ここ数年で眼科領域の抗VEGF薬は種類が急激に増えました。薬価も2倍以上差があるものもあるため、効果だけでなく金額も考慮して薬剤を選択する必要もあります。
ということで、眼科領域の抗VEGF薬の薬価比較と、それぞれの薬剤を使ったときにかかる年間の薬剤費を比較しようと思います。(2025年5月)
抗VEGF薬、薬価比較表(2025年5月)
以下、安い順に並べています。
商品名 | 薬価 | 3割負担の薬価 |
ラニビズマブBS硝子体内注射用キット10mg/mL「センジュ」 | 74282 | 22284 |
ルセンティス硝子体内注射用キット10mg/mL | 97510 | 29253 |
ルセンティス硝子体内注射10mg/mL | 120351 | 36105 |
ベオビュ硝子体内注射用キット120mg/mL | 122822 | 36846 |
アイリーア硝子体内注射用キット40mg/mL | 137292 | 41187 |
アイリーア硝子体内注射液40mg/mL | 145935 | 43780 |
バビースモ硝子体内注射液120mg/mL | 163894 | 49168 |
アイリーア8mg硝子体内注射液114.3mg/mL | 181763 | 54528 |
一番安いラニビズマブBSと、一番高いアイリーア8mgでは、価格が約2.5倍になります。
薬代以外の診療費用
- 再診料75点
- 視力検査69点
- 眼圧検査82点
- 細隙灯顕微鏡検査48点(前眼部のみ)、110点(前眼部および後眼部)
- 精密眼底検査56点(片側)、112点(両側)
- OCT検査190点
- 硝子体内注射600点
注射する眼(片眼)だけ散瞳して診察した場合、注射手技含めて1182点で、3割負担で3546円。おおむね、この金額+薬代がかかります。
添付文書上の最短投与間隔で注射した場合の1年間での費用
1年間を52週とします。52週を投与間隔で割り切れない場合は、小数点記載としています。月1回投与は最大年間12回、4週投与は最大年間13回としています。疾患によって最短投与間隔が決まっている薬剤とそうでない薬剤があるため、単純比較はできませんが、以下のようになります。
商品名 | 年間最多使用本数 | 検査手技料含む年間最大費用(3割負担) |
ラニビズマブBS硝子体内注射用キット10mg/mL「センジュ」 | 12 | 30.9万 |
ルセンティス硝子体内注射用キット10mg/mL | 12 | 39.3万 |
ルセンティス硝子体内注射10mg/mL | 12 | 47.6万 |
ベオビュ硝子体内注射用キット120mg/mL | nAMD 8 DME 7.75 | 32.3万 31.3万 |
アイリーア硝子体内注射用キット40mg/mL | 12 | 48.4万 |
アイリーア硝子体内注射液40mg/mL | 12 | 56.8万 |
バビースモ硝子体内注射液120mg/mL | nAMD 8.5 DME, RVO 13 | 44.8万 68.5万 |
アイリーア8mg硝子体内注射液114.3mg/mL | nAMD, DME 8 | 46.4万 |
以下は薬剤ごとの金額の計算です。
ラニビズマブBS
最短投与間隔1ヶ月、年間MAXで12回
- 薬剤費:74282×12=891384。3割負担で267415円
- 検査手技料:11820×12=141840。3割負担で42552円
合計、約31万円
ルセンティスの場合
キットの場合、97510×12×3割=351036、検査料入れて約39万円
キットじゃない場合、120351×12×3割=433263、検査料入れて約47万円。
アイリーア2mg
最短投与間隔1ヶ月、年間MAXで12回
- 薬剤費:122822×12=1473864。3割負担で442159円
- 検査手技料:11820×12=141840。3割負担で42552円
合計、約48万円(キット)
キットじゃない場合
薬価145935×12×3割=525366、検査料入れて約57万円
アイリーア8mg
導入4週ごとに3回、その後最短投与間隔8週。
4週×3=12週、8週×5=40週で合計52週であり、年間MAXで8回。
- 薬剤費:181763×8=1454104。3割負担で436231円
- 検査手技料:11820×8=94560。3割負担で28368円
合計、約46万円
ベオビュ
nAMDに対して
4週ごとに連続3回、その後は通常12週ごとに1回、最低投与間隔は8週。→年間MAXで8回。
- 薬剤費:122822×8=982576。3割負担で294772円。
- 検査手技料:11820×8=94560。3割負担で28368円。
合計、約32万円
DMEに対して
6週ごとに連続5回、その後は通常12週ごとに1回、最低投与間隔は8週。→年間MAXで7.75回。
- 薬剤費:122822×7.75=951870。3割負担で285561円
- 検査手技料:11820×7.75=91605。3割負担で27481円
合計、約31万円
バビースモ
nAMDに対して
4週ごとに連続4回、その後は通常16週ごとに1回、最低投与間隔は8週
→4週×4=16週、8週×4.5=36週なので、年間MAX8.5回の投与。
- 薬剤費:8.5×163894=1393099。3割負担で417929円。
- 検査手技料:11820×8.5=100470。3割負担で30141円。
合計、約44万円
DMEに対して
4週ごとに連続4回、その後は通常16週ごとに1回、最低投与間隔は4週。→52/4=13、年間MAX13回投与。
- 薬剤費:13×163894=2130622。3割負担で639186円。
- 検査手技料:11820×13=153660。3割負担で46098円。
合計、約68万円
RVOに対して
4週以上あける。年間最大13回投与。
- 薬剤費:13×163894=2130622。3割負担で639186円。
- 検査手技料:11820×13=153660。3割負担で46098円。
合計、約68万円
コスパがよいのはどの薬剤か?
- 投与回数が少なくて
- 合計金額が安い
上の両方を満たす薬剤が、一番コスパがよいと考えてよいでしょう。
一番安いのはラニビズマブBSで、毎月(年間12回)受診して、年間約31万円。費用だけでいうと一番安いです。しかし効果は強くはないです。
通院回数が少ないのは、ベオビュ、アイリーア8mg、nAMDに対するバビースモで、年間最大約8回です。金額は、ベオビュ約32万円、アイリーア8mg約46万円、バビースモ約45万円です。nAMDに関しては、この3剤もしくはアイリーア2mgを使うことが多いと思います。このあたりの薬剤の直接比較の研究はあまりされていないと思うので難しいところですが、最大投与回数の注射が必要な病勢の場合、通院回数と金額でいうとベオビュが一番お得になります。
RVOに対する適応はベオビュ、アイリーア8mgにはないため、ラニビズマブ、アイリーア2mg、バビースモでの比較になります。それぞれ、最大年間12-13回注射し、ラニビズマブ約31万円、アイリーア2mg約48万円、バビースモ約68万円になり、金額差がかなり大きいです。ラニビズマブの効果の1.5倍以上なければ(通院回数が3分の2以下にならなければ)アイリーア2mgは使わない、ラニビズマブの効果の2倍以上なければ(通院回数が2分の1以下にならなければ)バビースモは使わないのが無難でしょう。
まとめ
- 抗VEGF薬の薬価は、7.4~18.1万までで、最大2.5倍以上の差がある
- 年間最大投与回数を投与した場合、一番安いのはラニビズマブBS
- 年間最大投与回数を少なくする(通院回数を少なくする)上で一番コスパがよいのはベオビュ
- RVOはラニビズマブBS基準で、1.5倍以上の効果持続があればアイリーア2mg、2倍以上の効果持続があればバビースモを使ってもよいが、そうでなければラニビズマブBSがコストを抑えられる
依然としてシェアはアイリーアがかなり多いですが、最近はさまざま抗VEGF薬がでて、それぞれの薬剤同士の決着のような論文は多くなく、医師の好みや採用の有無、研究中かどうかなどで、どの薬剤を使っているか変わってきます。
結局、求めるのは、安価で、通院回数が抑えられる薬剤(完治する、という意味も含む)になります。毎月投与が必要な患者さんの金銭負担は大きく、薬価が安い薬剤が必要なときもあります。一方で、薬価が高くても数回投与したあとに完全に治ってしまうのであれば、そちらのほうがよいとも思います。今回の記事では、この「効果」に関しては考慮していませんので、ご注意ください。
相当細かいマニアックな記事になりますが、誰かのためになれば幸いです。
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