虚血性視神経症(ischemic optic neuropathy: ION)について。
鑑別を行う上で、視神経炎が頻度が高く重要です。
目次
概要
視神経を栄養する血管がつまる、攣縮するなどにより視神経が虚血となり、重篤な視力低下、視野障害を残すことが多い疾患。基本的には失った視力や視野は回復しない。
- 血流障害が原因
です。
分類
- 動脈炎性虚血性視神経症
- 非動脈炎性虚血性視神経症
- 前部虚血性視神経症
- 後部虚血性視神経症
(巨細胞性動脈炎に伴う)動脈炎に伴うものと伴わないもので、
- 動脈炎性虚血性視神経症(arteritric ION: A-ION)
- 非動脈炎性虚血性視神経症(non-arteritic ION: NA-ION)
に分けられ
また、虚血部位が視神経乳頭付近か後方かによって
- 前部虚血性視神経症(anterior ION: AION)
- 後部虚血性視神経症(posterior ION: PION)
に分けられます。
動脈炎性の場合は、前部か後部かはあまり議論されず実質的には
- 動脈炎性虚血性視神経症
- 非動脈炎性前部虚血性視神経症
- 非動脈炎性後部虚血性視神経症
が大きな分類となると思います。
アイオン、パイオンなどと略して読みますが、アイオンだとA-IONなのか、AIONなのか、よくわからなくなるなと以前から思っているのですが、どうなんでしょう。
動脈炎性虚血性視神経症
- 動脈炎による虚血であり早急な治療が必要
- 無治療だと反対の目にも出現し、両眼失明に至る
一番重要な点を上記にまとめました。
発症眼の回復のための治療と、反対眼発症を防ぐための治療が最重要となります。
以下、細かな点を記載します。
- 70-80歳代の高齢者の片眼に、急激に発症する、高度な視力障害
- やや女性に多い
- 非動脈炎性に比べ視力障害の程度は重篤
- 白人ではやや多いが、日本人では稀
- 視神経乳頭を栄養する短後毛様動脈の血管炎
- 側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)、結節性多発動脈炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの基礎疾患からの血管炎により生じる
- 同側もしくは対側の側頭動脈領域の自発痛、圧痛、激しい頭痛、顎跛行(顎を動かすと痛い)
- 全身倦怠感、発熱、体重減少、食欲不振、関節痛、一過性黒内障発作などの既往、合併がみられる
- 視神経乳頭の蒼白浮腫、反対眼の乳頭は小乳頭ではなく火炎状出血も基本的には認めない
- ときに網膜中心動脈閉塞として発症
- 水平半盲が多いが、中心暗点なども生じる
- 赤沈ESRが亢進し、CRPも高値を示す
- von Willebrand因子が上昇する
- 確定診断は側頭動脈生検で、動脈内腔の狭窄・マクロファージの融合した巨細胞を認める(感度・特異度95%以上)
- 数日~数週間で1/3の症例で反対眼にも同様に重篤な視力低下を来す
非動脈炎性虚血性視神経症
- 動脈硬化などによる視神経への虚血が原因
- 基本的に治療はなく、全身状態の精査・基礎疾患の治療をすることが大切
前部と後部は詰まった血管の違い、視神経への血流が途絶えた位置の違いになります。
前部だと視神経乳頭での所見を認めますが、後部だと認めません。
非動脈炎性の場合は、動脈硬化変化が強い高齢者であることが多く、脳梗塞・心筋梗塞などの血管性疾患を合併しやすく、死亡率も高いです。従って全身疾患の精査や治療強化をすることが重要となります。
前部虚血性視神経症
- 突然発症する片眼性の視力・視野障害で数時間~数日で症状は固定する
- 起床時に発症することが多い
- 頭痛などの全身所見は伴わない
- 短後毛様動脈の虚血(血管攣縮)が篩状板付近で生じることで生じる
- 視神経乳頭の境界不鮮明な蒼白浮腫を来す。上半分、下半分などのように分節性に腫脹することが多い
- 反対眼の小乳頭を高頻度に認める(disc at risk)
- 蛍光眼底造影で初期では乳頭の分節状の充盈遅延、後期では乳頭からの旺盛な漏出を認める
- 脈絡膜背景蛍光の充盈欠損を認める
- 視神経乳頭は初期腫脹するが、1か月以降(~12か月ごろまで)から萎縮し、最終的に菲薄化する
- 水平半盲、特に下方水平半盲や下鼻側の水平性視野欠損を生じる。中心暗点などその他もあり
- 高血圧や糖尿病、貧血、ショックなど全身の循環障害を起こす基礎疾患を認めることが多い
- 有効な治療は存在しない。ビタミン剤や血流改善薬などの処方は、姑息的治療である
後部虚血性視神経症
- 外傷や手術時の大量失血・貧血や、眼虚血症候群などの基礎疾患を基盤に生じる
- 眼動脈から分枝する軟膜動脈叢が虚血になることで生じる
- 水平半盲や中心暗点、求心性視野狭窄などさまざま
- 発症直後は視神経乳頭に形状変化はなく、時間が経過すると視神経萎縮が生じる
- すなわち発症直後は眼底所見を認めないため、除外診断となる
- 有効な治療は存在しない。基礎疾患の治療を行う
鑑別
- 眼痛、眼球運動痛がある場合は視神経炎を疑う
- 高齢者の無痛性、片眼性の視神経乳頭腫脹の場合はAIONが最も疑われる
- ただし頻度は高くないが無痛性の特殊な視神経炎も存在するため注意が必要
- MRIでは、虚血性変化ではSTIRは正常と変わらない信号を示し、造影効果も認めない
まとめ
- 高齢者に多く
- 血流障害(虚血)が原因で
- 不可逆的な変化をもたらす
- 非動脈炎性は治療法はない
- 動脈炎性は早期治療が必要で、無治療だと両眼とも障害され最悪失明する
- いずれも全身精査が重要
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