ベオビュ(ブロルシズマブ)、PDR(増殖糖尿病網膜症)に適応拡大

ベオビュ®硝子体内注射用キット120mg/mL」(一般名:ブロルシズマブ)は、2025年11月20日、増殖糖尿病網膜症(PDR:Proliferative Diabetic Retinopathy)に対して適応拡大されました。また、nAMDに対する用法として追加の承認もありましたので、そのあたりも踏まえて詳しく解説、検討します。

目次

PDRに対する用量、用法

〈増殖糖尿病網膜症〉
ブロルシズマブ(遺伝子組換え)として6mg(0.05mL)を 6週ごとに1回、通常、連続3回(導入期)硝子体内投与するが、 症状により投与回数を適宜増減。その後の維持期においては、 通常、12週ごとに1回、硝子体内投与。 なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、8週以上あけること。

上記が新たに追加されたPDRの用法であり、以下DMEに対する用法と似ていますが、連続投与回数が異なります。

〈糖尿病黄斑浮腫〉
ブロルシズマブ(遺伝子組換え)として 6mg(0.05 mL)を 6週ごとに 1回、通常、連続5 回(導入期)硝子体内投与するが、症状により投与回数を適宜減じる。その後の維持期において は、通常、12週ごとに 1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節する が、8週以上あけること。

nAMDに対する用量、用法

〈中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性〉
ブロルシズマブ(遺伝子組換え)として6mg(0.05mL)を導入期においては4週ごとに1回、 連続3回硝子体内投与する。または、6週ごとに1回、 連続2回硝子体内投与するが、症状により1回追加投与できる。 その後の維持期においては、通常、12週ごとに1回、硝子体内投与する。 なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、8週以上あけること。

太字下線部が新たに追加された用法です。今までnAMDに対しては導入期4w+維持期8w以上でしたが、今回から導入期も6w毎ででき、他の疾患、DMEとPDRと合わせて、すべて6wで統一できるようになりました。ただしnAMDだけは導入期は4wでもokです。最短投与間隔が6wと言われているものを4wで投与することはできないですが、4wのものを6wにすることは各自の采配で問題なくできるので、この一文を新たに入れる必要はあったのか?という気はします。

他の抗VEGF薬含めると、種類がかなり多くなってきて、使い方が異なる薬剤がでてくるとかなり面倒です。そういう点でベオビュは面倒な薬でもあるのですが、ひとまず、6w毎の導入期、8週以上の維持期と考えるとよいでしょう。

一方で薬価で考えるとベオビュは、第2世代抗VEGF薬の中では安くて、その点では優秀です。

PDRに対する従来の治療との比較

PDRに対する従来の治療は、汎網膜光凝固(PRP:Panretinal Photocoagulation)です。まず、2つの治療における簡単な結果と比較を記載すると以下のようになります。抗VEGF治療は、

  • 視力維持・改善、PDR退縮、DME抑制の点で少なくとも中期(1–2年)までPRP以上の成績を示す可能性が高い
  • 周辺視野温存の観点や、DME合併例では特にメリットが大きい

上記の結果は、下記に記載したそれぞれの治療の違いによります。

▶PRPの治療:

  • レーザー治療を終えたあとは、瘢痕部は生涯残存(萎縮が拡大する可能性もある)
  • その瘢痕網膜は視野障害・視野感度低下として残る
  • レーザー治療時にその治療への炎症反応としてDMEを生じることがある(→視力の悪化)
  • 効果は残存するので、追加治療は悪化しない限り不要

▶抗VEGFの治療:

  • 注射は継続的に必要である(病巣網膜からのVEGF産生が減らない限り、通常は必要と考える)
  • そのため注射治療による合併症のリスク、費用などがずっとかかる可能性がある
  • レーザー瘢痕は生じないので、視野感度低下は引き起こさない
  • DMEは生じないどころか、DMEに対する治療にもなるため、視力は維持、改善しやすい

PDRに対するベオビュ治療によるデメリット

前述の内容がPDRに対するベオビュの主なメリットになりますが、デメリットに関しても記載します。一部前段落と重複しますが、

  • 注射が継続的に必要であり、注射自体の合併症(眼内炎、IOIなど)、通院・治療費用がかかり続けること
  • 受診中断リスクが高い場合、来なくなった期間に悪化するリスクがPRPよりもずっと高い
  • PDRがかなり進行して増殖膜が強い場合、TRDになるリスクがある

といったものが挙げられます。

PDRに関しては、通院自己中断のリスクはやや高く、悪くなってから来る、というパターンはあるあるです。注射してよくなって、来なくなって、とても悪化してから来る、というパターンが多いと、結果的にはPRPしておいたほうが、長期的には視機能も良かった、となりかねません。

また、通院が問題なくできていた場合においても、一定期間で注射が必要になることを考えると、長期的には圧倒的に治療費用がかかることになります。1-2年の期間で考えても、注射治療のほうが治療費用は明らかに高いです。

実臨床におけるPDRに対するベオビュの使い方

以上からは、

  • 悪化しすぎていない目(増殖膜が強くない状態、NVが少しある程度)において
  • 定期的な通院が問題なく行える人でかつお金も十分に持っている人
  • PRPによる視野感度低下を起こしたくない人で、注射自体のリスクを理解ししている人

がPRPをしないで注射治療だけでやっていくことができる人になりますが、あまり現実的ではないと思いますし、基本的にはPRPが無難かと思います。(注射の一番の問題は通院中断と治療費用)

実際には、「悪いPDRを一旦沈静化させる、DMEを生じさせない目的で、PRPを開始すると同時にベオビュをうち、必要時に追加で注射をする」という形になると思います。私ならそのように使いますし、そのような目的で適応拡大させたならわかりますが、もし業者がレーザーより注射を勧めるような説明をしたら、これまで述べた問題点を全てぶつけて回答させることにします。

まとめ

  • ベオビュがPDRに適応拡大となった(導入6wごと3回、維持8w以上)
  • nAMDも導入6wごとでもできるようになった(導入4wでもできる)
  • 実際の使い方としては、PRPする際に併用して使う感じ・・・?

PRPは実際のところ時間が取られるので、やや面倒な治療ではあります。これでもし、注射治療で病院側も利益が多く取れる構造になると、PRPはせずに注射ばかりやって、これまで述べたような新たな問題点が出現する可能性もありますが、実際には注射手技料はそこまで高くないので、そのようになる可能性は高くはないかな、と予想します。

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