。動脈血栓に用いる。急性期脳梗塞での治療はグレードAだが、CRAOでは不明。しかし推奨はされているよう。)
  • 抗凝固薬(血流うっ滞による血栓の予防。静脈血栓、心房に用いる。効果は示されていない)
  • 硝子体手術(硝子体手術+網膜血管内tPAを使用する報告あり)

など。

予後

閉塞範囲に不可逆的な視機能障害を残す。周辺視野は保たれるか、改善傾向を示すことがある。梗塞範囲も時間が経つと網膜浮腫は改善するため、多少の変化はある。

血管新生緑内障への関与は不明。(関与するという文献、関与しないという文献あり。2~20%程度に生じる。2%ならほぼ関係ないと考えてよいし、20%ならだいぶ関係あると受け止められると思う)

原理的には、慢性虚血ではなく急性虚血で網膜は壊死するため、VEGFが大量に産生されることは少ないと思われる。

個人的にはNVGが出た場合はそもそもの動脈硬化性・虚血性変化が影響しているのではないかと思う。NVGになった場合はPRPが必要。

重要なこと

  • 予後が非常に悪いことを強く説明(脳梗塞と同じことが目で起こった、後遺症が残る)
  • 現段階では有効性の確立した治療はない
  • 受診が早いタイミングだった場合、患者が望む上でリスクをよく考慮した治療をする
  • 動脈炎性の否定だけはしておく(問診、採血検査など)
  • 目の治療・フォローと同時に、全身疾患を精査することが重要(採血、心電図、心エコー、頸動脈エコー、頭部MRI/MRAなど)

結論、科学的根拠が得られていないため統一されたプロトコールがない。

つまり、どれをやってもよいし、どれをやらなくてもよい。勿論治療してよくなる可能性も0ではないが、治療しなくても急性期を過ぎれば多少改善することもそれなりにある。そこは本人の治療希望の強さと、医療者側の説明次第である。

眼球マッサージは特にリスクもなく簡便にできるので、一般にされていることも多く、しておいて問題はないだろう。

本人、家族への充分な説明と、全身疾患を調べることのほうが大事だと思われる。

参考文献
・眼科の書籍たくさん
・Central retinal artery occlusion
・Central retinal artery occlusion-A new, provisional treatment approach
・【眼科救急疾患2020】Ⅶ.網膜硝子体 8.網膜中心動脈閉塞症:眼科62(11):1259-64
など

コメント

コメントする

目次